「はぁ、やっと終わった……」
秋の目玉イベントである体育祭も無事に終わったある日の午後……振り分けられた場所の掃除が終わり教室に戻る途中だった私は、両手にアイスクリームを持って佇む巨瀬さんを見掛けた。
「あれ? 巨瀬ちん、何してんの〜?」
「あ、早坂さん。かれんがアイスクリーム食べたいって言うから買って来たのに、ゴミ捨てから全然戻って来ないの。」
「へー、何してるんだろうね?」
………
〈校舎裏〉
「ゴミ捨て完了ですわ!」パンパンッ
私はクラスから持って来たゴミ袋をゴミ捨て場に投げ入れると、パンパンと手を叩いて埃を払います。
「エリカに頼んだアイスクリーム、楽しみですわ! はぁ……それはそうと、今日はあまり会長とかぐや様をお見掛けしませんでしたわね……」
私はエリカの所に戻ろうと踵を返すと……
「四宮って綺麗だよな。」
「」
(っ!!?!?)
1枚の窓を隔てた廊下を、会長とかぐや様が並んで歩いている光景が目に飛び込んで来ました。あまつさえ、私の妄想の様なセリフを会長がかぐや様に仰っている場面を見て私はっ……いえ大丈夫、わかってますわ。きっとただの聞き間違いでしょう。私ったらエリカにも散々言われていますのに、現実と妄想の区別くらいはつけなくてはいけませんわね……
「皆が言ってる事だ、四宮は美人だって。」
「っ!!!」
(
………
「このままじゃ溶けちゃうから、早坂さんにあげる。」
「え、いいの? ありがとー! 丁度甘い物食べたかったんだよね〜。」
「じゃあ私、かれんを探しに行くね。」
「うん、ありがとね〜。」ヒラヒラ
溶ける前にさっさと食べてしまおう、そう思い口を開けた時……
「早坂! 早坂!」タタタッ
「え?」
「ねえねえねえねえねえ!!」ダキッ
「」ベチャッ
駆け寄って来たかぐや様に抱き付かれ、その衝撃でアイスクリームが頬へとへばり付いた。
「……」
「早坂! 今日は何の日だと思う?」
かぐや様は目の前の惨状を一切気にする事無く、嬉しそうにそう聞いて来た……
「知らないです……何の日なんですか?」
「今日はね……とっても良い日なのよ!」
「そうですか、私にとってもそうだったら良かったのに……」
………
「はぁ……やっと終わった。ゴミ捨て場、地味に遠いんだよな……」
ゴミ捨ての面倒臭さを愚痴りながら歩いていると、前方からスキップをしながらやって来る女子生徒が見えた。いや、アレは……
「〜〜〜♪」
それは上機嫌な様子で、鼻歌を歌いながらスキップをする四宮先輩だった。
「あら、石上君。ゴミ捨ての帰り? お疲れ様。」
「四宮先輩、お疲れっす。なんか機嫌良さそうですね、何か良い事でもあったんですか?」
「……石上君、今日が何の日かわかる?」
「え、なんかの記念日ですか?」
「今日はね……とっても良い日なのよ!」
「……はい?」
「ふふ♪石上君また後でね!」
四宮先輩は軽やかなステップを踏みながら、校舎へと戻って行った……良い事があったのならいいか、そう思い直して振り返ると……
「……」
「……うわっ、早坂先輩!? 口がチョコ塗れですけど、どうしたんですか!?」
「……会計君、今日が何の日かわかる?」
「え……と、とっても良い日ですか?」
「……それ、本気で言ってる?」
「すいません、絶対違いますよね!ち、ちなみに、何の日か聞いても……?」
「……今日はね、ストレス解消の日なの……付き合ってくれるよね?」フキフキ
「い、行きまーす!」
瞳孔が開いた眼で、早坂先輩は口元を拭いながら淡々とそう言った……間違い無い、滅茶苦茶ストレスが溜まっている……僕は何処に付き合うのかを確認する事さえせずに了承する。聞かなくてもわかる……こうなった状態の早坂先輩が行く場所は1つしか無いのだから。
〈バッティングセンター〉
「……ッ!」カキーン
「……」
「……ッ!ッ!」カキーン、カキーン
「……」
(
本日の勝敗、早坂の負け
かぐやにとっては良い日だったが、早坂にとってはそうじゃなかった為。
〈カラオケ店〉
「それでは、交流会の方を始めさせて頂きます! 今日は飲んで歌って無礼講でいきましょー!!」
「「「イェーイ!!」」」
幹事の挨拶を皮切りに、ワイワイとした雰囲気が漂う部屋に……私は居た。
「……」ムッスー
(なんで私がこんな目に……それもこれも、かぐや様があんな事を言い出さなければ……)
私は不機嫌な雰囲気を隠す事もせずに、どうしてこんな所に来る羽目になったのかを思い出した……
………
〈2年教室前〉
「白銀、今日は生徒会もバイトも無いんだろ? カラオケ行かね?」
かぐや様と教室に残っていると、その前を会長とその友人2名が話しながら通り過ぎて行く。どうやら普段は忙しい会長を遊びに誘っているらしいが、会話の中に出た交流会という単語が引っ掛かった。多分アレは……
「まぁ、いつも誘いを断ってばかりだからな……いいよ。」
「よしきた!」
「何時にどこ?」
「4時に駅前のカラパラ。」
会長達は扉越しに聞き耳を立てられているとも知らずに、そのまま通り過ぎて行った。
「……かぐや様、いいんですか?」
「偶の休みに、友達と遊ぶのを憚る理由なんてありませんよ。」
どうやらかぐや様は、交流会の意味に気付いていないみたいだ。その証拠に……私は束縛しない女ですし、とかトンチンカンな事を言っている。いや、絶対束縛しますよね? 私はその言葉を飲み込む代わりに、交流会について教えてあげる事にした。
「あれ多分合コンですよ?」
「絶対止めなきゃじゃない!? 合コンってアレでしょ!? 男女が
(偏見が凄い……)
「うーん……説明が面倒なので補足や訂正はしません、そうです。」
「そんな集まりに会長が……」
「まぁ本人は気付いてないっぽいですけど。」
「あぁっ……! い、一体どうしたら!?」
「……」
(まぁ会長の事だから、例え他校の女子に言い寄られたとしても毅然とした態度で接しそうだけど……なんてったって、私をフッたくらいなんだし!)
早坂の中には、未だに白銀に対するわだかまりが残っていた。
「かぐや様も、お目付け役として参加して来たらどうですか?」
「イヤよ! そんな性欲にまみれた男の群れに私を放り込むって言うの!? この薄情者!!」
「……そうですね、すみません。」
この案は無しか……まぁかぐや様をその様な集まりに参加させたと本家の人間に知られたら、
「あ、何も私が直接行く必要も無いのよね。」ジッ
かぐや様はそう言うと、私をじっと見つめて来た。 ……あ、絶対面倒な事になるやつだコレ。
………
「はぁ……」
(ちゃんと訂正しておけば良かった……こんな性欲にまみれた男の群れに私を来させるなんて……かぐや様の薄情者! こうなったら……)
「なんか暗いね、どうしたのー? 友達が急に来れなくなったとか?」
「別に……どうだっていいでしょ。」
馴れ馴れしく話し掛けて来る会長の友人に適当に答えながら作戦を練る。会長は私に直ぐに気付いた様で、居心地が悪そうにしている。
「ハーサカさん……だよな?」
「あっ、白銀と知り合いなの? なぁ白銀、紹介してくれよ!」
「いや、知り合いっていうか何というか……」
「はぁ……言えばいいじゃん、昔こっぴどくフった女だって。」
「」
「えっ!? あ、あぁ、そういう……白銀、俺あっち行くわ……」
「っ!?」
私の発言によって、気まずい空気が立ち込める……居た堪れなくなった会長の友人は、気まずさを隠す事も無くそそくさと逃げ出した。
「ごめん……やっぱり気まずいよね、フった女が居る会なんて。でも……」グスッ
(とりあえず、ゴリゴリに罪悪感を感じてもらってさっさと帰ってもらおう。……っていうか、会長さんが合コンになんて来なければ、私も今日の放課後はフリーだったのに! そもそもの話……本気じゃなかったとはいえ、私の告白に対して即答で断るなんて失礼過ぎるんじゃないの? 本当に
早坂の口撃に私情が挟まり始めた。
「私も君の傍にいるの……つらいよ。」グスッ
(私の
「……ッ」グサッ
(心が……心が痛い!!)
「すごくつらぃよ……」グスッ
(私の事をちゃんとわかってくれる人とか……)
「ごめん……」ガクガクッ
「あーつらい……」キッ
(私はそういう人を好きになると思うから、私をフったからって調子に乗らないで欲しいんだけど!)
早坂の口撃の内訳が10:0で私情になった。
「ホントごめん……」ガタガタッ
(俺は……俺はなんて事をっ……)
本日の勝敗、白銀の敗北
ゴリゴリに罪悪感を感じた為。