石上優はやり直す   作:石神

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次話は土曜日に投稿します。


早坂愛は捨て去りたい

最初に感じたのは、小さな違和感だった。いつもの様に生徒会室を訪れ、生徒会業務に従事していた時に……ふと思ったのがキッカケだった。

 

「……」

(今日は、早坂先輩に会わなかったな……)

 

小さな違和感とは言っても、そこまで変という程でも無い。同じ秀知院生とはいえ、学年が違えば会わない日も普通にあるし、今までだってこういう日が無かった訳じゃない。今日は偶々そういう日だったと……この時はそう思っていた。それから数日続けて、早坂先輩と会わない日が続くまでは……

 


 

〈中庭〉

 

放課後になると、僕は早坂先輩といつも座って話していたベンチに向かっていた。軽い気持ちで、運が良ければ会えるかもと思っていたら……

 

「……あ!」

 

遠目からだが、向かっているベンチに3人の女子生徒が座っているのが見えた。僕の勘違いじゃ無ければ、いつもの3人が揃って雑談をしている筈だ……僕は小走りで其処へと向かった。

 

………

 

「あら、石上会計。走ってどうしたんですの?」

 

「……あれ? 早坂先輩は?」

 

「あら? さっきまで居ましたのに……」

 

「あ、ホントだ……急用とか? 早坂さん、バイトが忙しいっていつも言ってたし……」

 

「そうですか……」

 

まるで……僕が此処に来るのを察知して、急いで離れた様な……そんなタイミングだった。そんな訳が無いと頭では否定しても、嫌な感覚が胸の中に広がり、いつまでも居座っていた。

 

………

 

「もしかして……避けられてる?」

 

その考えに至ったのは、早坂先輩と会わなくなって3日が経過した頃だった。メッセージを送っても、返信も無ければ既読も付かない……最初はテスト勉強やお付きの仕事が忙しい所為かと思っていたけど、ここまで会わないのは流石におかしい。避けられているという考えに行き当たるのも、当然と言えば当然だ。先輩と最後に会ったのは、バッティングセンターに呼ばれたあの時……少し悩んでいる様な雰囲気だったけど、何か関係があったりするのか? とにかく、先輩と会わないと何もわからない。そう考えを巡らせていた時に、スマホがメッセージを受信する音が響いた。

 

「これは……」

 


 

次の日……僕は学園中を走り回る事になった。昨日のメッセージ以降、連絡の取れなくなった早坂先輩を探して問い質す為だ。いきなりブロックと着信拒否までされては、流石に納得出来ない。だけど、ここまで苦戦するとは思わなかった……

 

〈朝のHR前〉

 

「早坂先輩!」

 

「ッ!」ダッ

 

「ちょっ、早っ!?」

 

HR前の人でごった返す廊下を、早坂先輩は器用に躱しながら走って行った……

 

「早坂先輩……」

 

〈昼休み〉

 

「……ッ」

 

「ハァ…ハァ……やっと捕まえましたよ。」

 

昼休み……早坂先輩を廊下の行き止まりへと追い込んだ僕は、徐々に近付いて行く。昼食を食べる為に中庭や教室に人口が集中するのを狙って、早坂先輩を捕まえ様と試みた。思っていた通り廊下の人の出入りは朝と比べるとずっと少なかったし、障害物無しの直線勝負なら僕に分がある。

 

「早坂先輩、話があります。」

 

「……私には無いの。」ガラッ

 

早坂先輩はそれだけ言って窓を全開にすると、次の瞬間……窓際に足を掛けて跳躍した。

 

「ちょっ!? 此処2階!!」

 

直ぐに身を乗り出して下を覗き込む……早坂先輩は信じられない様な身のこなしで器用に壁を蹴って着地を決めると、そのまま此方を振り返る事も無く走り去って行った……

 

「に、忍者かよ……」ガクッ

 

早坂先輩に怪我が無かった事と、ちゃんと話が出来なかった事実が合わさり思わず脱力する。はぁ、ダメだ……捕まえられない所か、話さえ聞いてくれない。どうすれば良い? どうすれば、早坂先輩を捕まえられる?

 

「…………あ!」

 

暫く思考を巡らせていると、妙案が浮かび上がる。この方法なら、確実に早坂先輩を捕まえて話をする事が出来る筈だ。僕は早速、準備に取り掛かった。

 


 

〈放課後〉

 

放課後……会計君が生徒会室に向かったのを確認した私は、いつもの2人の他愛のない会話に付き合っていた。紀さんはどうしてそういう思考になったのかはわからないけど、会長のラップを全校生徒に披露する企画を立てていると言った……ホント無理、絶対正気じゃ無い、常軌を逸してると思ったので、全力で否定しておいた。会長の話題が終わり一安心していると、巨瀬さんが言った。

 

「ねぇ早坂さん……最近会計君と話してる所見てないけど、ケンカでもしてるの?」

 

「校内で石上会計から逃げ回っていたと聞きましたけど……何かされたとかではないんですわよね?」

 

「……別にそういう訳じゃないよ? なんでも無いから気にしなくて大丈夫だし!」

 

「そっか、じゃあ……」ガシッ

 

「こうしても問題ありませんわね……」ガシッ

 

「え? 2人共なんで腕を掴ん……っ!?」

 

そこまで言って気付いた。会計君がゆっくりと此方へ歩いて来ている事に……

 

「き、紀ちん、巨瀬ちん! とりあえず離してくんない!?」

 

「ごめんなさい、早坂さん……」

 

「私達にも事情があるの……」

 

「じ、事情って何だし!?」

 

「……」

 

「……」

 

………

 

数時間前……

 

「つまり……早坂さんを誘い出し、捕まえる手伝いを私達にして欲しいと?」

 

「はい。話をしようにも、僕を見るなり逃げられてしまうので……」

 

「会計君の事は信用してるけど、早坂さんが意図的に避けてるなら何か理由があるんだろうし……」

 

「私も……エリカと同意見ですわ。石上会計が良からぬ事をした……とは思っていませんが、早坂さんを無理に捕まえるのは良くないかと……」

 

「……勿論タダでとは言いません。」

 

「んまっ! 石上会計! 私達はその程度の甘言で意見を変える様な、安い女じゃありませんわよ!」くわっ!

 

「かれんの言う通りよ! あまり私達の事を見くびらないでよね!」くあっ!

 

………

 

「……っ!!」ハフハフッ!

(石上編集が知っている、会長とかぐや様のエモい話……大変興味深いですわ!)

 

「……っ!!」ハッハッハッ!

(生徒会室のかぐや様のご様子と、好きな紅茶の銘柄……知りたい! 絶対知りたい!!)

 

「絶対コレ2人共買収されてるしぃ……」

 

「早坂さん! 何か行き違いがあるのなら、ちゃんと話し合わないとダメですわよ!」

 

「困った事があったら私達も相談に乗るからね!」

 

「しかも滅茶苦茶白々しいし……そのセリフは買収されてない状態で聞きたかったかなぁ……」

 

2人の拘束から抜け出せないでいると……目の前には、ずっと避けて来た張本人が立っていた。

 

「……先輩方、協力ありがとうございます。お礼はまた後日……早坂先輩、こっちです。」ギュッ

 

「……うん。」

 

会計君に手を引かれて歩き出す。前を行く会計君の顔は見えないけれど……握られた手とその背中からは、絶対に逃がさないという強い意志を感じた。

 


 

〈屋上〉

 

「会計君さぁ……紀ちん達を買収するのは、流石にやり過ぎじゃない?」

 

「……早坂先輩が逃げなきゃ、態々ここまでしませんでしたよ。」

 

「それは、まぁ……ね。」

 

「早坂先輩……なんで僕を避けるんですか?」

 

「……ッ」

 

いきなり核心を突かれ、思わず言葉に詰まる。

 

「もしかして……知らないうちに、先輩に嫌われる様な事をしてたんですか?」

 

「……」

 

違う、そんな事無い。君はそんな事をする様な子じゃ無い事を……私はよく知っている。君が気遣いが出来て、他人を思い遣れる優しい男の子だって。

 

「違うなら理由を教えて下さい。何か悩みがあるなら……言って下さいよ。あの時言ってくれた言葉は嘘だったんですか? 僕はまだ……悩みを打ち明けられる程、信用されてないんですか? 僕と早坂先輩は……友達じゃないんですか?」

 

友達……そう言えたら、どんなに良いだろう……でも、私の返事は決まってる。

 

「……気持ちの悪い勘違いをしないで。ちょっと一緒に遊んだくらいで……友達だとか信用だとか、勝手な事を言わないで。私は君の事なんて、なんとも思ってない。」キッ

 

「……ッ」

 

その言葉に傷付いた様な表情を浮かべる男の子を私は睨み続ける。あぁ、違うのに……本当はこんな事、冗談でも言いたく無いのに。でも仕方がない。もし黄光様がこの子を標的にしてしまったら、私なんかじゃどう足掻いても……守る事なんて出来ないのだから。

 

「私と君はただの他人、それ以上でも以下でも無いの。だから……」

 

だからこそ、私は選び続ける。たとえ嫌われてでも、彼との関係を此処で終わらせる選択肢を……

 

「これからは学園内で見掛けても……馴れ馴れしく話し掛けて来ないで!」

 

「早坂、先輩……」

 

この世界は悪意に満ちており、都合の良いハッピーエンドに恵まれる人間は極々少数である。数ヶ月先の未来から逆行して来たという特異性を持っていたとしても、あくまでも石上優という人間は……何の権力も持たない、ただの学生でしか無い。

 

「……ッ」

 

たとえ此処で、2人の道が別れたとしても……

 

 

お互いの心に、消えない傷が残ったとしても……

 

 

いつかは時間が解決する

 

 

各々が自分なりに気持ちの落とし所を見つけ……

 

 

学生時代の苦い思い出として

 

 

数年後、或いは数十年後に……

 

 

そんな事もあったなと、追憶し黄昏れる……

 

 

「……じゃあね。」

 

 

しかし、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないで下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処で終わればの話

 

 

 

 

 

 

 


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