これにて閉幕!
藤原先輩に告白紛いの勝負を持ち掛けたあの日、僕と藤原先輩は晴れて恋人同士となった。ただ……勝負を持ち掛けた時、藤原先輩なら嬉々として乗って来ると思っていたのに……まさか、あんな返し方をされるとは思わなかった。
………
「はい、先に相手に好きって言わせた方の勝ち……僕が勝ったら、僕の恋人になって下さい。」
その言葉に藤原先輩は動きを止めた。どうやら、言葉の意味を理解するのに手間取っているみたいだ。数秒間の沈黙後、藤原先輩は顔を伏せたまま抱き着いて来た。背中に手を回し、僕の体を精一杯抱き締め、胸板にぐりぐりと顔を埋めて……
「ううぅーっ……なる! なりまずぅっ! 石上ぐんの恋人になりまずうぅー!!」エグエグッ
「……はい。」
まさか、泣きながら抱き着かれるとは思わなかった。ポンポンと頭を撫でながら、藤原先輩が落ち着くのを待っていると……
「グスッ…石上くんは、私の事……好きですか?」
「もちろん……好きですよ。」
「……ドーンだYO!!」
「…………は?」
「引っ掛かりましたね! 私はまだ好きって言ってないので、好きって言った石上くんの負けです! ふふふ、詰めが甘いですねー?」
うわぁ、マジかこの人……こんな状況でも勝ち負けに拘るとか……
「藤原先輩……虚勢を張るなら、せめて涙を拭いてから言って下さい。」
「ふーんだ! 何を言っても勝負は私の勝ちです! なので……」
藤原先輩は一呼吸間を空けると、パッと顔を上げて此方を指差して宣言した。
「石上くんが私の恋人になるんです!」
「ははは、なんすかそれ……結局同じじゃないですか。まぁ、僕の負けなら仕方ないっすね……わかりました、藤原先輩の恋人になります。」
「……えへへ、石上くん! これからよろしくお願いしますね!!」
それは、一瞬で千の花が咲いたと錯覚する程の……輝きに満ちた笑顔だった。
………
まさか、藤原先輩と恋人関係になるとは……去年の四月には全然予想してなかった出来事だ。だけど前回からの共通認識というか、変わらないというか……予想通りな事もある。それは、藤原先輩と一緒だと退屈とは掛け離れた学園生活を送る事になるという事だ。
〈生徒会室〉
藤原先輩と付き合う事になってから数日が経ったある日、生徒会室で仕事をしていると……スマホが振動してメッセージの着信を伝えて来た。何気なくタップして内容を確認すると其処には……
〈三女の藤原萌葉でーす! 姉様とのお付き合い、おめでとうございまーす! 姉様のマル秘写真とか色々送るので、代わりに姉様との面白エピソードなどがあれば是非教えて下さいね!〉
……という文章が書かれていた。僕の連絡先なんて誰に聞いたんだ? 少しの疑問を抱きながら、添付されているファイルをタップする。
「ぶはっ!? こ、これは……」
送られて来た画像には、あのデートの日の……犬耳カチューシャを付けた藤原先輩が写っていた。首元に犬用と見られる首輪を着けられた状態で……
「石上くん、どうし……ちょっ!? な、何見てるんですか!?」
「あ、藤原先輩……コレ、先輩の妹さんから送られて来たんですよ。」
「もう! 萌葉ったら、こんな写真いつの間に撮って……」
「そもそも藤原先輩、なんで首輪なんて着けてるんですか?」
「そ、それは……」
「それは?」
………
〈藤原家〉
「ただいま帰りましたー!」
「あー、姉様おかえ……」
「萌葉? どうしたの?」
「姉様、ちょっとそのまま動かないでね?」
「え? 別にいいけど、どうしたの?」
「まぁまぁ、気にしなくていいから!」
萌葉はそれだけ言うと、小走りで部屋を出て行きました。
「……?」
何がなんだかわからないまま待っていると……
「お待たせー!」ガチャン
「……」
「……」ニヤニヤ
「萌葉、コレはなんですか?」
「見ての通り、ペスの首輪。あ、大丈夫! ちゃんと新品の奴だから!」
「大事なのはそこじゃありません! なんで私に首輪なんて着けるんですか!?」
「だってー、犬には首輪でしょー?」
「誰が犬っ……あ!」サッ
………
「石上くんが教えてくれなかった所為ですよ!? というか、私は帰り道もずっと犬耳付けた状態で帰ってたって事ですよね!? 滅茶苦茶恥ずかしいんですけど!? なんで教えてくれなかったんですか!?」
「いや……いつまで経っても外さないので、よっぽど気に入ってるんだなと思ってました。」
「そんな訳ないでしょー!? 大体あの犬耳カチューシャは、罰ゲームで着けてただけじゃないですか! どーりで帰り道にチラチラ見て来る人が多いと思いましたよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。別に良いじゃないですか……可愛かったですよ?」
「い、石上くん……」
「お前ら……」
「貴方達……」
「イチャつくなら余所でやれ(やりなさい)」
……怒られた。
〈生徒会室〉
奉心祭まで残り数日まで迫ったある日、生徒会室には役員全員が集まって仕事に精を出していた。暫くすると……コツン、コツンと立て続けに何かが窓に当たる様な音に、生徒会一同の視線が集まる。窓にはカーテンが掛けられている所為で、何が窓に当たっているのか確認出来ない。
「ん? なんだ……? 伊井野監査、悪いがカーテンを開けてみてくれ。」
「は、はい。」
会長に促された伊井野は、窓に近付くとシャッとカーテンを横にズラした……カーテンをズラしたにも関わらず、窓から見える光景は夕焼け色では無く……何故か黒く染まっていた。
「……夜?」
そう言って首を傾げた伊井野の事を……今日程気の毒に思った事はなかった。伊井野が夜と見間違う程窓を黒く染めていたモノ、それは……
「
※人語は喋ってません
「」
「」
「」
「」
その悍ましい光景を、誰よりも至近距離で見た伊井野は……
「」バタッ
倒れた。
「伊井野さん!?」
「伊井野!? 大丈夫か!?」
「ふ、藤原! お前だったらっ……」
「うえぇ、キモー……」ヒキッ
「お前ホントふざけんなよ!?」
ホント……藤原先輩と一緒だと退屈しないな。