石上優はやり直す   作:石神

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感想ありがとうございます(`・ω・´)


早坂愛は撮りたい

その日は珍しく生徒会は休みだった。会長にバイトの予定が無かったら、遊びに誘おうと思っていたんだけど……会長は他校の生徒との交流会に参加するらしい。他校の生徒との交流会……何故か合コンみたいな印象を受ける言葉だけど、会長がそんな集まりに行くとは思えないし、普通に真面目な感じの会なんだろうな。

 

(まご)う事なき合コンである。

 

早く家に帰っても勉強かゲームくらいしかやる事が無いし、折角だからゲームショップや本屋でも行くかと無理矢理予定を立てた僕は街へと繰り出した。

 

………

 

「……ん、もうこんな時間か。」

 

スマホで時間を確認すると、随分と時間が経っていた様だ。ゲームショップ巡りが終わり、古本屋で何か掘り出し物でもないかと立ち読みを繰り返していたら、外はもう真っ暗だった。もうそろそろ帰るか……そう思いスマホをポケットに仕舞おうとすると、スマホがメッセージの着信を伝えて来た。

 

「……?」

 

メッセージの送り主は早坂先輩、そしてその本文は……

 

〈助けて〉

 

そのメッセージと共に送られて来たのは、早坂先輩の居場所を示す位置情報だけだった。僕は素早く手に持っていた本を棚に戻すと、タクシーを拾って急いでその場所へと向かった。

 

………

 

「早坂先輩! 大丈夫ですか!?」

 

「か、会計君……」

 

早坂先輩はカラオケ屋の前に配置されているベンチに座り込んでおり、一目見てわかる程憔悴し切っていた。

 

「大丈夫ですか!? 一体何がっ……」

 

「なまこがっ…なまこの内臓が……」ハッハッ

 

「ん? え……はい?」

 

「耳…壊れ……なまこ……」ハッハッ

 

「……本当に大丈夫ですか?」

 

「うぅっ…もぅ帰る……」

 

「えぇ……あ、じゃあ送って行きます。」

 

「ぅん……」

 

なまこの内臓という謎の言葉を繰り返す早坂に肩を貸し、タクシーへと乗り込んだ。後部座席に早坂先輩を寝かせて助手席に座ると、タクシーはゆっくりと速度を上げていく。ふとバックミラーに視線を向けると、先程のカラオケ店が見えた……僕は何故か、そのカラオケ店から目が離せなかった……

 

〈カラオケ店〉

 

〈〜〜〜♪〉

 

「……ん? なんで白銀(アイツ)は1人で歌ってんの?」

 

「さぁ?」

 

………

 

〈四宮邸〉

 

「早坂、随分と遅かったじゃない?」

 

「色々あったんです……」グッタリ

 

「……どうしてそんなに疲れ果てた顔をしているの? ちゃんと他の女から会長をガード出来たんでしょうね?」

 

「……ご心配無く、私が身体を張って(使って)合コンから抜け出させましたから……」

 

「え? 身体を使って……? は、早坂! 貴女、会長と何しっ……」

 

「会長、滅茶苦茶下手くそでした……」

 

「何が!? 何が下手だったの!?」

 

「下手なのに、(アレ)は凄く大きくて……」

 

「アレ!? アレって何の事!?」

 

「私、(耳が)壊れちゃうかと思いました……」

 

「壊れっ!?」

 

「すみません、かぐや様……今日はもうこれで休ませて頂きます……」ヨロヨロ

 

「ち、ちょっと早坂!? 下手って何の話なの!? アレって何!?……ねぇ! 早坂ったら!!」

 

本日の勝敗、かぐやの敗北

次の日に詳細な説明を受けるまで、悶々とした時間を過ごす事になった為。

 


 

数日後……未だ脳内にこびり付いたなまこの内臓(不快な残響)に頭を悩まされていると……

 

「はぁ、ホント酷い目に遭ったし。カラオケなんてもう絶対……ん?」

 

ピコンという電子音がポケットから聞こえて来た。私はスマホのトーク画面を開くとメッセージを確認する。その相手は……

 

〈マスメディア部〉

 

「緊急会議ですわ!」

 

「……今度はどうしたし〜?」

 

「つい先日、会長が合コンに参加されたという情報を入手しました。しかも! 会長はその合コンで……女子と2人で抜け出したらしいんです!!」

 

「へぇー……」

 

更に頭を悩ませる事になりそうだと早坂は思った。

 

「あ……そういえば昨日、風祭君達が自慢しに来てたね?」

 

「……えぇ、エリカの言いたい事はわかってますわ……会長を合コンに参加させた大罪人の処遇は、後程決めますので!」くわっ!

 

「いや、別にそういうつもりで話題にした訳じゃなかったんだけど……」

 

「あと……コレは未確認の情報ですが、その女性は会長と2人で合コンを抜け出した後、何故か居合わせた石上会計にお持ち帰りされたとか……」

 

「別にお持ち帰りなんてされてないし!」くわっ!

 

「……どうして、早坂さんが怒るんです?」

 

「あ……ほ、ほらっ、会計君はそんなタイプじゃ無いし? みたいな?」

 

「まぁ確かに……どちらかと言えば、(くだん)の女性が石上会計を誑かした可能性の方が高いですわね……」

 

「それも無いんじゃないかなぁ……」

 

「私もそう思う……」

 

「なんでもその女性は以前、会長にこっぴどくフられたとの事。会長の事が忘れられなかった……という気持ちもわからなくはないですが、だからと言ってしつこく付き纏って良い理由にはなりません!! しかも、再度会長にフられて直ぐに石上会計に走るなんてとんだ尻軽女ですわ!」

 

「……」

 

「フられてしまったのだって、そういった内面を会長に見透かされていたからでしょうし……そもそもの話、会長×かぐや様の尊さに勝てる訳が……」

 

「……」ムニー

 

「は、早ひゃかひゃん? なんへほっへを……?」

 

「別に〜?」ムニムニ

 


 

〈中庭〉

 

「ふぁっ……」

 

「先輩、寝不足ですか?」

 

昼休み……中庭を通り掛かると、ベンチに座って眠そうに欠伸をする早坂先輩を見掛けた。

 

「あー、見られちゃったね……うん、昨日紀ちんと巨瀬ちんの2人とラインしてたんだけど、いつまで経ってもかぐや様かぐや様、会長会長って……」

 

「うーわっ、それは面倒っ…大変でしたね。」

 

「あはは、本音漏れてるし。まぁでも、人間関係ってこういう些細なやり取りが大事だしね〜。」

 

「僕だったら、スタンプ1個でテキトーに終わらせちゃいそうです。」

 

「あはは、会計君酷〜い!」

 

まんまその対応をしている。

 

「相手をするのが面倒なら、botを使うという手もありますけどね……」

 

「bot?」

 

「特定の言葉に反応して、設定した言葉をコメントしてくれる機能みたいなモノです。例えば、ガチ勢先輩の場合はかぐや様(四宮先輩)って単語が出たら、botが同意する言葉を自動で返信する様にしておけば良いんじゃないですか?早坂先輩なら〈わかる〜!〉って感じで……あの2人ならそういう知識は薄そうですし、騙されてくれそっ……」

 

「会計君!」ガシッ

 

「すいません! 流石に先輩達の事、蔑ろにし過ぎですよね! 今言った事は忘れっ……」

 

「そのbotについて詳しく教えて!」

 

「えぇ……」

 

「……私って、こう見えてメチャクチャ忙しいんだよね。あんな常軌を逸したどうでもいい長文に付き合う程暇じゃないし。」

 

「ついさっき、人間関係はこういう些細なやり取りが大事だとか言ってませんでした?」

 

………

 

同日深夜……

 

〈こんばんわ、早坂さん! 今日もかぐや様は天界から降り立った天女の如き麗しさだったわ! そして、そんなかぐや様を見るだけで私は幸せな気持ちでいっぱいになるの! それでちょっと調べてみたんだけど、この幸せな気持ちは幸せホルモンと呼ばれているオキシトシンが関係してるらしいの! ただ其処に存在してるだけで周囲の人間を幸せにするなんて、かぐや様はなんて尊くて素晴らしい方なんだと再認識したと同時に、オキシトシンなんて呼び名じゃなくてカグヤサマトウトシンと呼ぶべきと強く思ったの! その筋の権力者に(つて)があれば、そう呼ぶ様に働き掛けるんだけど……早坂さんはどう思う?〉

 

〈メッチャわかる〜!〉

 

〈早坂さんもそう思ってくれてたなんて感激だわ! やっぱりかぐや様の魅力は、他者を惹きつける優雅な何処だと思うの! あ、かぐや様の魅力が優雅な何処しか無いって意味じゃなくてね? かぐや様の魅力的な何処なんてそれこそ無数にあると思うし、私達が魅力的だと思って見てる部分は、かぐや様のほんの一部でしか無いと思うの。私だってかぐや様の魅力を日々発見する毎日を過ごしてるんだもの、かぐや様の魅力的な何処を上げていけばキリが無い……そもそもの話、かぐや様の魅力は文章だけでは伝え切れないわ! この前も……〉

 

〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉〈ピコン〉

 

「…………」

 

本日の勝敗、早坂の敗北

自分で返信をする必要はなくなったが、通知がうるさ過ぎて結局眠れない夜を過ごす羽目になった為。

 


 

〈四宮邸〉

 

「早坂見て! この写真、生徒会の皆で撮ったの!」

 

かぐや様はそう言うと、新しく買ったばかりのスマホを取り出した。画面には生徒会のメンバー全員が映っており、その中心で屈託無く笑う少女には……かつて、氷のかぐや姫と揶揄されていた面影は微塵も存在しなかった。

 

「……良い写真ですね。」

 

「ふふ、そうでしょう? 他にもね? これはさっきの写真の後、藤原さんが女子3人の手でハートを作ろうって言った時の写真で……」

 

かぐや様は嬉しそうに、その時の説明を加えながら順番に写真を見せてくれた。携帯電話が壊れた所為で、中のデータが消失した事を知ったかぐや様は酷く落ち込んでいたけれど……次々と画面に映し出される写真を見れば、他の生徒会メンバーが保存していた写真を貰ったとわかる。かぐや様が大切にしていた思い出は、他の人達にとっても同じだったという事だ。

 

「それでこれは、体育祭の時の石上君。応援合戦が終わったばかりだから、私の制服を着たままなの。藤原さんも可愛いって言いながら、パシャパシャ写真を撮ってたわ。」

 

「……」

 

写真を指差し思い出を語るかぐや様を見ながら、ただ漠然と……いいなと思った。

 

………

 

〈中庭〉

 

「え? 写真ですか?」

 

「そ、イ○スタにデコった写真をアップしようと思ってね〜。会計君の顔はボカしとくから、協力してくれない?」

 

「僕で良いんですか? もっと被写体に向いた人が居るんじゃ……」

 

「そんな難しく考えないで大丈夫! じゃ、撮るよ〜?」

 

「え、ちょっ、早っ……!?」

 

「イェーイ!」パシャッ

 

………

 

〈四宮邸〉

 

「ふぅ……」

 

使用人としての仕事が終わり自室に引き上げた私は、スマホの写真アルバムに収められた……一枚の写真を表示する。

 

「……フフッ。」

 

昼休み、イ○スタにデコった写真を載せると嘘をつき、会計君と撮った写真を眺める。中庭を背景に私と会計君が映っているその写真は、自撮り写真だった所為で2人の距離が微妙に近い印象を受ける。私の隣に映る男の子は、少し緊張しているのか表情が固い……かぐや様が見せてくれた写真でも笑顔の写真は少なかったから、多分苦手なんだと思う……写真を撮る速さに戸惑っていた姿を思い出し、自然と笑みが溢れる。

 

「……」

 

初めて撮った、男の子と写った写真……でも、1つだけ気に入らない所があった。

 

「はぁ……」ポフンッ

 

ただ、写真の中の私だけが……少しだけ気に入らなかった。それは学園内で生活する際に使用している、 演じている(嘘の)私の姿だったから……

 

「いつか……」

 

私もかぐや様みたいに、心から笑える日が来るのだろうか……そんな事を望める資格がある筈が無いのに、その日を夢想しながら……私の意識は深く沈んで行った。

 

 


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