奉心祭1日目も無事に終わり、今日を乗り切れば自信を持って大成功と言い切る事が出来る奉心祭2日目の朝……登校した僕を待ち受けていたのは、学園から1つ残らず消えた風船という謎と……
「こ、これは……挑戦状です! ラブ探偵という好敵手を見つけた怪盗が、私に挑戦状を叩きつけて来たのです!!」ムッハー
テンション爆上がりの
「……え? アレって藤原先輩がやったんじゃないんですか?」
「そんな訳ないでしょー!? そんな愉快犯みたいな事をする程、私は暇じゃないんです! もしやるとしたら、石上くんにも手伝わせるに決まってるでしょ!!」
「これ以上無い程納得出来る理由ですね。」
「でも……なるほど、昨日は施錠もされてなかったらしいですから、警備員の見回りに気を付けさえすれば誰でも校舎内に忍び込めた……段々と頭が冴えて来ましたよ。つまり! 怪盗は学園中の
「ホントに頭冴えてますか?」
「私が考えるに、その怪盗は腕毛が生えててワルサーP38を持ってると思うんですけど……」
「藤原先輩の個人的意見は後で聞きます。」
「とにかく! こうしちゃ居られません、怪盗が残した証拠を集めますよ!」
怪盗を捕まえ様と藤原先輩は奔走し、当然僕も一緒に行動する。大変なのはその後だった……
〈魔女の館〉
「占い……面白そうです、入りましょう!」
「まぁ、良いですけど……」
カーテンで閉じられた入口を越え受付を済ますと、藤原先輩と用意された席に座る。
「……ようこそ、魔女の館へ。私の事は……魔女とでも呼んでくれるかしら? 念の為、名前の確認をしても良い?」
「藤原千花です!」
「……石上優です。」
(……念の為?)
「ハイハイ、なるほどね……北高の文化祭は楽しかったかしら? 今日は2回目の文化祭デートだけど、ちゃんと楽しんでる?」
魔女と名乗ったその人は、ファイルの様なモノを開くとそんな事を言った。
「え?」
「は?」
「付き合い始めて……1ヶ月も経ってないのね。あらあら、今が1番楽しい時期かしら?」
「な、なんで知って……」
「怖っ…なんですか、そのファイル……」
「藤原ちゃんは確か……ちょっと強引な感じで食べられちゃうのが好みなのよね? 良かったわね貴方、押したらイケるわよ。」
「」
「」
「あ、でもね? 避妊はしっかりしないと駄目よ? じゃないと藤原ちゃん……卒業する前にお腹おっきくなっちゃうから。母○プレイがしたいなら止めないけど……」
「」
「」
(これは酷い……)
………
魔女から最悪なセクハラを受けた僕達は、逃げる様に魔女の館を飛び出した。
「あ、アハハ、酷い目に遭いましたね……?」
「そ、そうですね……」
「……」
「……」
少しの気まずさが漂い続け、お互いに相手から視線を外して歩く……く、空気を! この気まずい空気を変えなくては!
「つ、次は何処に行きましょうか?……ってあれ? 藤原先輩?」
キョロキョロと周りを見渡すも、藤原先輩の姿が無い……
「
「石上くん、やっと見つけた〜。」
「あ、貴女は……」
………
〈校舎裏〉
「これ……受け取ってくれないか!」
石上くんと逸れてしまった私は、男子に校舎裏に呼び出されていました。男子の手には、ハート型のプレゼントが乗っています……当然、私の返事は決まってます!
「ごめんなさい、それは受け取れません! 私の隣にはもう空きが無いんです!! ……いつか、貴方の隣と心の隙間を埋めてくれる女の子が現れる事を祈ってますよ! じゃ、私は行かなきゃいけないので!」
藤原は駆け出すと、振り返る事無く走って行った。校舎裏に1人で残された男子は空を見上げ、太陽光から逃れる様に手を翳すと……
「そうか、僕は寂しかったのか……心に、隙間がある事が……」フッ
妙な悟り方をしていた。
………
……ふふーん! 告白された事、石上くんに言ったら嫉妬しちゃいますかねー? なんだかんだ言って私の事大好きですからねー、石上くんは!
「あ、石上くっ……」
石上くんを見つけた私は、思わず立ち止まりました。
「ちょっと、困りますって!」
「え〜? そんなに嫌がらないでよ〜。」
石上くんの腕を抱き、猫なで声で甘える……姉様が居たから。
「姉様!! 何してるんですか!?」
「あ〜、千花ちゃんだ〜。ちょっと石上くんに校舎を案内してもらおうと思って……」
「案内も何も、姉様は此処の卒業生なんだから案内なんて要らないでしょー!?」
「そうなんですか!?」
「あ〜あ、バレちゃった〜。」
「石上くんもです! 鼻の下なんて伸ばしてないで離れて下さい!!」
「伸ばしてません!」
「あはは、修羅場だ〜。」
「姉様!」
「はぁ……」
(この人も相当癖のあるタイプだな……)
………
「……萌葉ちゃん、あんなので良かったの?」
「うん! ありがとう、豊姉様!」
(もし石上先輩が豊姉様に寝取られたら……姉様、どんな顔するのかなぁ……)ゾクゾクッ
藤原家三女、藤原萌葉……若干サイコパス。
奉心祭が成功を収めた次の日の午後、生徒会には伊井野ミコを除いた4人が集まっていた。
〈生徒会室〉
「はーい、かぐやちゃんオヤツだよー。」
「……っ!……っ!」モグモグ
「……ッ」プルプルッ
「……藤原先輩? どうしたんですか?」
「石上くんの……浮気者ー!!」
「は?」
「私の事はまだ藤原先輩呼びなのに、かぐやさんは名前呼びするなんて……バカ! アホ! 石上くんの遊び人!!」バシバシッ
バシバシと藤原先輩に頭を叩かれる……何処に嫉妬してるんだ、この人は……
「うあぁーん!! 浮気されましたー!! 所詮私は2番目の女なんだー!!」
「……」ナデナデ
「かぐやさん……ぐすっ、そうですよね。かぐやさんにとっては私が1番ですもんね……」
「さんばん」スッ
「」
「……」
(無慈悲過ぎる……)
「……」
(まぁ前の時も3番だったし……)
「……ああぁあー! うあぁーーん!! 」
「ギャン泣き!? 石上、なんとかしろ!」
「だ、大丈夫です、藤原先輩は僕にとってはオンリーワンですから! オーショショショ……」
「動物みたいなあやし方すんな。」
………
「……どうだ、藤原の様子は?」
「大丈夫です、ちゃんと寝かしつけて来ました。」
「赤ん坊かアイツは。」
12月24日……今日はクリスマスイブである。街はイルミネーションで彩られ、街中ですれ違う人々は各々が大切な人と過ごす為……急ぎ足で恋人の下へと走り、或いは共に歩みを進めて行く……一部の例外を除いては。
〈藤原家〉
「……まず聞こうか、これはなんだ?」
「かどまツリーです。」
「……」
「……藤原先輩、何ですかそれ?」
「藤原先輩じゃありません。私はなまはげサンタです。」
「……」
「……萌葉が被ってるのは?」
「圭ちゃん、これはししまトナカイだよ!」
「……」
「何年か前に、豊姉様が色々改造しちゃったんだよねー。」スポッ
「買い換えるのも勿体ないので、そのまま使ってるんですよねぇ。」スポッ
「良かった、本当に良かった……! 変な宗教感を持った特殊な家庭じゃなくて……」
石上の立場的には死活問題だった。
「皆、お待たせ〜。ご飯出来たよ〜?」
(ウチのクリパってホントに変わってる……っていうかキモいんだよねぇ。)←諸悪の根源
「わーい、食べよ食べよ。」
普段は友達の家で過ごす姉様まで、今日は家で過ごすらしい……それもこれも、萌葉があんな事を言わなければ……
………
「姉様ー、クリスマスイブの日にさ……石上先輩連れて来てよ。」
「えっ!?」
「ねー? いいでしょー?」
「い、いやぁ、それはちょっと……」
「ふーん? なら仕方ないね……むふっ♪」
萌葉の妖しげな笑みを見て、嫌な予感が沸々と湧き上がって来ました……絶対仕方ないなんて思ってない!
「も、萌葉?」
「すぅっ……」
萌葉は椅子から立ち上がると、大きく息を吸い込んで……
「父様ー! 母様ー! 大ニュース、大ニュース! 姉様に彼氏が出来っ…んぐぅっ!?」
「ちょ待あああ!? 萌葉! シッ! シッー!」
「ぷはっ、じゃあ……わかってるよね?」
「」
「あ、豊姉様も誘っておくから! 楽しいクリスマスイブになりそうだね、姉様!」
「」
………
「ね〜ね〜石上くん、はいア〜ン。」
「そ、そんなのやらなくていいですからっ……」
「姉様! 何してるんですか! あと近付き過ぎです!!」
「あぁっ……恋人が奪られると思って焦る姉様見てると、なんかゾクゾクしちゃうよねぇ……豊姉様が居てくれて良かったぁ。」ゾクゾクッ
「萌葉、アンタね……」
「……」
(この子……本当に要注意人物ね。)
「あ〜あ、フラれちゃったぁ……」
「ふふーんだ! 石上くんがそんな誘惑に引っかかる訳ないじゃないですか! だって石上くんは、私にメロメロですもんねー?」
「ハハハ、ウケる。」
「ウケられた……(´・ω・`)」
………
「……あれ? 石上くん、かぐやさんと会長は?」
「さっき2人で外に出て行きましたけど……」
「こんな寒い日に……呼んで来ましょうか?」
「その前に……藤原先輩、ちょっと良いですか?」
「へ? 何ですか?」
藤原先輩は?マークを浮かべて僕の言葉を待っている……会長と四宮先輩は外、藤原姉妹はボードゲームの準備中……渡すなら今しかない。
「……コレ、クリスマスプレゼントです。大したモノじゃないんですけど……」
「えっ!? い、良いんですか!? 」
「良いですけど、ガッカリしないで下さいよ。」
「わー! 嬉しいです!! 初めて男の人からプレゼント貰いましたよ!」
藤原先輩は、包装紙を剥がすと中身を取り出して掌に乗せた。
「これは……ミサンガ、ですか? ピンク色で可愛いですね!」
「利き手に着けて下さい。」
「……っしょ、えへへー! どうですか、似合ってます?」
「えぇ、似合ってますよ。」
「えへへ……えへへへへー♪ 石上くん、これからもよろしくお願いしますね!」
顔のニヤケが治らないままの藤原先輩へ答える。
「はい、此方こそよろしくお願いします。」
ピンク色のミサンガの意味は……藤原先輩が気付くまで黙っておくか。