夏休みが明けて1週間が過ぎた頃……僕は逆行する前と今回で、明確に違う点がある事に気が付いた。それは……
「おはよ! 石上君。」
「あぁ、おはよう大友。」
大友は僕に朝の挨拶を済ませると、友人達の集まる席に歩いて行き会話に加わる。
「はぁ〜、彼氏欲しいなぁ……」
「京子ったら、また言ってる。」
「もう私達で独り身同盟作る?」
「それはいやぁ〜!」
面白おかしく話す女子グループの会話が聞こえて来る……どうやら、大友は荻野と付き合っていないらしい。前回の今頃は、既に放課後の教室で逢引をしていたはずだ。でも付き合っていないのなら、それは僕にとっては好都合だ。荻野がどうなろうと、恋人じゃないのなら大友が傷付く事はないだろう……不意に昔、四宮先輩に言われた事を思い出した。
………
「石上君、確かに貴方の取った行動は並大抵の人間には出来ない事です。大友京子の笑顔を守りたいという貴方の想いはとても尊いモノ。でもね、石上君……貴方は大友京子を守ったと同時に、彼女の成長する機会を奪ったとも言えるのよ?」
「成長する機会……?」
「そうよ。貴方が荻野の事をあの場で公表すれば、彼女の心は少なからず傷付いたでしょうね。もしかしたら男性に対して恐怖を感じる様になるかもしれない……でも、荻野の様な男に騙される可能性は低くなる。」
「それは……」
「彼女はこれからも高校、大学と色々な人間と出逢うでしょう。もしかしたら、また荻野の様な人間に出逢うかもしれない。石上君、貴方……その度に自分を犠牲にして助けるつもり?」
「それは……確かに四宮先輩の言う通りだと思います。でも荻野はっ!」
「黙っていれば危害は加えない……そう脅されたと言いたいの?」
「……ッ」
四宮先輩の言葉に、僕は何も言えなくなってしまった……
「はぁっ……どうして貴方が守ってあげないのよ。」
「え?」
「彼女に危害が及ぶなら危険がなくなるまで貴方が守る、それで良かったんじゃないの?」
「でも、僕なんかじゃ……」
「……自分に自信がないのは貴方の悪い所よ。私は言ったはずよ、頑張って良い男になりなさいと……いい? 良い男というのは常に自分に自信を持ち、他者への気遣いを欠かさず、勉学に打ち込み……鋭い眼光を放ち……路地裏で隠れて泣いている女の子を見つけ出す事が出来る……そういう人が……」モジモジ
「……ん? もしかして会長の事言ってます?」
「んんー!? ま、まぁ客観的に見てね? 主観じゃなくてあくまで客観的に見た話ね!? コホンッ……とにかく! もっと自分に自信を持ちなさい、わかったわね?」
四宮先輩はそう言うと僕の頭をポンポンと叩いた。
「……っス。今すぐは無理ですけど、頑張ってみます。」
「ふふ、それでいいのよ。」
………
四宮先輩……それでも、やっぱり僕は大友が傷付かないで済むのならそうしたい。僕は準備していた封筒を隙を見て荻野のロッカーへと投入した。
〈明日の昼休みに放送室で待つ〉
シンプルな文だけど、証拠も一緒に同封したから荻野は来るだろう。
「……」
いよいよだ……あの時は何も言えなかったし、何も出来なかった……だけど、いつまでも引きずってなんていられないんだ。
くそッ! いつからバレていた!?
いや、そもそも一体誰が……こんな事でコケる訳にはいかないっ……
明日の昼休みに放送室で待つ、か……警戒するに越した事はないな……