石上優はやり直す   作:石神

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感想、評価ありがとうございます(゚ω゚)


石上優は考えたい

放課後……藤原先輩が何かやって来ようとしてたから、直前に起きてカウンターをお見舞いしようと様子を見ている内に、藤原先輩の普段とは違う態度と頭を撫でられた事に動揺して起きるタイミングを逃し、挙げ句の果てに最後は頬に藤原先輩の唇が当たるというファンタスティックな結果になった……何がなんだかわからない。これは本当に現実か!? これじゃまるで、藤原先輩が僕の事を好きみたいじゃないか!?

 

〈生徒会室〉

 

衝撃的な体験をした翌日……僕は生徒会室で机を隔てた形で、四宮先輩と向き合っていた。

 

「石上君、もう体調は大丈夫なの? 昨日は随分と様子がおかしかったみたいでしたけど……」

 

「はい、別に体調が悪かった訳でもないんですけど、色々ありまして……」

 

「そう、それで? 石上君は何が聞きたいのかしら?」

 

「藤原先輩の事について少し……」

 

「あぁ、そういえば……お泊りした時の藤原さんについて話してませんでしたね。」

(さて……どんな展開が望ましいかしら? お泊りの時の事を全て話せば、藤原さんの石上君に対する好意がバレる……かと言って、普段の態度から石上君が藤原さんを異性として見ていないのは明白。なんとか石上君が藤原さんを意識する様に仕向けたい所ですが……)

 

「あぁ、いえ……その事についてはもういいっていうか……」

 

「もういい……とはどういう事かしら?」

 

四宮先輩の言葉に、昨日の出来事が脳内に去来する。藤原先輩に頭を撫でられた事、いつもお疲れ様と労いの言葉を掛けられた事、そして頬に触れた唇の感触……そこまで思い出して、カッと熱くなった顔を逸らしながら答える。

 

「あ、いや……なんでもないっす。」プイッ

 

「……そう。」

(え、えーっ!? 石上君、何その反応!? 絶対何かあった時の反応じゃない! まさか、藤原さん……既に石上君へ何かしらのアプローチを!?)

 

「すいません……四宮先輩が態々調べてくれたのに……」

 

「いえ、気にしないでいいわ。それよりも、お泊りの件ではないのなら何が聞きたいのかしら?」

 

「あー、変な意味じゃなくてですね……藤原先輩ってどういう男性がタイプなのかなと。」

(藤原先輩があんな事をした理由……自惚れた事を言えば、僕の事が好きだからってのが一番無理がない理由なんだけど、それ以外の理由があるなら早めにハッキリさせておきたい。僕が藤原先輩の好きなタイプに掠ってもないのなら、昨日の行動も別の理由があるって事になるし……)

 

「藤原さんの好きなタイプ……ね。」

(滅茶苦茶意識してるー!? え、もしかして……昨日石上君の様子がおかしかったのって、藤原さんの所為!? 藤原さん……I.Q3の胸ばかりに栄養が行ってる脳カラだとばかり思っていましたが、中々やるじゃない!)

 

………

 

その頃の藤原……

 

「しかし意外だな、藤原の方から手伝わせて欲しいなんて言って来るとは……」

 

「私にも色々あるんですよ……今はとりあえず、問答無用で頭の中がカラッポになる会長のポンコツさがどうしても必要なんです!!」

 

「馬鹿にしてんのか。」

 

………

 

「……そうね、自分と対等に接してくれる人じゃないかしら?」

 

「……対等に接してくれる?」

 

「えぇ……生まれが良いとその人個人ではなく、その背後にある家柄、経歴、権力に目を奪われる人は多いの。藤原さんには、同性の友人は沢山居ますけど、異性の友人は私が知る限り会長だけ……そして会長を除けば、藤原さんと唯一対等な関係を築いているのは……石上君、貴方だけよ。」

 

「僕だけ……」

 

「それにね? 藤原さん、なんだかんだで石上君に構ってもらってる時が一番楽しそうだもの。」

(これくらいの援護はしてあげなきゃね。)

 

「そう、ですか……」

 

「あら? もしかして、石上君照れてるの?」

 

「……別に照れてませんけど?」

 

「ふふ、本当かしら?」

(これは、かなり期待出来るんじゃないかしら?)

 

………

 

その頃の藤原……

 

「今までの地獄(特訓)が報われるんだ……とかちょっとでも期待した私が馬鹿でした! あやまれー! 音楽と全ての表現者と私にあやまれー!!」

 

「そこまで言うか……」

 

「でもいい……いいですよ。いい感じに頭の中がカラッポになって来た気がします……」

 

「割と元からだろ。」

 

………

 

「だ、だって藤原先輩ですよ? 平気でゲームでズルするし、食い意地張ってて、ゴキブリを素手で掴める系女子の藤原先輩ですよ!?」

 

「それについては擁護出来ないけど……石上君、貴方が藤原さんに抱いてる感情は、友情? それとも愛情? いずれにせよ……貴方がちゃんと考えて答えを出してあげてね?」

 

「え?」

 

………

 

その頃の藤原……

 

「友情? 愛情? 千花参上! イエア!!」

 

「だから! ちゃんと韻を踏めって言ってんだろ!! 真面目にやれ、藤原ぁ!!」

 

「会長にそれ言われるの、なんか釈然としないんですけど!?」

 

………

 

「気付かないとでも思ったの? 藤原さんと何かあったのでしょう?」

 

「……」

 

「安心して、追求するつもりはないから。」

 

「……ありがとうございます。」

 

「でもね、石上君。これだけは言わせて……」

 


 

帰宅後、自室で1人……四宮先輩に言われた事を思い出す。

 

……石上君、自分の気持ちに正直にね。

 

「自分の気持ちに正直に……か。」

 

僕は藤原先輩の事をどう思ってるんだろうな……僕は目を閉じると、記憶の糸を手繰り始めた。

 

石上くん……きもーっ!

 

「……」

 

一番最初に思い出したのがコレって……そりゃ赤ちゃんの臭いとか例えた僕も、今思えば悪かったけどさ……僕は気を取り直して思考を続ける。

 

皆でやりましょう! ほら、石上くんも!

 

あぁ、そうだ……藤原先輩が居なきゃ、あんなに早く生徒会に馴染むなんて出来なかった筈だ。生徒会に入った当初は、助けてくれた会長相手でさえ少し距離があったし、四宮先輩は凄く怖くて……いつか殺されるんじゃないかと怯えていた。会計として任された仕事はキッチリ終わらせてはいたけど、最初の頃は生徒会室には打ち合わせ程度でしか寄らずに仕事は持ち帰っていた。

 

……いい人達って事はわかっていた。女子にストーカー紛いの事をした問題児……そんな噂に惑わされる事も無く、僕を1人の人間として接してくれたのだから……

 

石上くん、ゲームをしましょう!

 

そう言って藤原先輩は、生徒会室に色んなゲームを持って来ていた。

 

えへへー! 次はコレです!

 

パッと花が咲いた様な笑顔で、真っ直ぐな瞳を向けられた……

 

年に一度の誕生日は、私だけを特別扱いして欲しいのに! 石上くんと一緒だったら私だけ特別じゃなくなるでしょ!! バカー!

 

……恥や外聞さえも投げ捨てて、思った通りに発言し、行動する藤原先輩のそういう所は尊敬出来るけど……

 

えへへ、石上くん好きだよ。

 

「くっ!?」

 

違う! アレは揶揄い目的だから! 愛してるゲームで藤原先輩が勝つ為に言ったヤツだから……とにかく違う! 他! 他の事を思い出して……

 

藤原先輩好きっす。

 

ちゃんと知ってるから心配しなくていいよ。

 

「……アレが一番ズルかったな。」

 

暗くなり始めた部屋で、僕の頭の中では前回と今回の……2つの記憶が綯交ぜになって浮かんでは消えていった。

 


 

〈中庭〉

 

「っ! 藤原先輩……」

 

数日後の放課後、中庭を歩いている藤原先輩を見掛けた。ここ数日……中々会う機会にも恵まれず、会っても周囲に人が居る状況だったりと話し掛ける機会を逃し続けていた僕は、小走りで藤原先輩へと近付いた。

 

「藤原先輩!」

 

「あ、石上く……」ポタッ

 

「ちょっ、藤原先輩!? 鼻血が出てますけど、大丈夫なんですか!?」

 

「あ、コレはその、男同士の愛っ……友情を間近で見学する機会にあやかりまして……」

 

「そうですか……とりあえず、これからは藤ナマ先輩って呼んで良いですか?」

 

「意味わかんないけど、なんかヤダ!」

 

「はぁ……とりあえず、コレ使って血を止めて下さい。話はそれからで……」

 

僕は溜息を吐きながら、藤原先輩にポケットティッシュを渡した。

 

「話? 話って何ですか?」

 

「あー……まぁ後で言います。それより保健室とか行かなくて大丈夫ですか?」

 

「そこまでじゃないから大丈夫ですよ! でも、ちょっとトイレ行って来ますね!」

 

「あ、はい。」

 

10分後………

 

「えへへ、やっと止まりました!」

 

「……気を付けて下さいね。」

 

「石上くん……それで、話ってなんですか?」

(だ、大丈夫です! 会長のポンコツっぷりのお陰で、頭の中は空っぽになってますから変に慌てたりなんてしません!)

 

「……まだ色々ごちゃごちゃしてて、上手く考えられない事もあるんですけど……」

 

「?」

 

「ちゃんと考えて答えを出すので、もう少しだけ待っててもらえますか?」

 

「よくわかりませんけど、わかりました!」

 

「ハハ、どっちですか……まぁ、それだけ言いたかったんです。」

 

「ふーん……じゃ、生徒会行きましょうか!」

 

「……そうっすね。」

 

いつ答えが出るのか……それはわからない。だけど、自分で思っていたよりも早くその答えが出る事になるとは、その時の僕は知る由もなかった。

 


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