石上優はやり直す   作:石神

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早坂愛は戯れたい

あの日から、私と優君の関係は続いている……あれから私達は、2人で話し合って色々な事を決めた。学園の外では暫く会わない様にするという事と、学園内では他の人が居る時以外は、2人で居る所は見られ無い様にするというモノだ……黄光様の眼となっている存在が学園内に居るとは限らないけれど、優君の為にもやれる対策はしておきたい。念の為、周囲に人が居る時は不干渉を徹底する……だけど、優君と学園内ですれ違う時くらいは、何かしたい。だから、彼と私の間だけで通じるサインを決めた。それは……

 

「今度団長が応援団の皆でカラオケ行こうってさ。石上も来るでしょ?」

 

「あぁ、参加させてもらうよ。」カチャ

 

「早坂ー、帰りクレープ屋寄って行こうよ! 凄くイ○スタ映えするクレープ屋見つけたんだよねー。」

 

「いいよ〜、楽しみだし!」スッ

 

お互いがすれ違う瞬間に私は髪留めのシュシュを、優君は首に掛けたヘッドホンを触るというモノだ。初めて出来た男友達との……2人の間でだけ伝わる秘密のサインに、少しだけドキドキしたりもした。

 

………

 

今日も私達は誰にも見られない様に、人目の無い中庭の一角で落ち合って話をしていた。

 

「へー、そんな事もしてたんですか……」

 

「うん、他にも……ちょっとした任務で、深夜の生徒会室に忍び込んだ事だってあるんだよ?」

 

「え!? でも深夜の学校って警備システムとかあるんじゃ……」

 

「生徒会の警備システムはOB会が設置したモノで、赤外線センサーや体重感圧で時間帯によっては警備会社に連絡が行く様になってるんだけど、監視カメラはプライバシーの観点から顔認証登録されてない人物の入退室のみを記録する様に設定されてるの。だからハッキングで特定の時間帯は機能しない様に設定し直せば、簡単に忍び込めるって訳。ハッキングに対する防衛システムも旧式のヤツだから、私ならさくっと突破出来ちゃうしね。」フフンッ

 

「」

(すげぇ……)

 

………

 

10分程、私の仕事について話していると……優君が神妙な顔付きで訊ねて来た。

 

「先輩は……全部終わったら、どうしたいとかあるんですか?」

 

「……全部終わったら?」

 

「はい。目標が有るのと無いとじゃ、結果にも影響が出ると思うんですよ。四宮家の使用人を辞める事になったら、自由な時間も出来ますし……何かやりたい事とか無いのかなって。」

 

「自由な時間……」

 

そんな事、今まで考えた事もなかった。でも優君の言う通り……私自身も四宮家の支配下から逃れるのが最終的な目標だから、その後の事を考えておくのは決して無駄では無い。だけど、いきなりそんな事を聞かれても……っ! やりたい事が浮かばない代わりに、私の頭に浮かんだのは……

 

「もし、そうなったら……今度は優君にメイドとして雇ってもらおうかな?」

 

「メイド!? そ、それはっ……」

 

「フフ、何焦ってるの? 冗談だよ、冗〜談♪」

 

「な、なんだ冗談ですか……」

(弄ばれた……)

 

「んー? もしかして期待しちゃった? 男の子ってメイドとか好きみたいだしねー?」グリグリ

 

「ちょ、突っつかないで下さいよ……別に僕は、メイドとか興味無いですからっ……!」

 

「……ふーん?」

 

「な、なんですか?」

 

「……優様、襟が乱れていますよ。」

 

私は瞬時に仕事モードへと切り替えると、優君の襟に手を伸ばして丁寧に正した。

 

「んーーーっ!?」ガバッ

 

その瞬間……優君は両手で顔を覆って勢い良く俯くと、よくわからない叫び声を上げた。

 

「プッ…あははは! 滅茶苦茶効いてるし!」

 

「それはズルいですってぇー!」

 

「ご主人様呼びとどっちが好み?」

 

「お願いですから、趣向を探らないで下さい……あ! 僕そろそろ生徒会行かなきゃなので!」

 

「フフ……うん、またねー。」フリフリ

 

去って行く優君の背中を見つめながら思う……こうやって何も気にする事無く優君と話が出来るだけで、こんなにも楽な気持ちになれるなんて知らなかった。それと同時に……私の冗談に焦る優君を見ていると、今までにはなかった感情が私の中に芽生えたのを感じた。

 

「……ッ!」ムフー!

(……年下の男の子を揶揄うのって、凄く楽しい事なんだ!)

 

早坂は間違った解釈をした。

 


 

次の日の昼休み……私は昨日と同様、人目を避けた場所で優君と今後について話し合っていた。

 

「頻繁にハッキングすると、その分リスクも上がっちゃうし……」

 

「いっその事……迷惑系YouTu○erとかを唆して、本家に突撃してもらうとか……」ガサガサッ

 

「ッ!」

 

「っ!?」

 

すると、後ろの茂みから草木を揺らす物音が聞こえて来た。身体が硬直し、優君と視線がぶつかる……私は意を決し、茂みへと声を掛けた。

 

「……誰?」

 

「……ッ」

 

「……」ガササッ

 

茂みの中から出て来たモノ、それは……

 

「ニャ?」

 

「ッ!」ズザァ

 

その姿と鳴き声を聞いた瞬間……私は無意識に後ろへと飛び退いていた。

 

「なんだ猫か……」ホッ

(この状況とセリフで本当に猫だったのって、逆に珍しい気がするけど……)

 

「ンナァ……」スリスリ

 

「おー、人懐っこい……先輩? どうしました?」

 

「いや、その……」

 

「もしかして……先輩って猫が苦手だったりします?」

 

「苦手って言うか……嫌い。」

 

「嫌い!? えー、猫嫌いの人ってホントに居るんですね……あ、もしかしてアレルギーですか?」

 

「アレルギーとかじゃ無いけど……昔、四宮家の敷地内に紛れ込んだ猫を触ろうとしたら、引っ掻かれて凄く痛くて怖い思いをしたの。それからかな、猫が嫌いになったのは……」

 

「……」

(割と可愛い理由だった……)

 

「わかってくれた? 」

 

「……アレルギーじゃ無いのなら、ちょっと触ってみませんか?」

 

「だから、猫は嫌いだって……」

 

「……早坂先輩を引っ掻いた猫は、偶々気性が荒い猫だったのかもしれませんし、近くに自分の子供が居たから警戒していただけかもしれませんよ? 僕が抑えておくので、ちょっと触ってみませんか?」

 

「……」

 

「本気で嫌なら、無理にとは言いませんけど。」

 

「優君がそこまで言うなら……でも手を近付けた所で、わぁ! とかしない?」

 

「流石にそんな小学生みたいな事しませんよ。ただ、猫の上から触ろうとするんじゃ無くて、下から掌を向ける感じで触ってあげて下さい。」

 

「う、うん……」

 

「じゃ、ちょっとお前は大人しくしててくれよ?」

 

「ニャ?」

 

優君は猫を抱き抱えると、片手で前足を隠して此方へと向けた。私は意を決して、そっと右手を猫へと近付ける……猫は近付いて来る私の右手を、興味深そうに凝視している。

 

「……ッ」

 

猫の鼻先まで近付けて手が止まった。幼い頃の痛くて怖い記憶が脳裏を過る……

 

「ニャゥ……?」スンスン

 

緊張する私には我関せず……といった風に、猫は私の指先に鼻を近付けて匂いを嗅いで来た。

 

「ニャ…?…ンナァ……」ペロペロ

 

「……ッ!!?」

 

次の瞬間、突如指先を舐められた。まるで毛繕いをする様に、猫は私の指を舐め続けている。その姿と感触に……今まで味わった事の無い、名状し難い感情が私の心を埋め尽くした。

 

「〜〜〜っ!!?」キュンッ

 

「大丈夫そうですね、次は撫でて見ますか?」

 

「ぅん……」

 

撫でる力が強くならない様に気を付けながら、私は猫の頭を優しく手で往復させる。

 

「ンナァ…ゴロゴロ……」

 

「っ!? な、なんかゴロゴロ言ってるけど、大丈夫なの?」

 

「嬉しかったりすると、喉を鳴らすらしいですよ? 実際リラックスしてる顔してますし。」

 

「そう、なんだ……」

 

「……どうですか、猫って可愛いでしょ?」

 

「……うん、そうかも。」ニヘ

 

数日前の不安を感じていた時には、想像もしていなかった穏やかな時間に……自然と頬が緩んだ。

 

「ニャゥ……ンニャァ…」ウトウト

 

「……フフ♪」

 

……猫嫌いだった私が猫に触れて、猫を可愛いと思う時が来るなんて……優君と関わらなければ、絶対に知る事が出来なかった事だ。その事実にまた頬が緩み、ほんのりと胸の中が暖かくなった。

 


 

放課後……生徒会までの僅かな時間を利用し、いつもの場所へと向かう。既に早坂先輩は来ているらしく、茂みの中から人の気配がしている……可能性は低いが、別人が居る可能性も有り得るので、念の為足音に気を付けながら茂みの中を覗き込んだ。

 

「……」ソッ

 

………

 

「ンニャッ!」

 

「フフ、また来たの?」

 

「……」

 

「ニャゥ?……ニャー?」スンスン

 

「うん?……にゃー?」

 

「ナゥン……ニャッ!」

 

「フフ、にゃーん♪」

 

「クッ……」

(これは可愛い……)

 

……猫と戯れながら、猫語で会話する早坂先輩という光景を目の当たりにし、思わずニヤける。これは可愛すぎるわ……なんだったら動画を撮りたいくらい……流石にそれはダメだろうけど。

 

「ンニャァ……」スリスリ

 

「フフ、ママだよー?」ナデナデ

 

「ンクッ……」プルプル

(ま、ママって……滅茶苦茶母性感じちゃってるっ……だ、駄目だ! まだ笑うなっ……堪えるんだ!! し、しかし……)

 

「ナァ……」ウトウト

 

「よしよし……」ナデナデ

 

「……」

 

……もっと眺めていたい欲求に駆られたけど、あんまり待ち合わせに遅れても早坂先輩に悪い。僕は名残惜しい気持ちを感じつつ、後ろへと下がった。

 

(とりあえず、少し離れるか……足音立てながら近付けば、早坂先輩も気付いてくれっ……)ベキッ

「あ……」

 

その瞬間、足元からベキッという音が響いた。どうやら、気付かずに小枝を踏んでしまったみたいだ。僕は恐る恐る顔を上げると……

 

「〜〜〜っ!!?」

 

顔を真っ赤にして、パクパクと口を動かす早坂先輩と目が合った。まぁ……誰も居ないと思って猫とニャーニャー会話してる現場を他人に見られたら……黒歴史確定だな、うん。

 

「い、いつからっ……」

 

先輩は真っ赤な顔でそう訊ねて来た。あ、これは最初からです……とか言っちゃうと、更に恥ずかしくなってしまうヤツだ。僕はなんとか話を誤魔化そうと、別の話題を振った。

 

「え、えーと……早坂先輩、猫語話せるなんて中々バイリンガルですね?」

 

「」

 

絶句する先輩を見て……振る話題選択をミスった事に気付いた。

 

「……ッ!」プルプル

 

「せ、先輩?」

 

先輩は、俯いたまま肩を震わせている。やばい、覗き見してた事を怒られるかも……

 

「変顔しろし……」

 

「ん? え?……へ、変顔?」

 

「いいから! 変顔しろし!!」

 

「は、はい!!」

 

先輩の剣幕に押され、変顔を作った瞬間……目の前からシャッター音が聞こえて来た。先輩は僕の変顔が表示されたスマホ画面を此方へと向けると……

 

「も、もしさっきの事誰かに喋ったら、この写真名前付きでイ○スタに上げるからね!?」

 

「……さっきの事? 早坂先輩が猫と猫語でにゃーにゃー会話した挙句、母性に目覚めてた黒歴史の事ですか?」ゲスー

 

「態々全部言うなし!!」バシーンッ

 

「痛あっ!?」

 

本日の勝敗、両者引き分け

早坂は恥ずかしい所を見られ、石上は変顔写真を撮られた為。

 

………

 

「あ、そういえば……猫にはまたたびと思って持って来たんですけど、猫が酔うってどんな感じなんですかね?」

 

「……ウチの子を酔わせてどうするつもり?」

 

「ウチの子って……」

 

やっぱり早坂の負け

猫の可愛さに完落ちした為。

 


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