石上優はやり直す   作:石神

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真影とは、本当の姿という意味です。

石上と早坂の関係性について説明をすると……

石上→早坂 かぐやのお付きで、本来はクールな性格という事を承知している。理由はわからないが死ぬ程カラオケが嫌いという事と、最新機器に滅茶苦茶詳しいという事は前回の関わりから知っている。

早坂→石上 自分の変装を数秒で見破られた事実に未だに納得出来ていない部分があるが、主であるかぐやに喫茶店の無料券を渡すなど、白銀との関係を後押しする様な行動を取っているので、その部分に関しての警戒はしていない。変装を見破られた夏休みの一件以来、バッティングセンターに呼び出し鬱憤を晴らすのに付き合わせている。

これがわかっていれば、多分大丈夫……

多くの感想ありがとうございます。あまりに凄まじい反響にビックリしてます(震え声)
個人的には、早坂には藤原が居るから……みたいな派閥に反対されると思ってました。藤原押し付けられる早坂の気持ち考えた事あんの? 派閥には賛成されるとは思ってましたが、ここまでとは……


√I.愛の真影編
早坂愛は食べさせたい


〈四宮邸〉

 

未だ残暑が続き寝辛さを感じる9月の深夜……

 

「ウッ……ンンッ……」

 

とある少女は、奇妙な夢に魘されていた!

 

………

 

あぁ、コレは夢だと直感する。かぐや様の寝室(いつもの場所)で私はかぐや様と、理想のデートプランについて話し合っていた。過去にこんな会話をした記憶は無い為、多分私の脳が創り出した架空の記憶なのだろう……私は全体を見通す位置で、夢の中の従者と主(私とかぐや様)を只々眺めていた。

 

「私の脳内シミュレーションでは完璧なんです。」

 

そう言って夢の中の私は、横浜デートをかぐや様へと進言していた……我ながら完璧なデートプランだ。かぐや様もさぞや感謝してくれるだろう、そう確信しつつ2人の会話を眺めていると……

 

「えっ……つまり妄想って事?」

 

「別に妄想とかじゃ……」

 

「いつもこういう事考えてるの? そのノートもしかして全部……? 趣味でやってるの?」

 

かぐや様はとんでも無く失礼な言い分で、矢継ぎ早に私の提案を否定していた。

 

「だから、そういうのじゃないんですって! ただ時々、彼氏が出来た時のシミュレーションをして楽しんでるだけで!」

 

「それは妄想とは違うの? 貴女もしかして、本家の方と何かあったの? 悩みがあるなら、ちゃんと聞くから話して頂戴……」

 

……本気で心配してる様な顔で訊ねて来る辺り、滅茶苦茶イラッとした。部外者として眺めている私がここまでイラッとしているのだから、夢の中の私(当事者)の苛立ちは相当なモノだろう。

 

「そっちが私好みのデートを言えって言ったんですよね!? なのにそれを妄想扱いってなんです!? 百歩譲ってこれが妄想だとして何の問題があるんですか!? 実際使えるデートプランを提供してるんですから、頭を垂れて感謝するべきでは!?」

 

案の定、夢の中の私はキレていた。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

かぐや様が謝ると……夢の終わりを告げる様に、周囲の光景が徐々に消えて無くなっていった。

 

………

 

「……っ!」ガバッ

 

チュンチュンッと、小鳥の囀りが窓越しに聞こえて来る……どうやらアラームが鳴る前に目が覚めた様だ。住み始めて10年が経過した……見慣れた部屋を一瞥すると、徐々に頭が覚醒して来る。

 

「んーっ! はぁ……」

 

私は上半身だけ起き上がらせると、グーッと両腕を伸ばして身体を解した後に息を吐き出した。

 

「なんだろう……何か、物凄く腹立たしい夢を見ていた様な気がする……」

 

先程まで見ていた夢に若干の心残りはあったが、時間の無い私は日課のルーティーンへと取り掛かる。シャワーを浴び、歯を磨き、コンタクトを装着し、メイクと髪のセットが終わると、四宮家使用人(いつもの私)の姿が眼前に映し出される。

 

「……」

 

鏡に映る自分をジッと見つめる……この姿が本当の私だ。秀知院学園高等部に籍を置く早坂愛は……かぐや様のサポートが円滑に行える様に創り上げた偽物の存在。本当の私は四宮家使用人であり、四宮黄光にかぐや様の情報を流している裏切り者だ。

 

「はぁ……」

 

長年抱え続けているその秘密に、ズンッと胸が重くなる。

 

「……っ!」パンッ

 

気落ちし始めた心を、頬を叩き奮い立たせる。私の役職はかぐや様の近侍(ヴァレット)であって、秀知院生では無いのだ。本家の人間が一言……学校を辞めろと言えば拒否権の無い私は、翌日には退学申請を済ませているだろう。只々……淡々と任務を遂行する機械の様になるしか無い。それだけが、早坂愛()に与えられた存在理由(レゾンデートル)なのだから……

 

「……よし!」

 

だから、この時の私は……想像もしていなかった。かぐや様の近侍(ヴァレット)として生きて来た私の生活が、激変する未来が待っていようとは……

 


 

〈四宮邸厨房〉

 

登校前……かぐや様に厨房へと呼び出された私は、自分の目を疑った。

 

「どうでしょう、特別に発注して作ってもらったケーキです。会長、ケーキ食べたがってる感じでしたから、とっても喜ぶに違いないわ♪」

 

「……」

 

「苺は糖度が17の物を買い付けてですね。あっ、このスポンジにも秘密があって……」

 

「……」

(重い、超引く、超恥ずかしい……私の主人はもう駄目かもしれない……)

 

「どうかしたの、早坂?」

 

「あ、いえ……かぐや様が良いなら、私は特に口出しをしませんが……」

 

「何よ、歯切れが悪いわねー。」

 

「はぁ、昔はこんなにアホじゃなかったのに……」

 

「アホ!?」

 

私の言葉にムッとするかぐや様を尻目に、ウェディングケーキを見上げる……ウェディングケーキ(こんな物)をプレゼントしてしまえば、一発でかぐや様の気持ちがバレてしまう。そう懸念を抱いた私だったが……

 

「会長は何処から食べるのかしら? 出来る事なら私が食べさせてあげたいわ♪」

 

そう言ってケーキを見上げるかぐや様(アホ)を一瞥し、その懸念を放棄する。恋をすると人はアホになる……そして、アホならば何を言っても無駄だと結論を出し、私は黙っている事にした。

 


 

〈中庭〉

 

次の日……私は中庭の隅に配置されたベンチに、最近交流を持つ様になった会計君を呼び出していた。此処のベンチは、周りに生えた草木が周囲の目から隠してくれる為、他人に見られたく無い交流を行う場所として役に立つ。別に……会計君と話してる所を見られるのが恥ずかしいとか、会計君に問題があるという事ではない。普段の私はギャル系の少女として過ごしている為、会計君との接点が存在しないのだ。男女が隠れて会っている事が周囲にバレてしまえば、それだけ学園内で動き辛くなってしまい行動も制限されてしまう。

 

「……」

 

緩やかに草木を揺らす風が吹き、私は数秒間目を閉じた。私は基本的に、自ら進んで異性と交流を持ったりはしない。アイルランド人のクォーターという外見は、それだけで異性の視線を無駄に惹きつけてしまうから……

 

「会計君……か。」

 

彼は恐ろしく察しが良い。今まで誰にも見破られた事が無かった私の変装を、友達と話してる所を見た事があるという理由だけで看破した。警戒するに越した事は無い。

 

「スゥ…ハァ……」

 

もし彼にかぐや様のお付きという事がバレてしまえば、同世代の情報に詳しい人間を狙って交流を持っている事も、態と成績は普通より少し下になる様に調整している事も、全てが無駄になってしまう。

 

「すいません、遅れました。」

 

その言葉をトリガーに、私は仮面を装着した。

 

………

 

「会計君て、ケーキ好き?」

 

「へ? まぁ、人並みには好きですけど……」

 

「良かったー☆丁度、残飯しょっ……余ったケーキを食べてくれる人を探してたんだー☆」

 

「今、残飯処理って言おうとしませんでした?」

 

「アハハ、会計君てばマジ受ける〜!」

 

「滅茶苦茶雑な誤魔化し方しますね……まぁ良いですけど。コレ、本当に食べて良いんですか?」

 

「うん、いいよー! バイト先でケーキのお裾分けを貰ったんだけど、私だけじゃ食べ切れ無いから食べてくれそうな人に分けて回ってるだけだし。」

 

「へぇ……それなら、会長達にもお裾分けすれば良いんじゃっ……」

 

「それはダメ。」ガシッ

 

「あ、はい。」

 

「ほらほら、ちゃっちゃと食べるし!」

 

「じゃあ、頂きます。」

 

「召し上がれ〜☆」

(あの会長なら、かぐや様が渡したケーキと同じ物って事に気付くかもしれない……いっその事、かぐや様から貰ったと言って会長が気付く様に仕向ける手もあるけど、それをすると間違いなく面倒な事になる……主に私が。)

 

………

 

「ふぅ、ご馳走様でした。美味しかったです。」

 

「ケーキならまだ余ってるから、もっと食べたかったら言ってねー?……具体的には、在庫が特大ホール2つ分くらいあるから!」

 

「お裾分けのレベル越えてません?」

 

本日の勝敗、早坂の勝利

残飯処理人員の確保に成功した為。


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