石上優はやり直す   作:石神

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柏木渚は教えたい

様々なイベントが催される2学期だが、9月は特筆すべきイベントは存在しない。月末に現生徒会の任期が終わるのを除けば、あとは9月中旬に行われる実力テストくらいだろうけど、それだってイベントと呼べる程歓迎されている訳でもない。実力テストか……前は四宮先輩に助けてもらって、留年を回避したんだよなぁ……と懐かしい記憶が甦る。

 

「ま、今回は留年の心配をするは必要ないし、楽な気分で居られるな。」

 

と思ってたのに……

 

〈ボランティア部〉

 

「そういえば、もうすぐ実力テストがあるけど……石上君はちゃんと勉強してる?」

 

ボランティア部を訪れると、既に入室していた柏木先輩からそんな事を聞かれた。

 

「まぁ、それなりに……ただ生徒会の仕事もあるので、そこまでちゃんと勉強してる訳じゃないですけど。」

 

「ふーん……それなら一緒に勉強しよっか? 解らない所があったら教えてあげられるし。」

 

「い、いえいえ! そこまで柏木先輩に面倒は掛けられませんよ!」

 

勉強を教えてもらえるのは有り難いけど、そこまで柏木先輩にお世話になるのは心苦しい……決して2人っきりで勉強するのは怖いから嫌だとか、そういうんじゃない。

 

「……」

 

「ハハハハ……」

 

「……」

 

「……あの?」

 

「……」

 

「」

 

「……」ニコ

 

「お世話になります!!」

(これはもう……脅迫なのでは?)

 

………

 

〈図書室〉

 

柏木先輩に脅さっ……勉強を教えてあげると言われた次の日の放課後、僕と柏木先輩は図書室を訪れていた。前回は成績の悪かった僕に四宮先輩が勉強を教えてくれたけど、今回は柏木先輩がその立場に居る……まぁ前みたいに留年の危機とかそういう問題が無い分、そこまで気負う理由は無いから楽ではある……怖いけど。

 

「石上君は、1学期の期末テストは学年何位だったの?」

 

「えぇと、確か40位くらいだったと思います。」

 

「へぇ……じゃあ、平均点は80点くらい?」

 

「あぁ、大体それくらいでしたね。」

 

「ふぅん、じゃあ今回は……平均90点を目指してみない?」

 

「え?」

 

「だって、折角教えるんだもん……前より良い成績取って欲しいじゃない? それに、目標は高い方が良いでしょ?」

 

「……」

 

「ね?」

 

「……ハイ。」

 

たった今、気負う理由が出来てしまった……コレ、もし平均90点以上取れなかったら……

 

………

 

「平均89点……目標に届かなかったね?」

 

「で、でも殆ど変わらなっ……」

 

「ふふ、私があれだけ勉強を教えてあげたのにね……」

 

「せ、先輩?」

 

「石上君……覚悟は良い?」

 

「」

 

………

 

「石上君、頑張ろうね?」

 

「ハイ……」

(死ぬ気で頑張ろ。)

 


 

〈図書室〉

 

テストで平均90点という目標を立てられた僕は、今日も隣に柏木先輩を携え図書室でテスト勉強に勤しんでいる……とは言っても、柏木先輩に僕が一方的に勉強を教えてもらってるだけなんだけど……

 

「この問題は引っ掛かりやすいんだけど……」

 

問題集に視線を落としながら言葉を続ける柏木先輩を盗み見つつ、問題の説明に耳を傾ける。

 

「……」

(普通に教えてくれてる……)

 

……どんな恐怖政治的教え方をされるんだろう、という予想に反して丁寧にわかりやすい説明を柏木先輩はしてくれている。問題集に視線を落としながら注意点を述べる柏木先輩からは、普段の威圧感は全くと言っていい程感じなかった。僕がビビり過ぎていただけなのかもな、と柏木先輩への認識について考えを改めていると……

 

「あら、渚さんと石上会計……2人仲良くテスト勉強ですの?」

 

「渚ちゃんが私達以外とテスト勉強するなんて珍しいねー?」

 

ナマ先輩とガチ勢先輩がやって来た。既にこの2人にも柏木先輩との事は報告済みなんだけど、柏木先輩は自分が満足した後の事とか考えてないのだろうか……知り合い同士が別れるって普通に気まずいと思うんだけど……

 

「うん……石上君がどうしても教えて欲しいって言うから。」

 

「えっ!?」

 

「……そうだよね?」

 

「ハイ、ソノトオリデス……」

 

「あらあら、石上会計は意外と甘えん坊なんですのね?」

 

「いや、別にそういう訳じゃ……」

 

「照れなくてもよろしいですわよ?」

 

あらあら、うふふ……とでも言いたげな顔をするナマ先輩にイジられる。

 

「まさか、マキに続いて渚ちゃんにも彼氏が出来るなんてね……マキなんてさっきも中庭で彼氏君とイチャコラしてたし……アレが所謂メスの顔って奴なのね!」

 

「へぇ、そうなんだ……」

 

「」

(ガチ勢先輩、どんだけ濃度の高いガソリン追加してんですかあああ!?)

 

「眞妃さんのあんな姿、普段は見られませんからとても貴重でしたわ。」

(……ハッ! かぐや様は普段は会長にしか見せない表情をうっかり他者に見せてしまい、会長はその事実を知り嫉妬のあまり……!)

 

「そっか……」

 

「……」

(お願いですから、これ以上刺激しないで……)

 

頼むからこれ以上柏木先輩の精神を掻き乱さないでくれと祈っていると……

 

「……渚ちゃんてさ、昔からマキに頼っててベッタリなとこあったじゃない? だから最近ちょっと様子がおかしかったのは、マキに彼氏が出来たのがショックだったのかなーって思ってたんだけど、私の勘違いだったみたいね! 」

 

……という的を射過ぎている発言をガチ勢先輩は若干のドヤ顔で言い放った。

 

「ふふ……エリカったら、そんな事思ってたの?」

 

「ハハハ……」

(ドンピシャ〜。)

 

「ふふふ、あんまり2人の邪魔をしてはいけませんわね。エリカ、行きますわよ。」

(引き立て役である第三者を作る事でストーリーに深みが出る……コレですわ! 忘れない内にノートに書き綴りませんと!)

 

「じゃあまたね、渚ちゃん、会計君。」

 

「うん、またね。」

 

「うす……」

 

「……」

 

「……」

 

2人が出て行くのを見送ると、また静寂が押し寄せる……周りを見渡すと、既に他の生徒も退室しており、図書室には僕達2人だけが残されていた。

 

「様子がおかしい……か。フフ、気付かれてたんだね……」

 

「……」

(ああぁっ……なんか不穏なオーラが漂ってる雰囲気がヒシヒシとっ……!)

 


 

〈テスト当日〉

 

「……」

 

テスト当日の朝……僕は少しでも解答を頭に詰め込む為に、時間ギリギリまで教科書を捲り問題集を解き続けている。

 

「石上ー、今回はいつもより頑張ってんね?」

 

その声に顔を上げると、壁に凭れながらこっちを見る小野寺と目が合った。

 

「あぁ、小野寺……ちょっと、テストで平均90点以上取らなきゃいけない理由が出来ちゃって……」

 

「へー? なんでかは知らないけど、最後の追い込みって事? でもあんまり頑張り過ぎると、ケアレスミスとかするかもよ?」

 

「ミス……」

 

あれだけ柏木先輩が自分の時間を削って勉強を教えてくれたのにミス……?

 

………

 

「石上君、どうしてこんなミスしたの?」

 

「も、申し訳ございませんでしたぁっ!!」

 

「このミスが無ければ、平均90点以上取れてたのにね……」

 

「で、でもっ! 結構頑張って勉強したと……」

 

「残念だけど、目標に足らなかった分は……」

 

……ゴクッ

 

「石上君の体で償ってもらおうかな? とりあえず、1点につき1本で許してアゲル……」チョキチョキ

 

「」

 

………

 

「し、死にたくないっ……絶対、絶対頑張らないとっ……!」ガクガクッ

 

「追い込み方ヤバくない?」

 


 

テストから数日後……渡された5枚の答案用紙を片手に握り締めて、僕は空き教室へと飛び込んだ。

 

「はぁ、はぁ…暫く此処で時間を潰そう……」

 

床に座り込み荒れた息を整える。テストの答案が全て返って来た僕は、直ぐに平均点を割り出した……そして、教室を飛び出した。理由はただ1つ……

 

「今日はとりあえず、柏木先輩に会わない様にしないと……」

 

僕は手元にある5つの数字を計算し、平均点を割り出すが……駄目だ、何回計算し直しても平均が90点を越えてない。

 

「最悪だ……」

 

そもそも一教科で10点の点数底上げとか、そんな簡単な話じゃなかった……今まで平均30点取ってた人間が40点取るのと、80点取ってた人間が90点取る難易度は同じじゃ無い訳だし!

 

「そもそも平均点を10点上げるって事は、トータル50点上げるって事なんだから難しいに決まってるよな……」

 

そこら辺の事情は柏木渚も十分わかっている筈である。では、何故石上が逃げているかと言うと……

 

「はぁ、怖いから会いたくない……」

 

単にビビっているだけだった。

 

「あ、石上君。こんな所に居たんだね?」ガラッ

 

「っ!?」

 

「こんな所で何してたの?」

 

「ひ、1人隠れんぼです……」

 

「……それ楽しい?」

 

「いえ、あんまり……」

 

「そ。ところで石上君、テスト返って来てるよね? どうだったの?」

 

「……此方になります。」

 

観念した僕は、答案用紙を柏木先輩へと差し出した。

 

「……」

 

柏木先輩は答案用紙を受け取ると、黙ったままペラペラとゆっくり点数を見比べている。あぁ、今平均点を割り出されている……

 

「……うん、良く頑張ったね。」

 

「……え? あ、あれ?」

 

「うん? どうしたの?」

 

「いや、怒らないのかなって……柏木先輩の決めた目標に届かなかった訳ですし……」

 

「……石上君はちゃんとテスト勉強を頑張ってたのに、怒ったりなんてしないよ。それとも頑張ってなかった? 手を抜いたの? だとしたら……」

 

「滅茶苦茶頑張りました!!」

 

「ふふ、だったらそれで良いじゃない……ね?」

 

「……うす。」

 

どうやら少し、柏木先輩の事を誤解してたみたいだ。思ってたよりも、意外と優しっ……

 

「それに……」

 

「え?」

 

「まだ中間テストもあるし、期末テストだってあるもんね?」

 

「」

(それって、少なくとも期末テストまでは解放されないって事じゃ……)

 

柏木渚への認識を改めたと同時に、一抹の不安を覚える石上だった。




今回は原作6巻の実力テストの話ですが、他√にて記載されている中間テストとは別物と思って頂いて結構です。

2学期限定でテスト事情を記載しますと……
9月中旬→実力テスト
10月下旬→中間テスト
12月上旬→期末テスト
というつもりで書いてる……筈です。過去の自分がちゃんと書いてる事を願う……

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