石上優はやり直す   作:石神

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感想ありがとうございます(`・ω・´)


早坂愛は話したい

〈中庭〉

 

生徒会が解散し選挙期間に入った事で、早坂には少しばかりの自由時間が出来ていた。かぐやが弓道部に参加している時間を利用し、早坂は石上にある愚痴をぶち撒ける……

 

「ハハハ、インターネットが壊れたとか……この現代社会に、そんな化石みたいな事を言う人が居るんですね。」

 

「ねー! ホントそう思う!」

 

主である四宮かぐやの失態をぼかして伝える早坂。但しあくまで友達の失敗談の様に話す事には注意しつつ、石上からの賛同を得る事で僅かではあるが主に対する日頃の鬱憤を晴らしていた。

 

「田舎の駄菓子屋やってるお爺ちゃんとか、そんな感じの事言いそうですよね。」

 

聞き手に徹する石上も……まさか、尊敬している四宮かぐやにそんなアホな部分があるとは思わず、普通にディスっていた。

 

「メッチャわかるー! 他にもね? Twitte○アク禁にされたとかバカみたいに騒いだり、夏休みに遊びの誘いを自分からはせずに相手任せにしたり、不甲斐無い自分が悪いのに私に八つ当たりして来たりするんだよ!?」

 

「なんか……面倒臭そうな人ですね、その人。遊びたいなら、自分から誘えばいいじゃないですか。待ってるだけの人間にチャンスはやって来ませんし、自分の不甲斐無さを他人の所為にするのは狭量という他ありませんね。」

 

「会計君、良い事言う〜!」

 

何はともあれ、早坂愛にとって……石上優との時間は、少なからざる意味を持つ様になっていた。

 


 

〈中庭〉

 

「石上編集……ちょっとよろしいでしょうか?」

 

「え? はぁ、大丈夫ですけど……」

 

何やら気落ちした雰囲気を醸し出すナマ先輩に、中庭のベンチに座る様促される。2人揃って腰を落とすと、ナマ先輩はポツポツと話し始めた……

 

10分後……

 

「石上編集、ありがとうございます! これで次回作のネタには困りませんわ!」ガシッ、ブンブン

 

テンションの上がったナマ先輩は、それだけ言うと走って去って行った。そのままナマ先輩の後ろ姿を眺めていると、後ろから声を掛けられた。

 

「会計君、ヤホー。」

 

「あ、早坂先輩。どもっす。」

 

「紀ちんと何話してたの? ポエム?」

 

(早坂先輩の口から、ナチュラルにポエムという単語が出て来る様になってしまった……)

「え、えぇとですね……」

 

僕は先程までしていたナマ先輩との遣り取りを思い出した。

 

………

 

「実は……A組の描いた展示品の中に、物凄く上手なかぐや様の絵画が展示されていて……私、美の表現者としての自信を無くしてしまいましたの。」

 

「……よくもまぁ、自分で自分の事を美の表現者とか言えますね。」

 

「最初は負けてなるものですかと、ペアの方そっちのけでかぐや様を描き続けましたが、結局は思う様な絵にはなりませんでした……あぁ! 私、かぐや様に申し訳が無くてっ……!」

 

「ナマ先輩とペアを組まされた人には、申し訳無いと思わないんですか?」

 

「それからというもの、今の自分に足りないモノは何なのか……模索する日々が続いていますの。」

 

「良識と自制心でしょうね。」

 

「最悪……誰が描いたかを突き止めて、絵の描き方を御教授願おうかと思ってまして……」

 

「……アレ描いたの会長ですよ?」

 

「言ってー!? 早くー! それをーっ!」キャー!

 

「都合の良い所しか聞いてない……」

 

………

 

(念の為黙っておいた方がいいかな……)

「……そうですね、ポエムです。」

 

「紀ちんて、結構アレなんだね……」

 

「わ、悪い人じゃないですよ?」

(ナマ先輩の評価下がってそう……ナマ先輩、いつか誤解が解けると良いですね。)

 

誤解の原因を作ったのは、石上である。

 

「そういえば……話は変わりますけど、早坂先輩って美術の授業は藤原先輩と組だったんですね。」

 

「え、なんで知ってるの?」

 

「あれ? 見てないんですか? 藤原先輩の描いた絵が抽象絵画として、会長の描いた絵の隣に展示されてましたよ? 会長の描いた絵と並べると、必然的に比較される事になるので少し気の毒ですよね。」

 

「それ……絵を描いた書記ちゃんより、被写体()が1番ダメージ受けてる気がするんだけどぉ……」

 


 

生徒会選挙から数日が経ったある日……生徒会室に向かう途中、風紀委員の見回りをしている伊井野と大仏を見掛けた。2人はどうやら、服装違反の生徒を注意している途中らしい……

 

「今日はタピりたい気分ですわ〜!」

 

「りょ〜!」

 

「2人共どうしちゃったんですか!?」

 

「明らかに風紀を守れてない……」

 

その服装違反の生徒は、何故かギャル仕様になっているナマ先輩とガチ勢先輩だった。伊井野と大仏は、普段とは違う2人の様子に明らかに困惑している。面倒臭そうだから隠れていよう……そう思い、曲がり角に隠れて4人を観察していると……

 

「会計君、どうしたし〜?」

 

後ろから早坂先輩に話し掛けられた。

 

「……アレを見て下さい。」

 

「ん〜?」

 

僕は隠れたまま、視線の先で話している4人を指差した。

 

「伊井野さ……ミコミコ〜♪」ウェイ

 

「ミコミコ!?」

 

「今日もテンションアゲアゲ〜?」ウェイ

 

「面倒な人達を捕まえちゃったなぁ……」

 

早坂先輩は乗り出していた身を引くと、壁に凭れ掛かり一言呟いた。

 

「わぁ、絶対面倒臭いやつ〜……」

 

「僕もそう思ったんで、とりあえず隠れてるんですよ。」

 

「OK、把握したし〜。」

 

厄介事から隠れている僕達に気付く事も無く、4人の会話は続いている。

 

………

 

「ぱりぴですわ〜♪」

 

「いぇーい!」

 

「こばちゃん! 本当にこの2人どうしちゃったの!?」

 

「いつもおかしい人達だけど、今日は特におかしいね……誰かの影響受けちゃった感じかなぁ?」

 

………

 

「確かに……影響受けてますね。」チラッ

 

「え? アレって私の影響なの?」

 

「所謂双子コーデ……いや、早坂先輩入れて三つ子コーデってトコですか。」

 

「私を巻き込むなし!」

 

………

 

「バカみたいな格好と喋り方して……秀知院の生徒として、恥ずかしくないんですか!?」

 

「実はとても恥ずかしい……」プルプル

 

「早坂さんの凄さがよくわかりますわ……」プルプル

 

「恥ずかしいならやめればいいのに……」

 

………

 

「ははは、先輩言われてますよ?」

 

「……会計君、今度ケツバットね。」

 

「え」

 

………

 

「ミコちゃん、そろそろ……」

 

「ハッ!? 私達は風紀委員の見回りがあるので失礼します!」

 

「あぁ! もう少しだけ、生徒会室の会長とかぐや様のご様子をっ……!」

 

「もう少しだけ、かぐや様の日常をっ……!」

 

「知りません! こばちゃん、行こ!」タタタッ

 

「うん。先輩方、奇行は程々にお願いします。」タタッ

 

「逃げられましたわぁ……」トボトボ

 

「はぁ……生徒会室のかぐや様を知るチャンスだったのに……ってあれ?」トボトボ

 

「……じゃ僕、これから生徒会なんで。」

 

「ハイホーイ。」フリフリ

 

「……」

 

「……」

 

「あ、紀ちんと巨瀬ちん、今日はなんかキメキメだね? どうしたし〜?」

 

「いえ、そんな事より……」

 

「うん、早坂さんて会計君と仲良かったんだね?」

 

「みたいですわねー?」

 

「あはは、別にそういう訳じゃ無いし〜。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

「エリカはチョロ過ぎですわ!? そんな訳無いでしょう! 普段から男性の方と関わりの無い早坂さんです、何かあるに決まってますわ!」ハフハフ

(そして、その何かの内容が会長×かぐや様シチュに転用出来るかどうか是非知りたいですわ!)

 

かれんは創作活動に貪欲だった。

 

「何かってなんだし?」

 

「そんなの決まってるでしょう!? 会長とかぐや様の様に、激甘な遣り取りやふれあいがあったんじゃないですか!? 早坂さん、白状した方がよろしいですわよ!」ハフハフ

 

激甘な遣り取りもふれあいも、かれんの妄想である。

 

「もー、紀ちんてば冗談はポエムだけにするし!」

 

「」

 

「……ポエム?」

 

「あ、私この後用事あったんだった! 2人共、またねー!」タタタッ

 

「」

 

「ねぇかれん、ポエムって何?」

 

「」

 

「かれーん? ポエムって何の事ー?」ユサユサ

 

本日の勝敗、かれんの敗北

とんでもないクロスカウンターを喰らった為。

 


 

新生徒会が発足し、1週間が経過した。毎日の様に生徒会室(コント部屋)で繰り広げられるイベントは枚挙に(いとま)がない。つい先日も、生徒会室では大人気少女漫画である今日あま旋風が巻き起こった。その威力は、普段は一切漫画を読まない四宮かぐやに……

 

ああーっ! 私もこんな恋がしたいわー!

 

とまで言わしめ、感動の涙を流させた程である。

 

「……っ!」タタタッ

 

そして……此処にも1人、今日あまにハマりまくった少女が居た。

 

私、巨瀬エリカ! 秀知院学園に通うごくごく普通の高校2年生! この学園には、四宮かぐや様っていう天女様が居て、私は毎日親友のかれんとかぐや様の美しさについて語り合ってるの。今日もかぐや様の尊さをかれんと共有しようと探しているんだけど……

 

「エリカ、おはようございます。」

 

「かれん? なんか今日、雰囲気おかしくない?」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ……あら石上会計、おはようございます。」

 

「あ、おはようございま……」

 

「あ、会計君、おはよう。」キラキラ

 

「す……ん? なんか……今日のガチ勢先輩、いつもと雰囲気違くないですか?」

 

「もう! 何よガチ勢先輩って! 私には巨瀬エリカっていうちゃんとした名前があるんだからね!」

(でも……私の事をそう呼ぶのって、会計君だけなんだよね……会計君、もしかして私の事!?)

 

少女漫画に毒された思考は、石上を巻き込み明後日の方向へ向かおうとしていたが……

 

「もしかして……先輩まで頭ナマ先輩になっちゃったんですか?」

 

石上には通じなかった。

 

「石上会計、刺しますわよ?」

 

「さーせん。」

 

「頭? ナマ? それってどういう意味なの?」

 

「わかりやすく言うとですね、類義語に頭藤原先輩という言葉があります。」

 

「それ絶対良い意味じゃ無いじゃん!」くあっ!

 

「あ、元に戻りましたわね。」

 

「それで……なんで、ナマ先輩みたいになってたんですか?」

 

「……石上会計には、普段の私があんな風に見えてるんですの?」

 

「実は、今日あまっていう少女漫画を読んでテンション上がっちゃって……」

 

「あぁ、そういう……僕も読みましたよ。アレ、面白いですよね。」

 

「そうなの! もうメチャクチャ感動しちゃって!」

 

「わかります。タイトル回収した時のシーンとか特に感動しましたし……」

 

「確かに、あのシーンにはうるっとしましたわ!」

 

………

 

石上達3人が今日あまについて語り合っている一方、それを隠れて眺めている少女が1人……

 

「……ッ」ソワソワ

(……私も今日あま(漫画)読んだばっかりだし、ギャルだから混ざってもおかしくないよね? 語ってもおかしくないよね?)

 

 

本日の勝敗、早坂の勝利☆

混ざって語れた為♪

 


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