〈藤原家〉
「姉様、文化祭だよ!」
会長とハーサカ君の愛っ…友情を目の当たりにした日から数日後……自室で寛いでいると、萌葉がそんな事を言いながら部屋に入って来ました。
「萌葉ー? 文化祭がどうかしたの?」
「寝そべってポテチ食べてる場合じゃないよ、姉様! 来週の土曜日に中等部で文化祭があるでしょ? それに石上先輩を誘って、一緒に遊びに来なよ! デートだよ、デート!」
「……萌葉、何か企んでるでしょ?」
「企んでるなんて……そんな訳ないじゃない!」
「……本当に?」
「別に姉様をイジって遊ぼうとか!」
「……」
「石上先輩が居る事を利用して、姉様を精神的に追い込んで危機感を煽ろうとか!」
「……」
「全然考えてないもん!」ソワソワ
「絶対考えてるでしょー!? 滅茶苦茶そわそわしてるじゃないですか! 私をイジって遊んで、石上くんを利用して精神的に追い込もうって考えてるでしょー!! 却下! 却下です!」
「ふーん……でも本当にいいの? もしデートに誘わないと……」
「さ……誘わないと?」
「石上先輩に……」
「い、石上くんに?」
「……豊姉様を
「」
「それが嫌だったら……わかるよね?」
「うあーん!? 妹が脅迫まがいの事まで言う様になっちゃいましたー!?」
〈生徒会室〉
萌葉に背中を押された……というより突き飛ばされた翌日の昼休み、私は生徒会室でお昼ご飯を食べていました。かぐやさんから石上くんが昼休みに仕事をしに来る……という情報を聞いて待っているのです。それもこれも、昨日の萌葉との遣り取りが原因でした……
………
「も、萌葉! お姉ちゃんを脅すなんて……そんな悪い子に育てた覚えはありませんよ!?」
「そりゃー、私を育てたの姉様じゃないしねー。早速、豊姉様に話を通して……」
「ストーップ!! じ、じゃあ北高! 北高の文化祭は今週末ですよね!? 石上くんを文化祭に誘うならそっちにします!」
(中等部の文化祭なんて行ったら、萌葉にどれだけ冷やかされるかわかりません!)
「あー、北高も結構レベル高いって聞くよね。」
「そ、そうですよ! だから姉様に言うのは無しにして下さいね!?」
「まー、姉様がちゃんと誘うなら、私はどっちでも良いから頑張ってね。」
(中等部の文化祭なら、私達の様子を見に行くっていう理由で誘いやすいかなと思ったんだけど……姉様、ちゃんと誘えるのかなー?)
………
「はぁ……萌葉はいつからあんな悪い子になっちゃったんでしょう……」ガチャッ
「あれ? 藤原先輩、どうしたんですか?」
「あっ、えぇと……忘れ物を取りに来たついでに、お昼を食べて行こうかなと思いまして……」
「へぇ、僕は仕事しに来ただけなんで、気にせずに食べてて下さい。」
「は、はい……」
「……」カタカタ
「……」モグモグ
石上くんは向かいの席に座ってノートパソコンを開くと、仕事に取り掛かり始めました。少しの間……石上くんがキーボードを打つ音を聞きながら、お弁当を口に運びます。
「ふー……」
お弁当を食べ終わった頃、石上くんも区切りのいい所まで終わったらしく、溜息を吐きながら背凭れに体を預けました。
「……っ!」
今生徒会室には、私と石上くんの2人……話し掛けるなら今しかありません!私は勢いよく顔を上げると、石上くんに話し掛けました。
「あ、あのっ、石上くん! 明後日の……」
(アレ? 萌葉や圭ちゃん達が居る中等部の文化祭ならまだしも、他校の文化祭に誘うのって……)
「はい? 明後日の……なんですか?」
(め、滅茶苦茶ストレートなデートのお誘いになっちゃいません!?)
「え、えぇと…そのぉ……」モジモジ
「……藤原先輩?」
「……ッ」
(は、恥ずかしいっ……で、でも今誘わないと放課後は他の人も居るから余計に誘いづらいし、そもそも北高の文化祭は明後日だし……うあーん!! かぐやさん助けて下さいぃっ!!)
………
その頃のかぐや……
〈2年A組〉
「はぁ……」ドヨーン
(ああぁっ!? 無意識とはいえ、会長からのデートの誘いを断るなんて……誰でもいいから昨日の放課後まで時間を戻してくれないかしら……)
かぐやは昨日の放課後、白銀からの文化祭デートを流れで断ってしまっていた。
「……」
(……かぐや様のことだから、そんな事考えてるんだろうなぁ。)
「ねぇ早坂、今日の四宮さん元気なくない?」
「ねー! マジ心配ー☆」
(まぁ、完全に自業自得な訳だけど……)
………
「藤原先輩、どうしたんですか?」
「え、えぇと……あっ! ち、調査です!!」
「……調査?」
「はい! 奉心祭までもう2週間を切ってますよね? 今年は会長の尽力で2日間開催になりますけど、その分アクシデントが起こる可能性は高くなると思うんですよ!」
「……まぁ、そうですね。」
「だ、だから……明後日、北高の文化祭に私と石上くんで調査に行きましょう!」
「っ!?」
「だ、ダメ……ですか?」
「……」
「……い、石上くん?」
(あわわっ、返事がない……や、やっぱり、いきなり誘ったのはマズかったんじゃ……)
返事が無い事に不安を煽られ、沈んだ顔で石上を見つめる藤原……しかし! デートに誘われた石上本人も、内心は穏やかではなかった!
「っ!?」
(こ、これっ……調査って名目でデートに誘われてるっ!?)
「だ、ダメ……ですか?」
「……」
(デート!? 藤原先輩と!? )
「……い、石上くん?」
藤原先輩は、不安そうな瞳で此方を見つめている……藤原先輩の気持ちはよくわかる。藤原先輩は今、断られたらどうしようという不安に耐えながら……勇気を出して誘ってくれてるんだ。此処で茶化したり、不誠実な返答は出来ない。
「……そうですね、僕も調査には行きたいと思ってたので……行きましょうか。」
「ほ、ホントですか!?」
「はい、嘘なんか言いませんよ。」
「じ、じゃあ明後日! 北高の校門前で、待ち合わせしましょう!! 」
(やった! やりましたよ、萌葉!)
「わかりました、何時集合にします?」
「11時にしましょう! そのままお昼ご飯も文化祭の出店で済ませる感じで!」
「わかりました……楽しみですね。」
「……っ! はい! 楽しみです!!」ニパー
〈生徒会室〉
「こんちゃーす。」
放課後……生徒会室を訪れると、既に僕以外の全員が集まっていた。
「全く、男子ってホント……」プンスカ
「……会長、伊井野どうしたんすか?」
「あ、あぁ……先程、男子が女子を文化祭デートに誘っている所を取り締まったらしくてな……」
「あ、そういえば、さっき会長の友達の……オールバック先輩も、文化祭デートにガチ勢先輩を誘って断られてましたよ。」
(……風祭はわかるが、ガチ勢先輩?)
「石上、それは見て見ぬ振りしてやってくれ。」
「他にも公衆の面前で異性交遊を持ち掛ける男子が!? ホント最低ね!」
「……別に異性と文化祭に行くくらいは良くないか?」
「ダメ! 不純異性交遊は取り締まり対象よ!」
「……」
(み、ミコちゃんにはバレない様にしないといけません!)
「藤原先輩もそう思いますよね!?」
「えぇっ!? わ、私は……そこまで厳しく取り締まらなくてもいいんじゃないかなぁ……と。」
「ま、まさか……藤原先輩も不純異性交遊を!?」
「えぇっ!? ち、違いますよ!? 私は別にそんなっ……!?」
「……藤原先輩、念の為お聞きしますけど……明後日の予定は何かあるんですか?」
「っ!? え、えぇと……ぷ、プライベートな事は、ちょっと……」
「……まさか藤原先輩、明後日の北高文化祭に行ったりっ……!」
「っ!?」
「男子と待ち合わせしたりしてませんよね!?」
(このままじゃっ……か、斯くなる上は!)
「……ミコちゃん、シーっです!」
「え? し、シー?」
「はい、この話は此処でお終いです。」
「で、でも藤原先輩! 私は風紀委員としてっ……」
「……もし、またウルシゴキブリさんが出ても助けてあげませんよ?」
「」
藤原の
「もしかしたら、今この瞬間にも……ミコちゃんに飛び掛かろうとするウルシゴキブリさんが、何処かに潜んでるかもしれませんね?」
「ひっ!?」
「……じゃあミコちゃん、この話はコレでお終いって事で良いですね?」
「は、はい……」ブルブルッ
「ほっ……」
(ふぅ……なんとかなりました!)
藤原、週末の文化祭デートの妨害因子を見事に排除する事に成功。そして……
「……藤原さん、伊井野さんに何を言ったんですか?」
「……藤原書記、伊井野監査に何を言った?」
「少し世間話をしました!」
「……」
(藤原先輩、何かエグい事言ってそうだな……)
「怖いっ……ゴキブリ怖いっ……」ガタガタッ
伊井野のトラウマが再発した。