週が明けて数日、僕は早坂先輩にいつもの場所へと呼び出されていた。草木を掻き分けて進むと、執事服の人物に迎えられた。
「……」
その人物は、黙って此方を見つめている。まるで、僕が何かを言うのを待っている様に……その姿を見て、僕は無意識に問い掛けていた。
「……早坂先輩?」
「やっぱり……優君にはわかるんだ。」
聞き慣れた声でそう言われ、目の前の人物が早坂先輩だと確信する。その姿はかなり完成度が高く、見た目だけで見破るのは簡単では無いと悟った。なるほど、これは藤原先輩も騙されるわ……
「おぉー、これは……」
「ふふ、どう? びっくりした?」
早坂先輩は嬉しそうにそう言うと、クルクルと回ってその姿を見せつける。
「思ってた以上に完成度の高い男装で驚きました。確かにこのレベルの変装なら、簡単にはバレないでしょうね。」
僕は不躾にならない程度に、男装姿の早坂先輩に視線を送る。
「で、呼び出した理由なんだけど……優君、芝公園まで一緒に来てくれない?」
「え? なんかあるんですか?」
「今から芝公園で会長さんと待ち合わせなんだけど、書記ちゃんも居ると思うから、優君には書記ちゃんが変な事をしようとしたら止める役目をお願いしたいの。」
「それは別に良いですけど……」
「男装してても油断は出来ないんだよね……書記ちゃんに女だとバレたらダメ、早坂愛とバレたらダメ、かぐや様のお付きとバレたらダメって感じだし……バレたら色々な面で不都合があるから、絶対にバレる訳にはいかないし。」
「何という縛りプレイ……芝公園って事は秀知院の敷地外ですけど、僕も一緒に居て大丈夫なんですか?」
「それは大丈夫。もし四宮家の密偵に見られたとしても、生徒会のメンバーが3人も居ればそういう集まりだと認識する筈だよ。それに……」
(絶対かぐや様も覗きに来る筈だし。)
「それに……何ですか?」
「うぅん、何でも無い。あ、皆の前では、私の事はハーサカ君て呼んでね?」
「ハーサカ君て……正体隠す気あります?」
(すっげぇ安直……)
「こ、これでも、優君以外にはバレて無いし!」
「だったら良いですけど……」
………
〈芝公園〉
「来たか、ハーサカ……」
「御行君……」
「っ!?」
(石上くんも来てる!? もうコレ、今日どっちか選ぶ事になるんじゃ……!?)
「……?」
(藤原先輩がすげぇガン見してくる……)
「っていうか、何その格好……」
「それはこっちのセリフですけどね……これも仕事なんです。藤原さんに女と知られたら、色々と不都合があるんですよ。」
「本当に大変な仕事だな……あと、何で石上まで居るんだ? お前ら交流あったのか?」
「……そうですね。優君には、対藤原さん対策で来てもらいました。」
「……そうか。」
(優君……か。)
「……ん?」
(あの木の陰に隠れてるのって、四宮先輩じゃ?)
「……!」ムー!
(ちょっと早坂、会長と距離近過ぎじゃない!?)
「会長とハーサカ君、いちゃいちゃしてるぅ……どっち!? ハーサカ君は石上くんと会長、どっちを選ぶんですか!?」ドキドキッ
「それで、今日はどういった御用向きですか?」
「あぁ、ハーサカにちょっと俺のラップを聞いて欲しくてな。」
「なるほど、会長のラップを僕が聞く……え、なんで……? み、耳栓していいですか?」ガタガタッ
「ダメです、しっかり聞いてあげて下さい! 会長は不器用ながらにも、歌にハーサカ君への想いを込めて届けようとしてるんです!」
「ちょっ、ちょっと待って! さっきからなんなんですか!?」バッ
「四宮!?」
「歌で想いを伝えるだなんて……そんなのまるで、平安時代の告白じゃないですか!」
「なんか凄いゴチャついて来ましたね……それと、ラップ? よくわかりませんが、コレって僕も居て良いんですか? 僕は外してた方が良いんじゃ……」
「待って、1人にしないで。」ガシッ
「え、先っ…ハーサカ君?」
「私だけじゃきっと耐えられない……お願いだから、一緒に居て。」
「えぇ……これから始まる事って、そんな大事なんですか?」
「はわぁ、手繋いでる……や、やっぱり、石上くんとハーサカ君はそういう関係なんだ……」ドキドキッ
「優君……一応聞いておくけど、なまこの経験は?」
「なまこの経験は!? 何ですかそれ!?」
「そっか……優君は、なまこられた事の無い人間なんだね……」
「なまこられたって何ですか!? 動詞!?」
「……ごめんね。私が君を巻き込まなければ……なまこられる事も無い、平穏な一生を終える事が出来たのに……」
「何1つわからない……」
「もういい藤原! ミュージックスタートだ!」
「CHECK!」バッ
「CHECKじゃねぇんですわ。」
「MC御行ここに登場!! 刻むぜ印! 響け咆哮! 俺がレペゼン秀知院ポンコツオンチの修理品!」
「まさかの切り込み隊長。」
………
「私は知りたい男同士禁断の行為! 応援すべき? 止めるべき?」
「藤原さんは何を言ってるの!?」
「藤原先輩、TPOって知ってます?」
………
数分後……藤原先輩のパートが終わると、何故かラップ合戦に参戦した四宮先輩が早坂先輩をラップで挑発し、その挑発に乗った早坂先輩がラップをするというカオスな状況になっていた。正直、自分で言ってて意味がわからない……
「……」
(え、もしかしてコレ……僕も歌わないとダメな流れ? 流石にそれはちょっと……)
「心を吐き出す 私のテキサス 貴女が知らない私を知ってる 心の吐露? 心の友!!」グイッ
「えっ?」
もし早坂先輩みたいに挑発されたらどうしようと、場違いな事を考えていると、ラップを歌う早坂先輩に腕を引かれ手を握られる。先輩は此方を見る事も無く、歌い続けている。
「私もちゃんと考えてるもん! だけどかぐや様には教えてあげない! でも1つだけ教えてあげる! 私もいるもん……男友達!! 」
「早坂……」
「……!」ギュッ
「……」ギュ
力強く握って来た早坂先輩の手を無言で握り返す。なんとなくだけど……早坂先輩が普段から四宮先輩に対して溜め込んでいる気持ちを吐き出す事が出来た瞬間に見えた。此処に来た当初は、ラップとか藤原先輩とか意味わかんない事もあったけど……言いたい事を言い切った様に、清々しい表情を浮かべる早坂先輩を見て……此処に来た意味はあったんだと思った。それはともかく……
「はわぁ、ハーサカ君の本命は石上くんなんだ……」ドキドキッ
「……イエスマイメン。」グッ
(そうか、ハーサカは本当の自分を出せる相手を見つけたのか……まさか、その相手が石上とは思わなかったがな。)
「MC御行……」グッ
「本当になんなの……?」
「……」
(僕が歌う流れにならなくて良かった……)
(会長……自分はハーサカ君に選ばれなかったのに、拳を合わせて応援の意を示すなんて……)
「グスッ…とても良いモノを見せてもらいました。そうですよね、愛に性別なんて関係ありませんよね! ハーサカ君、私も応援してますからね!!」ポタポタ
「え? あ、はい……ありがとうございます?」
「藤原先輩、鼻血出てますよ。」
(さっきから何言ってんだ、この人……)
………
「会長、きっと良い事ありますよ。」ポンッ
「何だその哀れんだ目は。」
本日の勝敗、白銀の敗北
暫くの間、藤原から哀れみの視線を向けられる事になった為。
………
〈四宮邸〉
私もちゃんと考えてるもん!
「……」
私もいるもん男友達!!
(あんな大声で叫ぶ早坂なんて、初めて見たわね……それはそうと、石上君が男友達……ね。)
「それで……早坂? 貴女、石上君とはどういう関係なの? 男友達とか言ってたけど……本当にそれだけかしら?」
「……秘密です。」
「秘密って…………っ! ま、まさか、早坂っ……貴女、石上君とっ……!?」
「ですから、秘密です。どうしても知りたいと言うのでしたら……」
「……ッ」
「かぐや様が会長さんに告白して付き合う事が出来たら……教えてあげても構いませんよ?」
「ち、ちょっと早坂!? そんな事で誤魔化せると思ってっ……」
「私の事よりも、会長さんの事は良いんですか?」
「え、会長? どういう事?」
「会長さん……あの感じだと、書記ちゃんと結構長い期間一緒に居たと思うのですが……」
「っ!?……早坂! またそうやって不安を煽ろうったってそうはっ……」
「……かぐや様がそうやって何もしない隙に、2人だけの思い出とか作ってたりしてるんでしょうか? かぐや様が何もしない隙に……」
「は、早坂!!」
&かぐやの敗北
従者の煽りで先程までの疑問が吹き飛んだ為。
次話から、徐々に恋愛的な動きを入れていきます
多分この√だけやな、あのキャラが出るのは……