柏木√滅茶苦茶好評でビックリしてますわ……
……そもそもの話、何をすれば柏木先輩は満足するんだろう?
「うーん……」
今日から僕と柏木先輩は恋人同士という事らしいけど、彼女が居た事がない僕には柏木先輩が何をすれば満足するのか? という条件がわからない……柏木先輩は、恋人が居る良さを知りたいと言っていた。だけど、本来恋人になる条件はお互いが相手に好意を持っている事が最低条件だ。そう考えると、そもそもの前提条件が破綻している気がする……というかしてる。
「まぁ、元々の関係も薄かったしなぁ……」
そして、前回の僕と柏木先輩の関係性を一言で表すなら……友達の友達、会えば挨拶をする先輩と後輩……といった程度の薄いモノだった。文化祭の日、何故か柏木先輩の方から友達になって欲しいと言われてOKした事もあったけど……今思えば、大して知りもしない男子が自分の知らない所でマキ先輩と仲良くしてるのが気に食わなかったんだろうか?
「そういう意味じゃ、前と比べると今の方が濃い関係ではあるのか。前の柏木先輩は……」
暫し薄れ気味の記憶を探ってみるが……
「……」
ダメだ……マキ先輩の脳を破壊し続けてたって事と、翼先輩と神ったって事しか思い出せない。
「あ……そういえば、ボランティア部に入ってたっけ?」
まぁそれも翼先輩と一緒に立ち上げたモノらしいから、今回は当然秀知院学園にボランティア部なる物は存在しない。
「はぁ、一体どうなるんだろう……」
願わくば、平和な学園生活が続く事を願うばかりだ。
〈生徒会室〉
平和な学園生活への願い……それは1日と持たずに瓦解する事になる。
「そういえば石上、ボランティア部に入るんだってな? 石上がボランティアに興味があるなんて知らなかったよ。」
「………………え?」
会長のその言葉にゾワリと背筋が震えた……何か、僕の知らない所で何かが動いている……
「な、なんの話……ですか?」
「ん、違うのか? 昼休みに柏木から申請を受けてな……石上も了承済みだと言うから、確認後に承認すると言ってあったんだが……」
「僕それ知らない……」
「え? なんだって?」
「あの、僕はそんな話聞いてなっ……」
(……待てよ? もし断ったりしたら……)
………
「石上君……自分に出来る事なら責任取ってなんでもしてくれるって言ったのに、口先だけだったんだね……」
「い、いや、別にそういうつもりはっ……」
「私みたいな女には、その場凌ぎで適当な事言っておけば大丈夫だろう……とか、そんな事を考えてたんでしょう?」
「ち、違います、そんな事思ってません! 誤解なんです!!」
「嘘しか吐けない口なら……いらないよね?」
柏木先輩は、チョキチョキと鋏を動かしながら僕に近付くと……
「……動かないでね?」スッ
「か、柏木先輩!?」
「大丈夫、ちゃんと後で縫ってあげるから……」
「待っ……!?」
ヂョギン!!!
………
「」ガタガタッ
(いやいや、考え過ぎだって……柏木先輩はそんな人じゃないって……)
「……石上、大丈夫か? 柏木から何も聞いて無いのなら断っておくが……」
「ま、待って下さい!」
(考えろ、何かっ……!)
困惑顔で僕からの返答を待つ会長を見て閃く。
「そ、そうだ……もう9月半ばですよ!? それは問題無いんですか!?」
「ん、そうだな……まだ俺達生徒会が活動しているし、ギリギリだがこれくらいなら俺の裁量でどうとでも出来る。まぁ流石に生徒会解散後に申請をされていたら、断らざるを得なかったがな。」
「そ、そうですか……」
(打つ手無し……)
「どうした石上、やっぱり何か問題でもあるのか?」
「いえ、設部の方向でお願いします……」
なんだろう……知らない内に外堀を埋められるこの感じ、すっごい怖い……
「……今日はここまでにしておくか。」
「それじゃ、また明日ー!」バタンッ
「僕も……お先に失礼します。」
「あぁ、お疲れ。」
「お疲れ様。」
会長と四宮先輩を残し、一足先に生徒会室を出る。藤原先輩は何か急ぎの用事でもあるのか、走って廊下を移動している。
「はぁ……」
徐々に小さくなって行く藤原先輩の背中を見ながら溜息を吐く。柏木先輩の策略で、知らない内にボランティア部に入る事が決まってしまった……別に部活動に入るのが嫌な訳じゃないし、ボランティアという内容に文句がある訳でもない。前回のボランティア部も、がっつりボランティア活動に精を出していた訳でもなかっただろうし、問題があるとするなら……
「石上君、お疲れ様。」
「っ!?」ビクゥ
校舎の陰から飛んで来た言葉に、ビクッと体が強張り足が止まる。
「び、びっくりさせないで下さいよ……」
(全然気配を感じなかった……)
「ふふ、ごめんね。それより聞いた? ボランティア部の事。」
「は、はい……」
「実は私、ボランティアにちょっと興味があってね? 石上君と付き合う事になったし、折角だから部員にもなってもらおうと思ったの。」
「で、でも、先に言うくらい……」
「ごめんね、事後承諾になっちゃって。思い付いて直ぐに実行しちゃったから……でも、付き合ってるんだから、学園内にプライベート空間があった方が良いでしょ?」
「そ、そうですね……」
(プライベート空間……密室……拘束……監禁……逃げ場無し……)
「これからは、2人っきりになる機会が増えるね?」
「ハハハ……そ、そうですね……」
(ヤダ怖い……)
「恋人が居る良さ、ちゃんと教えてね?」
「ガンバリマス……」
〈翌日〉
「つ、付き合ってる!? 優と渚が!?」
「えぇ、まぁ……」
(表向きは……)
……フリとはいえ一緒に居る機会が増えるのだから、柏木先輩と親しい一部の先輩方には報告するべき……という事になり、先ずはマキ先輩に報告する事にした。マキ先輩は目を見開いて驚くが、直ぐに気を取り直して訊ねて来る。
「はわぁ、優と渚がねぇ…………で! どっちから告白したの!?」
「……僕からです。」
昨日の帰り道に、ある程度の設定は柏木先輩と話し合って決めている。少なくとも、僕からボロを出す訳にはいかない……!
「もうっー! 優ったら、なんだかんだ言って意識してたんじゃないの! 素直じゃないだからー!」
「ハハハ……」
「……」
マキ先輩は、このこのーと言いながら僕の脇を肘で突いて来る……そして、その状況を柏木先輩が眼を見開いてガン見して来る……
「ヤメテクダサイ、シンデシマイマス……」
「幸せ過ぎて死んじゃうって事? もー! アツアツじゃないのよ!」バシバシッ
「もう、眞妃ったら……」
「ハハハ……」
「1学期の頃なんか、私が渚との仲を取り持ってあげようかって言っても、勘弁してくれとか言ってたのに……人は変わるモノね。」
「」
(考え得る限り最悪のタイミングでバラされた。)
「へぇ……石上君、そんな事言ってたの?」
「確か他にも……」
「あ、あー! マキ先輩、翼先輩が来てますよ! これから何処か行くんじゃないですか!?」
「あ、もうそんな時間? じゃあ、そろそろ行くわね。2人共、近い内にお祝いでもしましょ。」
「うん。またね、眞妃。」
「ハハハ……お構いなく。」
(危なかった……)
走り去って行くマキ先輩を見送りながら、僕はマキ先輩の話を誤魔化せた事に安堵し……
「勘弁してくれ……ね。そこまで嫌がられてるとは思わなかったなぁ……」
「」
(あ、現在進行形でヤバい状況じゃん。)
本日の勝敗、石上の敗北
この後、柏木を鎮める事にかなりの苦労を要した為。