〈生徒会室〉
「それでですね? 石上くんったら、文化祭の調査をデートだと思ってたらしくて……」
「へぇ、そうなの……」
「ま、まぁ私もデートと言うのは、吝かではないので否定はしなかったんですけど……」
「そう……」
「あ、それとですね! 私が待ち合わせ場所に着いた時に、石上くんが私の服装を見て似合ってるって言ってくれたんですよ! えへへー、困っちゃいますよねー!」
「……」
(う、羨ましいっ! 私だって……会長の誘いを無意識に断らなければ、会長と文化祭デートが出来たのに!!)
「えへへへー!」ニパー
「……藤原さん、デートは楽しかった?」
(まぁいいわ、だって……)
「はい! めちゃくちゃ楽しかったです!!」
「ふふ、なら良かったわ。」
(こんなに嬉しそうにしているんだもの。)
〈中庭〉
チュンチュンという小鳥の囀りを聞きながら、僕と会長は芝生の上で寝転んでいた。
「……マジで?」
「マジです。」
「そうか、石上が藤原の事をなぁ……」
空を見上げながら、会長はそう洩らした。会長には藤原先輩と北高の文化祭でデートをした事や藤原先輩との間に起きたあれやこれやを説明している。
「それで、告白はしないのか?」
「告白……」
別に告白は男からするべき……なんて性差別な考えを持っている訳ではないけど……
「ちょっと……負い目があるというか、なんと言いますか……」
「……負い目?」
「はい……僕が偶々あの時起きていたからこそ、藤原先輩の好意に気付けた訳じゃないですか? 惚れられているっていう有利な立場、告白しても絶対に傷付く事がない安全圏……短期間とはいえ、そういう場所に身を置いていたのに罪悪感を感じるというか……」
「はぁ……石上も存外、面倒な事を考えるよな。」
「そうかもしれないっすね……」
「……恋愛は好きになった方が負け、という言葉があるだろう?」
「え?……はい、ありますね。」
「それはある側面に於いては正しいだろう。告白してOKを貰い付き合う事になったとしても、告白したという事実は……無意識に自身の立場が下だと思わせる事もあるかもしれないからな。ただな……先に好きになったという事は、相手よりも早く、相手の良い所を見つけた……そういう見方も出来ると俺は思う。」
「相手より早く、相手の良い所を……」
「あぁ、そういった意味では……藤原に軍配が上がる。」
「……」
「先に石上を好きになった藤原の負けとも言えるし、石上の良い所に気付いて先に好きになった藤原の勝ちとも言える。まぁ要は……」
会長はそこで一呼吸間を置くと、真上に向けていた顔を少しだけ此方に傾けながら言った。
「引き分けだ。」
「……そんなもんですか。」
「あぁ……どちらにせよ、どうするか決めるのは石上だ。話を聞く限りは、両想いだから悪い結果になる事はないだろうしな……自分から告白するも良し、藤原から告白して来るのを待つも良し。個人的には、さっさと告白して藤原を安心させてやれと言いたい所だがな……だが石上、これだけは言っておくぞ。」
会長は体を起こして軽く伸びをした……釣られて僕も体を起こす。
「相手から告白させようとすると、自分が思っている以上に時間が掛かるぞ!! 確実に成功する見込みがあるのなら、自分から告白した方が絶対に良い! 告白したら負けとか、告白させたら勝ちとか……そんなしょーもないプライドを抱えていると絶対後悔するぞ!?」
白銀御行、魂の叫びである。
「わ、わかりました……」
会長から迸る圧に思わず答える……会長も苦労してそうだな。
〈生徒会室〉
会長と別れた後、僕は文化祭で使う備品を生徒会室まで運ぶ任を受けた。机に限界まで乗せた備品を落ちない様に気を付けながら、生徒会室に入る。
「あー、重かった……」ガタンッ
「あはは、石上くんはだらしないですねー! もしかして貧弱さんですかー?」
生徒会室に入ると、ニマニマとした笑みを浮かべる藤原先輩に迎えられた。
「言ってくれますね……これでも僕、結構鍛えてるんですよ?」
「えー? さっき弱音吐いた人の言葉とは思えませんけど……」
「瞬発力はあるけど、持久力が無いってヤツっすよ。ほら、腹筋だって結構割れてますし。」
藤原先輩の貧弱発言を撤回させる為に、シャツを捲って証拠を提示する。前回の習慣というか、名残りでスクワットや腹筋は続けていたから……まぁ、他人に見せられる程度には鍛えられている。
「んなっ!? な、な、何してるんですか、石上くん!? 」
「……あれ? 藤原先輩、もしかして照れてるんですか?」
先程までのニマニマ笑いが消え、藤原先輩は慌てて両目を手で塞いだ……隙間から2つの瞳がバッチリ見えてるけど。
「うーっ……!」チラチラ
藤原先輩は、チラチラと僕の顔と腹部へ交互に視線を移している。
「……藤原先輩って、意外とウブですよね。」
「は、はーっ!? 誰がラブ探偵じゃなくてウブ探偵ですか!? 全然そんな事ないですけど!?」
「別にそんな事は言ってません……いや、だって腹筋見せたくらいで慌てふためいてますし……男と手を繋いだ事も無いんじゃないですか?」
「……あります! あるに決まってるじゃないですか!」
「……へぇ、いつですか?」
「うっ……そ、その……この前の石上くんとので、デートの時に……」
モジモジと指を突き合わせながら、藤原先輩は目線を落としながらそう言った。
「っ!? そ、そうだったんですか……」
(……確かに手握られたわ。あの時が初ってマジか……)
「……」
「……」
なんとなく、気まずい雰囲気が漂い始めた頃……
「い、石上くん……あの時は色々あって、いっぱいいっぱいになっちゃってまして……よく覚えてないんですよ……」
「え? あ、はぁ……」
何が言いたいんだろう……藤原先輩の真意を測りかねていると……
「〜〜〜っ! 石上くん! ハイターッチ!」
藤原先輩はそう言いながら、目の前で両手を広げた。
「え、ええっ!?」
思わず反射的に、藤原先輩と同じポーズを取った。すると……
「えい!」ガシッ
「藤原先輩!?」
「えへへ……引っ掛かりましたね?」
藤原先輩は頬を僅かに紅潮させながら、にぎにぎと僕の手を握っては緩めを繰り返している。
(この人はホント……)
「あの、藤原先ぱ……」ガチャッ
「こんにち……ふ、藤原先輩!? 石上も何してるの!?」
「み、ミコちゃん!? こ、これはそのっ……」
「いや、藤原先輩から誘って来て……」
「石上くん!?」
「誘って!? ふ、藤原先輩……ダメです! ハレンチです! ふしだらです!!」
「み、ミコちゃん、違うんです! 別に変な理由があった訳じゃっ……ちょっと石上くん!? ミコちゃんからの私の評価が下がったらどうしてくれるんですか!?」
「大丈夫です。伊井野が藤原先輩を尊敬しなくなるのは、もうちょい先ですから。」
「いつかは尊敬されなくなるみたいな言い方しないで下さい!」
「付き合ってもない2人がそんな距離感間違ってます! ほらっ、石上もさっさと離れて!」
「……」
個人的には、さっさと告白して藤原を安心させてやれと言いたい所だがな……
そうだ、プライドとか罪悪感とか……そんな事よりも、何よりも優先するべきモノがあるんじゃないだろうか……
「じゃあ、付き合ってたらいいんだな。」
思わずそう言葉を洩らす。幸いにも伊井野には聞こえてなかったみたいだけど……
「……え?」
藤原先輩には聞こえていたみたいだ。
伊井野は風紀委員の仕事前に、生徒会室に寄っただけらしい。時計を確認した伊井野は慌てて生徒会室を出て行った。扉を閉める直前……
「私が居なくなるからって……へ、変な事しちゃダメよ!? 藤原先輩も気を付けて下さいね!」
という言葉を残し、生徒会室を後にした。
「い、石上くん、さっきのってどういう……」
不安と期待の混ざり合った……そんな瞳で見つめられる。多分、ストレートな言い方で告白すれば問題はない。だけど寝ている所にキスをするという意識するキッカケを作られ、惚れさせられた事が少し……ほんの少しだけ悔しいから、こんな言い方になってしまうのは大目に見て欲しい。
「……藤原先輩、ゲームをしませんか?」
「……ゲーム?」
「はい、先に相手に好きって言わせた方の勝ち……僕が勝ったら、僕の恋人になって下さい。」
ー完ー
最後らへんの遣り取りは書き始めた段階でボンヤリと決めていましたが、それ以外のイベントやシーンは捻り出すのに苦労しました……やっぱり藤原は書くの難しい_:(´ཀ`」 ∠):
最後はかなり駆け足気味になりましたが、拙い文章にお付き合い頂きありがとうございました。m(_ _)m
※afterカウントすんの忘れてた……次で本当に終わりです。