特に〇〇√という縛りはありません。
√分岐から約1年後……石上は2年生に進級し、生徒会副会長になっています。
……マキちゃんの脳を破壊したくて仕方ない人がいますね( ;´Д`)
私は、秀知院学園中等部に籍を置く3年生。中等部からの外部生という事と、元々あまり人と話すのが得意ではない私自身の内気な性格も相まって……友人と呼べる人は居ない。秀知院は、日本の未来を担う様々な子息令嬢が集う事で有名だ。その所為か、この学園の人間は……家柄、財力、親の社会的地位などで他人を評価する人達ばかり。勿論、そうじゃない人も極少数ではあるけど在籍してはいる。例えば、隣のクラスの元総理大臣の孫娘である藤原萌葉さん。よく白銀さんと一緒に居る所を見るけど……この白銀さん、別に家柄が良い訳でもなければ、お金持ちでもなく、親が社会的地位が高い訳でもない。でも周囲からの評価はとても高く、男女問わず人気がある……所謂カリスマ性のある人だ。生徒会にも所属していて、先生達からの評判も良い……言ってしまえば私みたいな人間とは真逆の人間だ。まぁ別に、それに関して文句がある訳じゃない。私が言いたいのは、此処では突出した何かが有れば認められ、無ければ見下され、迫害されるという事だ。
夏休みを目前に控えたある日……体育の授業が終わり、着替えようと更衣室のドアノブに手を掛けた時の事だ。
「ねーねー!」
そう呼び掛けられ振り向くと、1人の女子が……僅かに口元を歪めながら私を見ていた。
「な、何か用?」
「いやさー、私ちょっと用事出来ちゃったから……代わりにアレ、片付けといてくんない?」
「え? それは……」
「じゃ、よろしくねー。」
その人は私の返事を聞く事もなく、更衣室へと入って行った。用具の片付けを押し付けられた私は、はぁ……とため息を1つ吐き、片付けに取り掛かった。次は移動教室だ、急がないと……
………
片付けを終え教室に戻ると、机の横に掛けた鞄から教材を取り出し急いで移動教室へと向かった。なんとかチャイムが鳴る前に移動教室へとたどり着いた私は、息を整えながら指定の席へと着く。私に片付けを押し付けた女子は、私が教室に入って来たのを一瞥するとニヤリと笑い友人との会話を再開する。
「はぁ……」
高等部に進学すれば、何か変わるのかな……私の思考を邪魔する様に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
………
授業を終えると、お手洗いを済ませて教室へと戻る。教室に近付くにつれて、ガヤガヤと騒がしい雰囲気が大きくなる。
「……?」
なんだろう? 何かあったのかな? 教室内は、普段の喧騒とは違った雰囲気が漂っていた。先程私に片付けを押し付けた女子が騒ぎの中心みたいだ。席に座りながら耳を傾けると、どうやら財布が見当たらないらしい……何処かに忘れて来ただけだろうと、騒ぎから意識を外し次の授業の準備に取り掛かった。教科書とノート、筆箱を並べていると、バンっと机の上に手を置かれる。見上げると……財布の事で騒いでいた女子と目が合った。
「そういえばさ、1番最後に移動教室に来たのって……アンタだったよね?」
「……え?」
「ちょっと鞄の中見せてもらうよ。」
「あ、あのっ……」
その女子は、私の返事も聞かずに鞄の中身を机の上へぶち撒けた。教科書やノートが散乱する中、見覚えのない財布が……転がり出て来た。
「コレ、どういう事?」
「……ッ!?」
その瞬間、ひゅっと息が止まった。そんな……そんな筈ない!私はそんな事してない! 何かの間違いだっ……私は次第に激しくなる心臓の鼓動を抑える様に、胸に手をやりながら叫んだ。
「ま、待って! 私は知らない……私じゃない!」
そう叫ぶ私を……クラスの皆は、冷え切った眼で見つめていた。その眼に、恐怖と不安で胸を締め付けられ……思わず後退る。
「違うっ……私は、知らないっ……私は……!」
譫言の様にそう繰り返す私の言葉に……答えてくれる人はいなかった。
その後……生徒指導室に呼び出された私は、2週間の停学を言い渡された……違うのに、誰にも信じてもらえなかった。それは先生も同じだった。何をしてるんだ、恥を知れ、お前には失望した……そんな言葉に対する私の弁明は、聞き入れられる事はなかった。大量の課題の提出を義務付けられ、懸命にソレを消化した。でも、反省文だけは……一文字も書く事が出来なかった。先生は反省文を提出しない私をこれでもかと叱り、罵倒し、怒鳴り散らした……辛くて、苦しくて、誰にも助けを求められない……そんな日が続き、気付けば学校は夏休みに入っていた。
………
夏休みだからといって、私への罰は終わらない。夏休み期間も、数日おきに呼び出され……反省文を出さない事に対して、叱られ怒鳴られ続けた。
どれだけ私はやってない、ちゃんと調べて欲しいと懇願しても受け入れられる事はなかった……私が外部生だから? それとも、何の取り柄も後ろ盾も無い人間だから? 口にする言葉を……信じる価値さえ無い人間だから……? その言葉を、問い掛ける事は出来なかった……
………
今日も、私は呼び出され説教を受けた。説教が終わると、生徒指導室を出て靴箱へと向かう。夏休みでも、部活や委員会で登校している生徒はそれなりに居り、同じクラスの人と鉢合わせしたら気まずいから、いつも逃げる様に帰っている。今日もさっさと靴を履き替えると、小走りで校門を目指す……その途中、聞き覚えのある声に足を止めた。
「あははは、今思い出しても笑えるわ。」
……あの人だ。どうやら、誰かと電話中らしい……私は隠れて話の内容に耳を傾けた。
「私がさー……財布が無いって態と騒いでねー。自分の鞄から財布が出て来た時のあの女の顔ったら……」
徐々に早くなる鼓動に耐える私とは正反対に、その女子は楽しそうに電話を続けている。
「……えー? いや、別に? ちょっとした憂さ晴らし……みたいな? 彼氏に振られて苛立ってたからねー。」
その言葉を聞き、私の頭の中は真っ白になった。
そんなくだらない理由で、私はこんな目に……
どうして、そんな事が出来るの……?
「バカみたい……」
口から溢れた言葉は、あの女子に向けた言葉か、或いは……私自身か。
指定された停学期間はとっくに過ぎた。しかし反省文を出さない私には、夏休みが終わっても登校は許されず……呼び出される事もなくなった。
「……」
一日中部屋に篭り、無意味に時間だけを浪費する日々。テレビをつけて色々な番組を見ても、心は動かなかった。好きだったお笑い番組、ドラマ、歌番組……そのどれもが、私の心を素通りして行く……そんな時だった、あのニュース速報が流れて来たのは……
〈四宮グループの内部抗争決着〉
四宮グループ……四大財閥の1つに数えられる超巨大組織だ。少し前に、支配権争いが始まった記憶がある。確か高等部には……四宮家の令嬢が在籍していると、クラスメイトが話してるのを聞いた事があった……どうせ暇だからと、暫く触れていなかったパソコンを起動した。
………
「酷い……」
1番始めに検索にヒットした記事を読む。その内容は、とても同じ日本で起こった事とは思えないモノだった。長男、次男の悪行とそれを咎め様ともしない四宮家当主……正常な人間ならば、反感を覚えるだろう。四宮グループの内部抗争については、公平に書かれている様で当主、長男、次男の書かれ方に……僅かだが敵意を感じた。逆に三男と長女については、その様な書かれ方はされていなかった……まるで、誰かが意図的にその様な書き方をして印象操作をしているみたいに……更に記事を読み進めて行くと、そもそもの内部抗争の原因が明らかになった。
「……ッ」
(嘘……そんな理由で?)
その理由は、四宮家の長女である四宮かぐやの……好きな人と結ばれたいという……ありふれたモノだった。政略結婚の道具にされる事を避ける為に、好きな人と添い遂げる為に、四宮かぐやは全力で抵抗したのだ。
……私だって同じ女だ。そんな使い方をされるのは嫌だし、同情もする……だけど、相手な四宮グループだ。敵対すれば日本には居られなくなるとまで言われているのに……
「いいなぁ……」
と震える声で呟いていた。
結果的に……四宮家は三男が継ぐ事になったらしい。長男と次男が支配権争いで消耗した所を長女と協力し、勝ち取った様だ。
四宮かぐやと私……大勢の仲間に助けてもらった人と、誰にも助けてもらえなかった……私。その余りにも違い過ぎる差に、また涙が流れた。
こんな都合の良い物語は、万人に与えられるモノではない。四宮かぐやには与えられ、私には与えられなかった……それだけの話で、私もと期待するのは時間の無駄だ。
「疲れちゃった、な……」
そうして、全てを諦めようとした時……その人は来た。
「……以上が今回の事件の全貌と思ってるんだけど、合ってるかな?」
その人は……誰にも信じてもらえなかった私の言葉を、闇に葬られていた事実と事件の真相を述べると、優し気な笑みを浮かべながら私へと問い掛けた。
「……どうして?」
「うん?」
「だって、誰にも……誰にも信じてもらえなかったのに……」
「……君はあまり、人と話すタイプではないらしいね。」
私はその言葉に小さく頷く。
「でもね、見てる人はちゃんと見てるもんだよ。少し調べるだけで、君がクラスに飾られている花の世話をしている事も、係りの子が提出し忘れた書類を職員室に持って行ってあげる様な子って事も知る事が出来た……君の事をちゃんと見てる人は居たんだよ。」
「……ッ」
その言葉に、私は堪える様に唇を噛んだ。
「君が窃盗をする様な子ではないという確信を持てば、後は虱潰しに情報を集め、精査し、組み立てれば良い……少し時間は掛かったけどね。」
「……私、何度も知らないってっ…ウクッ……やってないって言ったのに、誰にも信じてもらえなくてっ……! ヒグッ……」
「……」
その人は、ベッドに座ったまま泣きじゃくる私に近付くと……
「よく耐えたね、もう大丈夫だよ。」
そう言って、その人は私の頭を……とても優しい手付きで撫でてくれた。もう我慢しなくていいんだと、苦しまなくてもいいんだと伝えてくれているみたいで……今まで溜め込んでいたモノを吐き出す様に、私は声を上げて泣き続けた。
………
「……どうして、ここまでしてくれたんですか?」
少女は泣き腫らした瞳で、僕にそう訊ねた。
「……僕も昔、君みたいに誰にも信じてもらえない、助けてもらえない……そんな状況で耐えていた時があったんだ。今思えば……僕にも悪い部分はあったし、もっと上手く立ち回る事が出来ていればと思ったよ。でも大量の課題を提出して、親と教師の説教を何時間も聞かされ続けて……それでも、反省文だけはどうしても書けなかった。」
君と同じだね……その言葉に、少女は驚いた様に目を見開く。
「そ、それで……?」
「うん……そんな時に、助けてくれた人が居たんだ。」
今でも……その光景は鮮明に覚えてる。
突然開いたドア……黄金の飾緒が付いた制服に身を包んだ1人の男。
片手には資料らしき紙束を携え……僕が誰にも話さずに来た秘密を事もなげに問答無用で引き剥がした。
よく耐えたな。
お前は、おかしくなんてない。
暗闇の中で動けなくなっていた僕は……その人に救われたんだ。
「傲慢な言い方をすれば……託されたんだと、僕は思ってる。」
「……託された?」
「……俺に恩を返す必要はない、僕や君みたいな子が居たら助けてやれ……その人なら、きっとそう言うと思うから。」
あの時……会長に掛けられた言葉と、ポンと頭に置かれた掌の感触。それは、時間が巻き戻り……やり直す機会に恵まれ、前とは違う学園生活を送る事になっても……いつまでも色褪せる事なく、太陽の様に記憶の中で煌々と輝き続けている。
「明日からは、普通に登校出来るよ。君を陥れた生徒は居ないし、君の言葉を信じずに何の調査もしなかった教師も居ない。」
「……え?」
「……今回の件で、僕以外にも動いてくれた人達が居てね。その内の1人が……この話を聞いて、かなり腹を立てたみたいなんだ。」
「そう、なんですか……」
「うん、だから……もう大丈夫だよ。」
「……」
「……怖い?」
「……はい、ごめんなさい。」
「気にしないで。僕もそうだったから……クラスは違うけど、君の味方になってくれる子はちゃんと居るし、最初は保健室登校でもいいからさ。」
「そ、その……」
「うん。」
「……私、許さないとダメですか?」
「……」
「クラスの皆、私の言葉を無視して……冷たい眼と汚い言葉を投げ掛けて来たのに、今更謝まられたとしても……許せないかもしれません。」
「……良いと思うよ、許さなくても。」
「……え?」
「謝るって結局は、自己満足みたいなトコあるし……君が許せないなら、許しても良いと思えるまで……許さなくてもいいんじゃない?」
「い、良いんですか!?」
「なんだったら、謝られる度に言ってやりなよ……うるせぇ、ばーか……ってさ。」
「……ふふ、なんですかそれ?」
「良い言葉でしょ?」
「そう……ですね、良いと思います。」
「よし、じゃあ僕はこれで失礼するよ。」
「はい……あ、あのっ……名前、教えて下さい。」
「……僕の名前は、石上優だよ。また何か困った事があったら相談に乗るし、僕に出来る事ならチカラになるから遠慮なく言って。」
「は、はいっ!」
「それじゃ。」
………
家を出ると、ふぅ……と一息つく。会長みたいにスマートに出来たかはわからないけど……なんとかなって良かった。空を見上げると、遠く離れた地へと旅立った2人の先輩の姿が思い浮かぶ。
「……今頃、イチャイチャしてんのかな?」
様々な困難を乗り越え、遂に結ばれた2人の今に想いを馳せる。
……僕も、もっと頑張らないとな。
かつての僕を救い、暗闇から引っ張り出してくれた……
ー完ー
作者の自己満足しゅーりょーです。(;´д`)
なんか、書きたくなった(゚ω゚)