書き溜め無くなりました……が、週一ペースはなんとか維持します
解き放て妄想力
〈駅前広場〉
「石上君、今日はよろしくね?」
「……うす。」
10月も終わりに近付き、肌寒さを感じ始めたある日の午後……僕と柏木先輩は制服に身を包み、駅前の噴水広場で募金箱を持って佇んでいた。今日はボランティア部の学外活動として、募金活動に精を出す事になる。
「募金活動にご協力お願いしまーす!」
「ぼ、募金活動にご協力お願いします……」
柏木先輩の周囲への呼び掛けを同じ言葉で追いかける……こういう募金を呼び掛ける光景は偶に街中で見掛けるけど、いざ自分がやるとなると……妙な気まずさというか、気恥ずかしさを感じてしまう所為で声が尻すぼみになってしまう。
「……石上君、恥ずかしい?」
「うっ……まぁ、少しだけ……」
「ダメだよ、恥ずかしがっちゃ。別に悪い事してる訳じゃないんだから……ね?」
「……はい。」
「あの子達みたいに、元気良くね?」
「「「募金活動にご協力お願いしまーす!」」」
柏木先輩が視線を送る先には、小学生グループが横並びで元気良く募金活動に精を出している。
「……やってみます。」
……折角此処まで来たんだ、恥ずかしがって時間を無駄にする訳にもいかないよな。
「募金活動にご協力お願いします!」
………
「お姉ちゃん、またねー!」
「うん、またねー。」
元気良く手を振り続ける子供達に柏木先輩も手を振って応える……ボランティア活動が終わり、職員に募金箱を預けると深く息を吐いた。思っていた以上に慣れない事をした所為で気疲れしていたみたいだ……子供達が見えなくなると、柏木先輩は此方に向き直る。
「石上君、どうだった?」
「とりあえず……疲れました。」
「うん、慣れてないとそうなるよね。それに、最初は恥ずかしがって声も小さかったし……」
「うっ、すいません……」
「ふふ、まぁ追々慣れてくれれば……」
「ねぇねぇ、君高校生だよね? 募金活動なんてしてて偉いね。」
柏木先輩と話ていると、theチャラ男の様な風貌の男に話し掛けられた……とは言っても、男は僕に一瞥さえくれずに柏木先輩を見つめている事から、話し掛けられているのは柏木先輩だけだとわかる。
「え? はぁ、どうも……」
流石の柏木先輩もいきなり話掛けられて面食らった様で、困惑顔で返す事しか出来てない。
「ね、ね! 今からどっか遊び行かない? ボランティアだけじゃツマンナイでしょ? 俺色々遊べる場所知ってるし……」
「……ごめんなさい、色々片付けとかしないといけないので……」
「いやいや、もう終わってるでしょ? 見てたから知ってるよ。」
「それは……」
「……」
(コイツ、何処かで隠れて見てたのか……タチが悪いな。)
「それでも片付け終わってないって言うならさ、残りはソイツに任して俺らだけ楽しもうよ……ね!」
「あ!? ち、ちょっとやめっ……!?」
ナンパ男は柏木先輩の腕を掴むと、下卑た笑みを浮かべ見下した様な眼で僕を見た。
「ちょっと! 嫌がってるじゃないですか!」
「……うるせぇな!」
「っ!」
ドンッと手で胸を突かれ、少しよろけるが直ぐに体勢を立て直す。
「石上君……」
「ほら、こんなヘタレなんか放っておいてさ!」
「……っ!」
……どうする? 人を呼ぶか? もしくは説得? あんまりグダグダ考えてる時間は……
「おらっ、早く来いよ!!」グイッ
「……あっ!?」
男は我慢の限界らしく、柏木先輩の腕を強く引っ張って連れて行こうとする……あぁもう! 正直、この手は使いたくはなかったけど……
「すぅ……」
僕は精一杯息を吸い込むと……
「お巡りさあああん!!!」
力の限り叫び声を上げた。募金活動で声出しをしていたお陰で、声は裏返る事もなく周囲に拡がった。男としての誇りをかなぐり捨てた価値はあったらしく……
「はあっ!? お前、それは卑怯っ……!?」
男は激しく動揺し始めた……周りを見ると周囲の人々もガヤガヤと騒つき出し、ナンパ男に視線が集まり出す。
「やだー、今時ナンパとか……」
「しかも無理矢理っぽくない?」
「えー、警察呼ぶ?」
「いや、ちょっ!? コレは違っ!?」
「……先輩! 今です、逃げますよ!」ガシッ
「あっ…えぇっ!?」
………
「はぁ、はぁっ……ふー、此処まで来れば…大丈夫ですよね……」
「はぁ…はぁ……ふっ…くっ……!」
人目から逃れる様に走り回った僕達は、建物の陰へと入った。暫く壁に背を預けて息を整えていると、柏木先輩は膝を付き顔を伏せて肩を震わせ始めた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「ふ、ふふふっ……」
「……先輩?」
「あははははは!!」
「ど、どうしたんですか!? なんで笑って……」
一瞬……気でもヤッてしまったのかと本気で心配したが、続く言葉を聞き違うとわかった。
「だ、だって、あんなっ……あんなカッコ悪い遣り方で助けられるなんて、思ってなくて……んふふふっ……!」
「か、カッコ悪いって……」
(自覚があっても人から言われると、地味にショックだなコレ……)
柏木先輩の指摘に、カッと顔が熱くなる。でも仕方ない……カッコ悪い遣り方だったなんて、僕が1番わかってるし……柏木先輩が本当に付き合っている恋人だったなら、もう少しカッコ良さを重視したマシな方法が浮かんだのかもしれないけど……いや、結局同じ事しそうだな。
「ふふふ…ご、ごめっ……んふふっ、ダメ、お腹痛いっ……!」
「はぁ……別に良いですよ、好きなだけ笑って下さい。」
「ご、ごめんねっ? だって……あははは!」
「……」
(滅茶苦茶ツボってる……)
いや、良いんだ。僕のちっぽけなプライドを捨てて柏木先輩を助けられたのなら本望だ。それに……
「んふふふふっ……!」
その報酬として、柏木先輩の……何にも取り繕っていない笑顔を見る事が出来たんだから。
………
「はー、おかしかった……石上君、笑っちゃってごめんね?」
10分程で笑いも収まった様で、柏木先輩はよろよろと立ち上がるとそう言って微笑んだ。
「別に気にしてませんよ……でも、さっきの事は忘れて下さい。」
「ふふ……ごめん、それは無理かも。多分、帰ったらまた思い出して笑っちゃうと思う。」
「えぇ……酷い。」
「大丈夫、誰にも言わないから……じゃ、今日はもう帰ろっか?」
「……そうですね。」
………
〈柏木家〉
「ふふふ……」
今日一日の出来事を思い出していると、自然と笑みが零れた……初めての学外のボランティア活動、声出しを恥ずかしがっていた石上君、いきなり男の人に話し掛けられて腕を掴まれて、それで……
お巡りさあああん!!!
……先輩! 今です、逃げますよ!
「……ふふ、変な子。」
〈ボランティア部〉
「石上君、どうかな?」
「……この前食べさせてもらった時も思いましたけど、凄く美味しいです。」
「そっか、なら良かったかな?」
僕の言葉に、柏木先輩は僅かに微笑みながらそう答えた。最近……柏木先輩とは、ボランティア活動や学園内でも何かと一緒に居る機会が増えている。今日なんて、この前の御礼と言って態々僕の分のお弁当まで作って来てくれたし、フリとは言え恋人らしく振る舞って来る柏木先輩に僕自身も戸惑いを感じなくなって来ている。なんだかんだで普段の物腰は柔らかいし……最近は慣れて来たのか、柏木先輩をあまり怖いとは思わなくなって……
「……石上君て、お人好しだよね?」
「え、そうですか?」
柏木先輩に話し掛けられた為、一旦思考を中断して答える。
「うん、お人好し……と言うよりは、警戒心が無いっていうのかな?」
「いや、そんな事は無いですよ?」
(つい最近まで、滅茶苦茶先輩の事警戒してたんですけど……)
「だって……なんの疑いも無く、私のお弁当食べたでしょ?」
「」
「何が入ってるかもわからないのに……」
「そんな段階から警戒してなきゃいけないんですか!? っていうか何か入れたんですか!?」
「話は変わるけど、毒って怖いよね……」
「それ本当に話変わってますか!? っていうか唐突に毒の話題振られるのも、それはそれで怖いんですけど!?」
「……」チラッ
「なんで無言で時計見るんですか!? 効果待ち!? 何かの効果待ちですか!?」
「……10…9…8…」
「カウントダウン!?」
「……ふふ、なーんちゃって。ごめんごめん、冗談だよ。石上君があんまり慌てるから、面白くってつい……ね。」
「そ、そうですか……そうですよね……」
「でもショックだなぁ……あんなに慌ててたって事は、石上君は私がそんな事をする女だって思ってる事に……」
「全然! これっぽっちも思ってません!!」
「そう? ふふ……でもちょっと面白かったから、またイジワルしちゃうかも?」
「お、お手柔らかにお願いします……」
訂正、やっぱりまだちょっと怖いわこの人……
………
「……クスッ」
(石上君、可愛かったなぁ。あんなに慌てふためいて、もっとイジワルしたくなっちゃうなぁ……)
ーある少女の独白ー
……どうしてかな? 最近、あのゾッとする様な寒さを感じる機会が減った気がする。
親友の隣には、相変わらず私以外の人間が居座っているのに……
私が其処に居られる機会が、増えた訳じゃない筈なのに……
あの寒さはやって来ない……
その理由を知るのは、もう少し先……