石上優はやり直す   作:石神

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ラブ探偵は連れ回したい

〈生徒会室〉

 

「今月出る〈モモちゃんは考えない〉の最新刊にDVDが付くらしいんですよ。」

 

「マジで?」

 

「はい、番外編2つとアニメ化する際に外された本編1つが同梱版として付くらしいんですけど、その番外編がエロに重きを置いた内容なんですよね。」

 

「……もしかして、ダークネスか?」

 

「はい、ダークネスです。まぁでも、個人的な事を言わせてもらうなら……普段からおっぱい所か、パンチラさえ無い漫画なのに、ここぞとばかりに……ひゃっはー! 規制緩いからエロい話をアニメ化してやるぜー!……みたいなのはどうかと思うんですよ。そもそも、モモちゃんは考えないにエロを求めている読者はそれ程多くなく、キャラ同士の掛け合い目当てで読む読者が大多数を占めていて……」

 

「滅茶苦茶語るな!?」

 

「まぁ本編の方はアニメから外されたとはいえ人気回ですから、コレ1つ入れるだけで硬派を気取っているファンの購買意欲を刺激する効果はあるでしょうし……」

 

「結構否定的だな……という事は、石上はDVD同梱版は買わないのか。」

 

「いえ、まぁ……最終的には買うんですけど。」

 

「結局買うのかよ。」

 

「買ったら会長にもDVD貸してあげますね。」

 

「……サンキュ。それはそうと……女性陣はどうした? 四宮は部活と聞いているが……」

 

「伊井野は風紀委員の当番なので、今日は欠席ですね。藤原先輩は……わかりません。」

 

「ふむ、まぁまだそれ程忙しくもないが……石上、ちょっと探して来てくれ。」

 

「うっす、じゃあちょっと外しますね。」

 

………

 

「……」

 

「……」

 

30分後、書類仕事に精を出している会長と机を挟む形で、藤原先輩は無言で佇んでいた……探偵帽子を被って。

 

「……どうした?」

 

「ラブ探偵です!」ドヤァ

 

「いや、お前じゃなくて石上の方な?」

 

懐疑的な視線を向ける会長の目には、藤原先輩の後ろに控える僕の姿はとてもアホに映っている事だろう。何故ならば……現在僕の頭の上にはアホと思われる呪いのアイテム、藤原先輩が被っている探偵帽子と同じモノが乗っているのだから。

 

「助手です!!」ドヤサッ

 

「何1つ事情がわからん……」

 

「そうですね、ユウ・H・ワトソンとでも呼んであげて下さい!」

 

「助手ってそういう意味の助手かよ。」

 

「……」

 

「藤原、石上の目が死んでるんだが……」

 

「石上くんの目なんて、大体いつもこんな感じですよ?」

 

「ついさっきまで生きた目してたわ……石上、なんでそんな事になったんだ?」

 

「はい、実は……」

 

………

 

「ふーん、ふーん♪……あ、石上くん!」

 

藤原先輩を探しながら廊下を歩いていると、向かいから探偵帽子を被った藤原先輩を発見した……この人、よくまぁ恥ずかしがらずにそんな格好が出来るよな……

 

「やっと見つけた……で、藤原先輩は何やってんですか?」

 

「ラブ探偵です!」

 

「なるほど、説明する気ゼロですか。」

 

「そうですね……恋という迷宮に迷い込んでしまった哀れな仔羊を探している最中……とでも言いましょうか。」ドヤァ

 

(大して上手くないし……)

「藤原先輩、またそんな事して……ホント、アホですよね。」

 

「……え? 石上くん、人のお饅頭勝手に食べておいて……頭高くない?」

 

「……」

(滅茶苦茶根に持ってる……)

 

リボンは極黒、器は極小……安定の藤原千花だった。

 

「いや、ちゃんと謝りましたよね?」

 

「失ったモノは二度と戻らないんですよ!?」

 

「まぁ……悪いとは思ってますが、そこまで仰々しい言い方しなくても……」

 

「石上くんが責任持って、皆の分も償うべきじゃないですか!?」

 

「なんで僕だけ……っていうか、藤原先輩は饅頭くらいで大袈裟なんですよ。食い意地張ってる人は、これだから……」ボソッ

 

「聞こえてますよぉ!? んもう許せません! こうなったら、石上くんにはしっかり責任取ってもらいますからね!!」

 

「えぇー、ダルぅ……」

 

「グダグダ言わない! ほら行きますよ!!」

 

………

 

「……という謎理論で連れ回される事になりました。」

 

「……お疲れ。」

 


 

〈昼休み〉

 

「……という事があってな。」

 

次の日の昼休み……白銀御行は同じクラスの風祭、豊崎と共に廊下で壁に凭れ掛かりながら雑談に興じている。普段は眼光鋭く周囲を威圧する生徒会長も、この時ばかりは年相応の顔を級友に見せていた。

 

「はー、その後輩も大変だな……石上だっけ?」

 

「良いように振り回されてるんだね。」

 

「いや、それがそうでもないんだよな……今回はアレだが、普段は藤原に対してキッチリ言いたい事言って制御も出来ているし……言うならば、対藤原特攻持ちみたいな。」

 

「格ゲーかよ、しっかし珍しいな……1年なら藤原に対して気後れの1つもしそうなもんだけど。」

 

「あ、思い出した。そういえば、風祭って1年の頃……藤原さんの事、ちょっと意識してたよね?」

 

「いや、そりゃするだろ? 俺は白銀と同じ外部生だったから、藤原がどういう奴かまだ知らなかった訳だし……放課後は直ぐに帰ってたしな。」

 

「そういえば、そうだったな……」

 

「あの頃は、越前さんにしょっちゅう呼び出されてたからなぁ……」

 

「まぁ、それはそれとして……その後輩君が居て良かったな。」

 

「あぁ、生徒会でも随分と助けてもらって……」

 

「いやいや、そういう意味じゃなくて……もしその後輩君が居なきゃ、男1・女3のハーレム生徒会が出来上がって、学園中の男子から顰蹙の嵐だったよ? 普通に俺も妬むし。」

 

「わかる。」

 

「おいおい、そんな理由でスカウトした訳じゃないぞ。」

 

「ははは、わかってるって。」

 

「まぁハーレムは冗談にしても、生徒会の女子ってレベル高いよね? あの新しく入った風紀委員の伊井野って子も、小さくて可愛いし。」

 

「豊崎……お前ロリ好きだっけ?」

 

「あくまでも一般論だよ。」

 

「ナチュラルに伊井野をロリ扱いするな。」

 

「俺も年下って趣味じゃないんだよなー。」

 

「わかる、どうせなら同い年が良いよね。」

 

「……藤原みたいなか?」

 

「藤原か……無理だな、多分制御出来ねぇ。」

 

「あー、振り回されそうではあるよね。」

 

「ただ、向こうから告って来たなら吝かじゃねぇけど!」

 

「「ねーよ。」」

 

「ラブ探偵です! ここから恋バナの匂いがしますよ?」

 

「……ども。」

(人前でこの帽子被るのメッチャ恥ずいな……)

 

3人の会話に急遽、ラブ探偵藤原とその助手である石上が乱入した。

 

「藤原……まだやってんのか、それ。」

 

「それで? 誰が惚れた腫れたなんですか?」ワクワク

 

「いや、そもそもそこまで行ってなくてよ……良い出会いがねーかなって……なぁ藤原、ダメ元で言うけど女の子紹介してくんねぇ?」

 

「……紹介した女の子からの私の評価が下がりそうだからイヤです!」

 

「滅茶苦茶突き放すじゃん……」

 

「辛辣過ぎない?」

 

「……出会いが欲しいなら縁結びの神様を祀ってる神社に行って、好みの人に態とぶつかれば勝手に運命感じてくれるんじゃないですか? どうせ似た様な人間ばっかり来てるんですから。」

 

「色んな人間にケンカ売ってんなコイツ……」

 

「白銀がスカウトしただけの事はあるね。」

 

「どういう意味だ。」

 


 

〈空き教室〉

 

会長達と別れた後……僕と藤原先輩は、使われていない空き教室を訪れていた。

 

「……で、なんで空き教室なんですか? 誰も居ませんよ?」

 

「ふふふ、実はこの空き教室……昼休みにカップルが密会しているという噂があるんです。」

 

「はぁ……それで?」

 

「後学の為に、ちょっと見学させてもらおうと思いまして……」

 

「普通に覗きじゃないっすか……やめた方が良いですって。」

 

「嫌な言い方しないで下さい! コレはあくまでも後学の為で……ラブ探偵には必要な事なんです! それに……空き教室とはいえ、学園内でイチャコラしてるカップルが悪いので、私に非はありませんし。」ぷひゅーぷひゅー

 

(責任転嫁……しかも口笛吹けてないし。)

「カップルの密会現場を覗き見るとか、藤原先輩って結構……」

 

「結構!? 結構……なんですか!?」

 

「むっつりですよね?」

 

「そ、そんな訳ないでしょー!? なんでそんな事言っちゃうの!?」

 

「いやだって、カップルの密会現場を見たいだなんて……よっぽど性に対する興味がおありなんだなと。」

 

「だから違います! 私はただっ……!?」

 

「……藤原先輩?」

 

藤原先輩は、突然黙り込むとバッと廊下の方角を見て固まった。

 

「……シッ! 誰か来ます、隠れて下さい!」

 

「隠れろったって、何処に……」

 

「ッ……こっちです!」グイッ

 

「え、ちょっ……!?」

 

バタンという音と共に、藤原先輩に狭い空間……掃除用具ロッカーへと押しやられた。

 

「藤原先輩何してんですか!?」

 

「シッー! 静かにして下さい!……来ました!」

 

藤原先輩の言葉に息を殺して教室の入り口に視線を送ると……

 

「……本当に誰も居ないみたいだね。」

 

「う、うん……」

 

翼先輩とマキ先輩が入って来た。

 

「」

(うっわ、普通に知り合いが来た……)

 

「マキちゃん……」

 

「つ、翼君……」

 

2人は周囲を見回し誰も居ない事を確認すると、翼先輩はマキ先輩の肩に手を置きゆっくりと顔を近付ける……

 

「」

(え、地獄? 知り合いのラブシーン見せられるとか……あれ? 藤原先輩妙に大人しいな……)チラッ

 

微動だにせず、隙間から外を眺める藤原先輩へと視線を向けると……

 

「はえー……」ドキドキ

 

(興味津々かよ。まぁでも、マキ先輩が幸せそうでなにより……ん? 廊下の隅に誰か居る?)

 

ロッカーの隙間から見える範囲のギリギリの場所に、誰かが立っているのが見えた。目を凝らして見ると、それは……

 

「……」

 

柏木先輩だった。柏木先輩は、2人がイチャついている姿を黙って見つめている。

 

「」

(アカン)

 

見てはいけないモノを見てしまった……というか、見たくなかった。キリキリと胃が痛み、背中を冷たい汗が伝って行く。先程までマキ先輩の幸せそうな顔を見て、ちょっとした満足感を感じていた僕だけど……最早、目の前のバカップルのイチャつきなんて気にならなかった……今僕の頭の中を支配しているのは唯1つ……

 

(バレたらヤバい。)

 

……という事だ。このまま息を殺して時が来るのを待つしか、僕に生きる道は……

 

「……はあぁっ!? ちゅーした! ちゅーしましたよ!?」

 

「っ!? シッー! バレたら消されますよ!?」

 

「消されるの!?」ガビーン

 

………

 

あれから更に10分程、2人はイチャついた後教室を出て行った。いつの間にか柏木先輩の姿も無くなっており、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「いやー、ドキドキしましたね! ちょっと悪い事してる気分でしたし!」

 

「確かに(恐怖で)ドキドキしましたね……あと、普通に悪い事してましたからね?」

 

「えへへ、じゃあ2人だけの秘密ですね!」ニパー

 

「……そうっすね。」

(まぁいっか、バレなかったし……)

 


 

〈石上家自室〉

 

帰宅後……制服をベッドに脱ぎ捨て着替えていると、スマホがメッセージの通知を知らせる。通知画面を見ると、送り主の名前は表示されていない……僕のスマホには登録されてないけど、向こうは僕の番号を知っているって事だろうか? そんな事ある? と疑問を持ちながらもメッセージ画面を開くと、そこにはこう書かれていた。

 

〈覗きは駄目だよ?〉

 

「」

 

バレていた。




白銀と会話していた風祭、豊崎について知らない、覚えてない人への補足……

風祭豪、財界探偵越前はじめに弟子入りし、数々の難事件を解決して兄との再会を果たした過去有り。白銀御行と同じ外部生。

豊崎三郎、かつて白銀との成績争いで妨害工作を行ったが、最終的に正々堂々の勝負を挑んだという過去有り。普段は糸目だが、本気を出した時だけ開眼する。

モブにドラマあり過ぎませんかね……

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