石上優はやり直す   作:石神

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柏木渚は威嚇したい

〈ボランティア部〉

 

次の日の放課後、僕は応援団の練習前に柏木先輩から制服を受け取る為、ボランティア部を訪れた。

 

「はい、石上君。」

 

「先輩、態々ありがとうございます。」

 

柏木先輩から制服の入った紙袋を受け取る……良い人だ。普通は男子に制服貸すなんて抵抗ある筈なのに、自分から貸すなんて言い出してくれて……多分、自分から恋人同士のフリをしようと言った責任感から制服を貸すと言ってくれてるんだろうけど、僕からすれば柏木先輩が責任を感じる必要は無いんだよな。責任を感じて、その責務を全うするべきは僕なんだから……とりあえずは、柏木先輩に恋人が居る良さって奴を知ってもらう事が当面の責務になる訳だけど。

 

「ううん、気にしないで。それよりサイズは合うかな? 石上君は結構痩せ形だし、入るとは思うんだけど……」

 

「多分、大丈夫だと思いますよ。」

(四宮先輩の制服がギリ入ったんだし。)

 

「……」

 

「……?」

 

「え、着ないの?」

 

「え!? もしかして今着るんですか!?」

 

「だって今着とかないと、サイズが合ってるかわからないじゃない。」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

「後ろ向いててあげるし、恥ずかしいなら外に出てるけど?」

 

「あー……じゃあ、わかりました。着替えるんでアッチ向いててもらって良いですか?」

 

「うん、いいよ。」

 

「……」

(これで僕は四宮先輩と柏木先輩、2人の前で本人の制服に袖を通したという事になるのか……あー、なんか目覚めそうー。)

 

僕は手早く制服を脱ぐと、せっせと柏木先輩の制服に身を包んだ。

 

「……もう良いっすよ。」

 

「……ふふ、意外と似合ってるね?」

 

「もう、やめて下さいよ……」ススッ

 

「……」

 

襟と袖の部分を外しながら答えると、柏木先輩は黙ってその様子を見つめて来る。

 

「あれ? 先輩どうしました? やっぱり似合ってなかったとか?」

 

「うぅん、そうじゃなくて……普通、男子はその部分が取り外せるって知らないと思うんだけど、石上君はどうして知ってるのかなって思って。」

 

「」

(アカン)

 

石上突然のピンチ! 柏木渚の指摘した通り、男子は女子の制服の襟と袖の部分が着脱可能だと知る機会は殆ど無い! それを知る人間が居るとするならば……女子が制服を脱ぐ所を見た事がある人間か、或いは……

 

「石上君、もしかして……女子の制服を着るのは初めてじゃない……なんて言わないよね?」

 

……実際に女子の制服に袖を通した経験がある人間だけである!

 

「そ、それは……」

(ヤバいヤバいヤバい!! このままじゃ僕は、普通なら着る機会の無い女子の制服を着た経験があるとんでもない変態って事に!?)

 

「そっか……否定しないんだね。でもね、石上君……流石にそれは……」

 

「そ、そんな訳ないじゃないですか!? 変な勘違いしちゃって、ヤダなぁ先輩は!」

 

「それなら、どうして知ってたの?」

 

「は、外してる所を見た事があるだけですよ!」

 

「……」

 

「……あれ?」

 

石上は気付いていない。先程も言った通り、女子の制服の襟と袖の部分が着脱可能だと知る人間は……女子が制服を脱ぐ所を見た事がある人間か、実際に女子の制服を着た経験がある人間である。石上は先程、女子の制服を着た経験は無いと否定している。つまり、今現在石上に残された言い分は…… 自分は女子が制服を脱ぐ所を見た事がある人間だという事である!

 

「……誰の?」

 

「え?」

 

「誰の脱いでる所を見たの?」

 

「脱っ!? なんでそんな話になるんですか!?」

 

「わからないの? 女の子が制服の襟と袖を外す時はね……制服を脱ぐ時しか無いんだよ?」

 

「」

(今日の僕の失言ヤバくね?)

 

………

 

「それでどう? 腕周りとか平気?」

 

なんとか先輩の説得に成功した僕は現在、制服の着心地の感想を求められている。最近は失言をしてしまっても、動揺せずに対処出来る様になっている気がする。慣れたという事か、或いは……先輩の笑った所を見た事が影響しているんだろうな。

 

「あぁ、腕周りは意外と大丈夫っす。」

 

「そっか、なら良かった……」

 

「ただ、腕周りはいいんですけど……腰周りがちょっと余裕あり過ぎて違和感ありますね。」

 

「……」

 

「普段はベルトで締めてるんで、仕方ないのかも……って先輩、どうかしましたか?」

 

「腰周りが余裕あり過ぎ……ね。石上君、それは私が太ってるって言いたいの?」

 

「」

(これは僕が悪い。)

 

本日の勝敗、石上の敗北

自分でも引くレベルで失言しまくった為。

 


 

〈校庭〉

 

「よし! 今日の練習はここまで、各自水分補給を忘れない様に!」

 

応援団の練習後、団長の締めの言葉で校庭に集まっていた団員達は解散となった。

 

「ふー、結構疲れたな……」

 

「……石上、ちょっといい?」

 

「ん? 別にいいけど……」

 

小野寺は地面の小石を蹴りながら、何かを言い出すタイミングを計っている様だった。10秒程そうしていると、意を決した様に顔を上げた。

 

「えーと……もし違うなら、違うって言って欲しいんだけどさ……」

 

「ん?」

 

「石上って柏木先輩と……」

 

「石上君、お疲れ様。」

 

「ひっ!?」ビクッ

 

小野寺の言葉を待っていると、それを遮るタイミングで後ろから柏木先輩が話し掛けて来た。

 

「あ、先輩どうしたんですか?」

 

「うん、一緒に帰ろうと思って待ってたの。待ってるから着替えて来たら?」

 

「あ、そうなんですか……じゃあ、ちょっと着替えて来ます。あ、そういえば小野寺、さっき何を聞こうとしてたんだ?」

(一緒に帰ろうって、柏木先輩から誘われたのなんて初めてだな……珍しい事もあるもんだ。)

 

(……もう引き下がれない!)

「あ、あのさ! 石上と柏木先輩って……」

 

「うん、付き合ってるよ?」

 

「えっ!?」

 

「えっ!?」

(柏木先輩!? 小野寺にまでそれ言っちゃって大丈夫なんですか!?)

 

「って、なんで石上(アンタ)も驚いてんの!?」バシッ

 

「い、いや、色々事情があって……」

 

「事情って何っ……」

 

「小野寺さん?」

 

「はい!」

 

小野寺はビクッと背筋を伸ばして返事をした……ん? もしかして、小野寺も柏木先輩を怖がってたりするんだろうか?

 

「……言い触らしたら駄目だからね?」

 

「はい、絶対言いません!」

 

「あ、完璧ビビってんな。」

 

「石上君、何か言った?」

 

「いえ、なんでも無いっす……じゃあ小野寺、お疲れ。」

 

「う、うん、おつー……」

 

「またね、小野寺さん。」

 

「お疲れ様でした!」

 

「……」

(……周りから見たら、僕もこんな感じだったのだろうか……)

 

「石上君、行こっか。」

 

「……そうですね。」

(慣れるもんなんだなぁ……)

 

………

 

「ウソでしょ、よりによって柏木先輩となんて……大仏さんに何て言えばっ……」

 

……言い触らしたら駄目だからね?

 

「……」

 

……言い触らしたら

 

……ゴクッ

 

……駄目だからね?

 

「……い、言えない。でもっ……ううぅっ!」

 

友情と恐怖の間で揺れ動く小野寺だった。

 

………

 

「珍しいですね、先輩が一緒に帰ろうなんて……」

 

「……嫌だった?」

 

「別にそういう訳じゃないですよ。」

 

「ふーん……じゃあさ、こういう事しても大丈夫だよね?」

 

言うが早いか、柏木先輩は僕の掌に自分の手を重ねて絡ませた。

 

「っ!? ち、ちょっと待って下さい! 流石にコレは……!」

 

「恋人同士は、帰り道に手を繋いで帰るんでしょ? 眞妃にも良く自慢されてたから興味があったの。」

 

「うっ、そういう事なら……」

 

元を辿ればそもそもの目的は、柏木先輩に恋人が居る良さを教えるって事だからな……柏木先輩がやりたいって言うなら断るべきじゃない……けど、握った手の柔らかさにドギマギしてしまう。

 

「ふふ、手を繋いだくらいでオドオドしてたらカッコ悪いよ? まぁ、石上君の1番カッコ悪い所はもう見てるけど……」

 

「お願いですから、あの時の事は忘れて下さい……」

 

「ダーメ。言い触らしたりはしないけど、忘れてはあげない。」

 

「酷い……」

 

「もっと普段から堂々としてたら良いんじゃないかな? それなら、少しはカッコ良くなるかもしれないよ? 」

 

「つまり、今の僕はドチャクソカッコ悪いと……」

 

「ふふ、そこまでは言わないけどね……もっと自信持って欲しいなって。」

 

「自信……」

(そういえば、会長にも言われたっけ……)

 

お前はもう誰が見たって立派だ、胸を張れ。

 

「……そうですね、頑張ってみます。」

 

一方その頃……

 

………

 

〈音楽室〉

 

〈どっこいしょーどっこいしょー〉

 

「どっこいしょーどっこいしょー!」

 

「」ドンドン

 

〈ソーランソーラン〉

 

「ソーランソーラン!」

 

「」ドンドン

 

「……ハッ!!」

 

「」

 

「良い仕上がりだろ?」

 

自身の壊滅的な踊りに劣等感も感じずに胸を張る白銀と……

 

「うそつきぃ!!」

 

地獄街道まっしぐらの藤原が居たそうな。

 


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