あの後……職員室に連れて行かれた僕は、事の詳細を学年主任の教師に話した。教師に一切の相談をしなかった事とバッテリーの無断使用についての叱責を受けたが、それ以外について咎められる事は無かった。僕には反省文の提出が課され、荻野については緊急会議の後、警察署に連れて行くらしい。
「失礼しました。」
「待て。」
職員室を出て教室に戻ろうとすると、学年主任に呼び止められた。
「石上、今はやめておけ。多分お前が教室に戻ると授業にならん。とりあえず、今日は終業時間まで保健室に居てくれ。」
その言葉に確かにそうだと思い直す。
「確かにそうですね……あ、鞄が教室に置いたままなんですけど……」
「そうか、後で誰かに持って行くように言っておこう。とりあえず、授業が始まったら保健室へ向かってくれ。」
「わかりました。」
授業開始のチャイムが鳴るのを待って保健室へと向かう。保健室に入ると保健医も居なかった為、勝手にベッドに横たわる。ベッドに横になると眠気に襲われ、少しずつ瞼が下がり始めた。
(……眠い。そういえば、最近ちょっと……寝不足、だったっけ……)
荻野の件が終わり気が抜けた為か、僕の意識はアッサリと沈んで行った……
………
「……君、石上君!」
パチリッと目を開けると、此方を見下ろす大友と目が合った。
「……大友?」
「石上君、鞄持って来たよ。」
「大友が持って来てくれたのか、ありがとう。」
「ううん、気にしないで。それより……凄い事になってるよ? 私達のクラスもだけど、他のクラスも荻野君の話題で持ち切り。」
「そりゃ、そうだろうな……」
「うん……はぁー、荻野君があんな人だったなんて……付き合わなくて良かったよ。」
「……え?大友、今なんて?」
大友のその言葉に思わず聞き返す。
「えーと……私ね、ちょっと前に荻野君に告白されたんだ。」
「そ、そうだったのか?」
「うん、意外?」
「意外っていうか……なんで断ったんだ?」
「別に荻野君のしてた事を知ってたとかじゃないよ? 今日初めて知ったし……」
「それはそうだろうけど……」
「……なんかね、違うなぁって思ったの。」
「違う……?」
「うん、石上君はさ……3年生になってから凄い頑張ってたよね? 部活も勉強も頑張って、クラスの雑用とか……風紀委員の手伝いもしてたでしょ? そういうのを見てたらね、荻野君の笑った顔とか言葉が……凄く嘘っぽく見えちゃって……」
だから振っちゃった……そう洩らす大友に、僕は言葉を失った。
「だから……私が荻野君と付き合わずに済んだのは、石上君のお陰って事になるのかな? 石上君が頑張ってるの見てたから、私は荻野君の告白を受けずに済んだ訳だし……だから石上君、ありがとう!」
「そうか、僕がっ…頑張ったからかっ……」
大友のその言葉を聞いて僕は……涙を堪える事が出来なかった。
「え!? 石上君、大丈夫!? どこか痛いの!?」
「違う、違うんだ大友っ……なんでもないんだっ……!」
慌てる大友を見てふと思う……別に見返りが欲しかった訳じゃないし、感謝して欲しかった訳でもない。でも、もしかしたら僕は……大友に見てもらいたかっただけなのかもしれない。過去に戻って……頑張って、変わった僕の事を。
「そろそろ授業始まるし、私は教室戻るね?」
「あぁ、鞄ありがとな。」
「うん、また明日ね!」
「……また明日。」
大友が出て行った扉を見つめ、閉まるのを確認すると……
「………ッ」←先程までの自分を思い出し中
(……ああああぁああぁああ!!? 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃぃ!!? 大友の前で泣いてしまったあああっ!!?)
黒歴史!! 年頃の男子が女子の前で涙を流す……それは男子にとって耐えがたい恥辱である! 女子が近くにいれば例え、小指をタンスの角にぶつけようが、脛を強かに打ち付けようが、ウルシゴキブリを目の前にしようが歯を食いしばりなんでもないような顔をするのが男子という生き物である! 故に……
「むごおぉお!!? うごおぉお!!!」バタバタッ
枕に顔を埋めて悶絶するのは、必然的行動であった……何はともあれ石上優、過去との決別完了。