石上優はやり直す   作:石神

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ミコちゃんだけafterが一個なのもアレなんで……


皇女の御心after②

アンチ!! 英語の「anti」を語源とする「反対・対抗・排斥」などの意味を表す言葉であり、特定の人物名を指して○○アンチ……という使い方をする場合もある言葉である。

 

「あぁ! 会長とかぐや様が連れ立って歩いて……尊みが溢れてしまいますわ!!」ハッハッハッ

 

「か、かぐや様の御髪が風で揺れて! かぐやしゃまの髪を撫でる風になりたぃ……」ハァハァ

 

……この様な度を越した信者がいる反面、どんな人間にもアンチは存在する! 2期連続で生徒会長を務め、文化祭の2日間開催許可をもぎ取った白銀御行とそれを補佐する四宮かぐや……絶大な人気を誇る2人にも、少なからずアンチは存在している。ではまだ1年生であり、生徒から嫌われ煙たがられやすい風紀委員に所属し、誰が相手でも臆する事なく己の中にある正義を全うする少女なら?

 

〈生徒会室〉

 

「石上、備品の貸し出し表は出来てるか?」

 

「うっす……もうデータはまとめてるんで、後で送っときますね。」

 

「あぁ、助かる。」

 

奉心祭が近いという事もあり、生徒会の仕事は山積みだ。体育館ステージの使用許可書の受理、各クラスや部活動の使用時間の割り当てや備品の貸し出しと中々な忙しさだ。四宮先輩や藤原先輩もそれぞれが忙しそうに書類と向き合っている。

 

「……」カチャッ

 

扉が開く音に顔を上げると、落ち込んだ様な表情を浮かべた伊井野が入って来た。

 

「……伊井野監査か、お疲れ。いきなりで悪いんだが……」

 

「……」

 

「……伊井野監査?」

 

「……伊井野さん?」

 

「ミコちゃん? どうしたの?」

 

何の反応も返さない伊井野を……先輩達は怪訝な顔で見つめている。

 

「……」

 

「……伊井野? どうした?」

 

伊井野はフラフラと此方へ歩み寄ると、僕の隣にぽすっと腰掛け……

 

「石上ぃっ……!」ギュッ

 

一言そう洩らすと、グリグリと頭を押し付けて僕に抱き付いた。

 

「ミコちゃん!? 何してるの!?」

 

「……あー、またアレか。」

 

伊井野の背中をポンポンと叩きながらそう言葉を洩らす。

 

「石上、アレってなんだ? 今の伊井野と何か関係あるのか?」

 

「まぁ……えーと、伊井野って風紀委員じゃないですか?」

 

僕は伊井野の頭を撫でながら、首だけを会長に向けて話す。

 

「あぁ、そうだな。」

 

「で……風紀委員だから当然風紀を乱す生徒には注意したり、学校に関係ない物を持って来てる生徒からは没収したりしてる訳です。」

 

「うむ……」

 

「まぁその時に憎まれ口を叩かれたり、悪口を言われたりする訳で……それで、今はちょっと精神的に参ってる状態なんですよ。」

 

「なるほど……」

 

「意外ですね……伊井野さんは、そういったモノには慣れていると思っていたのですが……」

 

「耐性があったとしても、キツいモノはキツいだろうしな……」

 

「ミコちゃん、大丈夫?」

 

「ぅ〜っ……」グリグリ

 

「あー、いや……前までは平気だったらしいんですけど……」

 

「……つまり、平然と出来なくなった理由があるという事か?」

 

「石上くん、理由って?」

 

「……」

 

僕は未だ抱き付いてまま、離れる気配の無い伊井野の頭を撫でながら答える……正直、自意識過剰みたいな気がするから言いたくないんだけど。

 

「理由は……僕みたいです。」

 

「ん?」

 

「石上君が……」

 

「理由?」

 

3人の先輩達は首を傾げて僕の言葉を待つ。

 

「えーと……今までの伊井野は、かなり気を張って生きてましたし……その反動、みたいな?」

 

「……なるほどな。石上という心の拠り所が出来たからこそ、悪意や敵意を受け止める部分が弱くなったという事か。」

 

「まぁ多分、そんな感じだと思います。」

 

「ん〜!」スリスリ

 

「ミコちゃんキャワー! 石上くん、私にも! 私にも触らせて下さい!」

 

「藤原、犬じゃないんだから……」

 

「ミコちゃん、私にも甘えて良いですよ!」

 

「……ぅ?」チラッ

 

「ほらほらー。」

 

「……ッ」プイッ

 

「あれぇ!? なんで!?」

 

「藤原さん、空気を読みなさい。」

 

「石上が居るのに、態々藤原なんぞに行く訳無いだろ……」

 

「言い方ぁ!!」

 

「あの、僕らちょっと出て良いですか? このままじゃアレなんで……」

 

「あ、あぁ……気にしなくて良いぞ。」

 

「じゃあ、ちょっと出ますね……ほら伊井野、こっち。」

 

「うん……」

 

………

 

伊井野を連れて廊下に出た僕は、抱き付いたままの伊井野へと視線を落とす。今までも何回かこういう事があったけど、他人が見てる前でこの状態になったのは初めてだ……大丈夫かコレ? 日に日にメンタルが弱体化してってない?

 

「うー、石上ぃ……」

 

伊井野に呼ばれた為、今までと同じ様に接して元に戻る様に努める。

 

「……よしよし、伊井野は頑張ってて偉いな。」

 

「私……偉い?」

 

「あぁ、滅茶苦茶偉いぞ。伊井野が頑張ってる事……僕はちゃんとわかってるから。」

 

「うん……」

 

「いつも寝る時間削って勉強してるし、風紀委員の仕事も、生徒会の仕事も真面目にやってて……伊井野は良い子だな。」

 

「うぅっ〜!!」ギュッ

 

「でも無理し過ぎるのはダメだぞ? 良い子でいるのに疲れたら……偶には悪い子になったって良いんだからな?」

 

「……うん。」ギュッ

 

……と、こんな感じだ。最初は数秒程度、頭を撫でて褒めるくらいだったのが、段々と撫でる時間や接触時間が増えて今に至っている……まぁ頼られるのは嬉しいし、可愛いから良しとしよう。

 

………

 

「うぅ、信じて送り出したミコちゃんが……」

 

「なんだその言い方……」

 

「はわぁ……」

(私も落ち込んでたら、会長が慰めてくれないかしら……)

 


 

〈ファミレス〉

 

「最近、石上君とはどんな感じ? 上手くいってる?」

 

「うん、順調だよ。」

 

「伊井野ちゃん、最近楽しそうだもんねー。」

 

「うん、最近は御守りもあるし……」

 

「え? 御守り? 何それ、見せて見せてー!」

 

「……誰にも言わない?」

 

「大丈夫、絶対言わないよ!」

 

「そ、それなら……」

 

伊井野はひらりと、卓上に一枚の紙を開いて置いた。その紙には〈婚姻届〉と記載されており、男性側には恋人である石上の名前が書かれていた。

 

「婚、姻……届!? ちょっ、えぇっ!? 伊井野ちゃん結婚するの!?」

 

「そ、それはまだだけど! 石上の名前が書いてあるコレを御守りにしてるだけだから!」

 

「なーんだ、私びっくりしちゃったよ……でも石上君、よく書いてくれたね?」

 

「あ、いや、その……石上は書いてる事を知らないんだけどね……」

 

「え? どういう事? もしかして伊井野ちゃん……自分で書いたの? 流石にそれは……」

 

「違っ!? ちゃんと石上が署名したもん!」

 

「……んー? じゃあなんで、石上君本人が書いてる事知らないの?」

 

「え、えと……風紀委員のアンケート調査って言って、婚姻届の上にカーボン紙を重ねてって感じで細工して……」

 

「」

 

「あ、あれ?」

 

「それはダメだよ!? 闇討ちだよ、反則だよ!」

 

「で、でも御守りにしてるだけだし……それに、石上にも無理し過ぎるくらいなら悪い子になっても良いって言われたし……」

 

「それ絶対、こういう事しても良いって意味で言ってないよ!?」

 

「……フフフ、口は災いの元だね。」

 

悪伊井野(ワルイイノ)ちゃんになっちゃった!?」

 

「えへへ、私悪い子になっちゃった……」

 

「照れながら言う内容じゃないよ!? それ絶対、石上君に内緒で出したらダメだからね!?」

 

「……」

 

「伊井野ちゃん!?」ガビーン

 

………

 

「……」

 

「ん? 大友、何か用?」

 

「(ご結婚)おめでとうございます。」ペコ

 

「え、何が? 何がおめでとう?」

 

「(式には)ちゃんと呼んでね?」

 

「何が? 何を呼べば良いの?」

 

友人の恋人への依存具合に……一抹の不安を覚えた大友だった。

 


 

〈伊井野ミコを裁きたい〉

 

「あ、あの……皆どうしたの?」

 

「被告人……ミコちゃん、心の準備は良い?」

 

「被告人!? こばちゃん、どういう事!?」

 

「えーと、罪状は……猥褻思考及び猥褻準備罪ってトコかな?」

 

「麗ちゃん!? 何言ってるの!? 」

 

「伊井野ちゃん、ネタは上がってるんだよ!」

 

「大友さんまで!?」

 

12月もあと数日で終わろうとしていたある日、私達4人は奉心祭の打ち上げをする為に集まる事になった。場所は多少騒いでも迷惑が掛からない、という理由で私の家になったんだけど……

 

「そ、そもそも、なんで私は縛られてるの!? それにネタって何の事!?」

 

「伊井野ちゃん……カツ丼食べる?」

 

「え? どっちかと言えば、天丼の方が……」

 

「大友さん、そういうのは無いから。あと伊井野もリクエストしないの。」

 

「うぅっ……じゃあリクエストしないから、コレ解いてよぉ!」ジタバタ

 

「「「ダメ。」」」

 

「なんでぇっ!?」ガビーン

 

「ミコちゃん、本当にわからないの?」

 

「よーく考えてみな。」

 

「田舎のお母さん泣いてるよ?」

 

「大友さんはドラマの見過ぎ。」

 

「えぇ……わ、わからないよぉ……」

 

「はぁ……いいよ。仕方ないから教えてあげる……原因はコレ。」

 

そう言ってこばちゃんは、つい最近買ったばかりのベッドを指差した。

 

「へ? な、なんでベッドが原因なの?」

 

「私があれだけ……身体壊すからベッド買った方が良いよって言っても買わなかったのに……」

 

「石上と付き合う事になった途端、伊井野はベッドを購入した。伊井野……コレってもう、そういう目的で買ってるって事でしょ?」

 

「エチエチだね。」

 

3人の言葉に、一瞬で顔が熱くなる。

 

「ち、違っ!? 違うの! 皆聞いて!?」

 

「ミコちゃん、普段は風紀を取り締まってる側なのに……」

 

「昼の風紀は取り締まるけど、夜の風紀は取り締まるつもりは無いって事ね……」

 

「エチエチだね。」

 

「だから違うのー!」

 

「私……コレにツッコミ入れるの嫌だったんだけど、まぁ折角だから聞くんだけどさ……」

 

「な、何、麗ちゃん……?」

 

「……なんでこんなに替えのシーツがあるの?」

 

麗ちゃんは、部屋の隅に積まれた新品のベッドシーツを指差した。

 

「っ!? そ、それは……」ダラダラ

 

麗ちゃんの問いに、冷や汗が止まらない。私はなんて答えればいいのかと悩んでいると……

 

「ミコちゃん、こんなに替えのシーツが必要になるくらい……するつもりなの?」

 

「す、するつもりって何の事?」

 

「エチエチだね。」

 

「さっきから、大友さんのソレ何!? そ、そのシーツはっ……期間限定で、ベッドを買うとオマケで付いて来ただけで!」

 

「ミコちゃん、それって何処の店? レシートは? ネット通販ならサイト名は?」

 

「そ、それはぁ……」

 

「……虚偽罪も追加しとこっか?」

 

「罪状増やさないでぇ……」

 

「それと……ミコちゃん、凄い下着買ったんでしょ?」

 

「ちょっと興味あるから見せてよ。」

 

「えっ!?」バッ

 

2人の言葉に、私は勢いよく大友さんへと視線を向けた。

 

「あれ? 言っちゃダメだったの?」

 

「そ、それはそうだよ! そんな恥ずかしい事!」

 

「でも石上君にも言っちゃったし、大丈夫かなって思って。」

 

「」

 

「うわぁ……」

 

「伊井野……ちょっと同情するわ。」

 

「なんで言っちゃったのぉ……」シクシク

(石上にエッチな下着を買ったのがバレてたなんて……)

 

私が知ったばかりの事実に打ちのめされているのに……

 

「……」ゴソゴソ

 

「まぁでも……」

 

「それとこれとは別だから……」

 

「「とりあえず、下着見せて。」」

 

こばちゃんと麗ちゃんは容赦が無かった。

 

「……し、知らないもん!」プイッ

(だ、大丈夫……アレは引き出しの1番奥に隠してるから、思いっきり漁らない限り誰にも見つからない筈!)

 

「あったよ!!」シュバッ

 

「なんで勝手に漁っちゃうの!?」

 

大友さんは、探し当てた下着を高々に掲げた。

 

「うーわっ……」

 

「コレ絶対、そっち系専門の店で買ったよね?」

 

「エチエチだよね。」←勧めた張本人

 

「ううぅ〜っ!?」

 

「ミコちゃん……高校生でコレは普通に引かれるんじゃ?」

 

「私が男なら間違いなく引く。」

 

「でも男子は、エッチな女の子好きらしいから大丈夫じゃないの?」

 

「限度があるでしょ……」

 

「うわーん!? もうやだー!!」

 

本日の勝敗、伊井野の敗北

結局この日は、最後までイジられた為。

 


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