石上優はやり直す   作:石神

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早坂愛はわからない

奉心祭まで残り2週間を切ったある日の放課後、私は最近増えた密会仲間と共に優君が来るのを待っていた。

 

「優君、遅いねー?」ナデナデ

 

「ニャー?」

 

暫く猫ちゃんと話しながら待っていると、ガサガサと誰かが近付いて来る音が聞こえて来た。

 

「すいません、遅れました。」ガサッ

 

「あ、優く……っ!?」

 

その声に振り返ると……微かな香水の香りが、優君の身体から漂って来た。彼には香水をつける習慣なんて無い筈だ。つまり……ここまで匂いが身体に残る程、誰かと密着していたという事だ……態々私と会う前に?

 

「……ッ!」プクー

 

「先輩? どうしました?」

 

「それはこっちのセリフだし……優君、此処に来る前に誰かと会ってたでしょ?」

 

「え? いや、特には……」

 

「……ふーん?」

(嘘吐くんだ………………ふーん!)

 

「せ、先輩……?」

 

「じゃあ、コレはどういう事?」

 

私は猫ちゃんを持ち上げると、優君へと徐々に近付けていく。すると……

 

「…ンニャア!!」ペシン

 

「え?」

 

「……知らないの? 猫は柑橘系の匂いが嫌いなんだよ? だから優君が付けてる香水の匂いを嗅いで嫌がったの。それで……そんなに匂いが身体に残る程、誰と密着してたの?」

 

「なるほど……って密着!? そんなのじゃありませんよ! これはですね……」

 

………

 

〈昼休み〉

 

「伊井野ちゃん、今からお昼?」

 

「あ、大友さん……うん、委員会でちょっと遅れちゃって……ん?」スンスン

 

「そっかー……って、どうしたの?」

 

「大友さん、もしかして香水付けてる?」

 

「うん、よくわかったね! 良い匂いでしょ? 最近流行ってるんだー!」サッ

 

「……凄く言い難いんだけど、校則違反だよ?」

 

「……」

 

「……」

 

「……ん? 2人共どうしたんだ?」

 

「っ! 石上君、パス!」ポイッ

 

「え?……うわっ!?」パシャッ

 

「あ」

 

「あ」

 

「何か掛かった……大友、何これ?」

 

「香水なんだけど、ちょっと蓋が緩んでたんだね……石上君、ごめんね?」

 

「そんなに掛かった訳じゃ無いからいいけど……僕に渡してどうするつもりだったんだよ?」

 

「香水は校則違反って言われちゃったから、走って逃げてもらおうかなって。」

 

「往生際悪いな……」

 

「大友さん、悪いけどコレは没収させてね。放課後になったら返せるから……」

 

伊井野は友達から没収するのに多少の居心地の悪さがあるのか、申し訳なさそうにしている。

 

「あはは、気にしなくて良いよ! 次はわからない様に付けるから!」

 

「そっちじゃないだろ。」

 

「あの……そもそもの話、香水を付ける事自体が違反なんだけど……」

 

………

 

「……って事があっただけなんですけどね。」

 

「……もうっ、優君たら紛らわしいでしょ!」ホッ

(はぁ、焦って損しっ……ん?)

 

「え? はぁ……すいません?」

 

「……」

(どうして私が焦るの?)

 

「先輩? どうかしましたか?」

 

「……うぅん、なんでも無いよ。それより、この前ネット見てたらこんなのがあって……」

 

………

 

「……あ、そろそろ行かないと。」

 

暫く話していると、優君がスマホを見ながら立ち上がった。多分、時間を確認したんだろうけど、おかしいな? 今日は生徒会は無い筈なのに……

 

「うん? 今日は生徒会休みだったよね? 何か用事でもあるの?」

 

「あ、はい。応援団の皆で、奉心祭に向けた決起集会をする事になってまして、今からカラオケ屋に集まる事になってるんですよ。」

 

「ふーん……」

 

「そういう訳なので、今日はこれで失礼しますね。早坂先輩、また明日っす。」タタタッ

 

「……ッ!」プクー!

(ふーん! そりゃ確かに……私以外の人と遊びに行くのは、本家の人間に対する良いカモフラージュになるって言った事もあるけど……それでももうちょっと残念そうにするとか、後ろ髪引かれる感は出すべきじゃ無いの!? )

 

石上はまたしても、理不尽な怒りを向けられた。

 


 

〈マスメディア部〉

 

「……それで早坂さん、石上会計とは仲直り出来まして?」

 

次の日の放課後……私は紀さんと巨瀬さんに、優君との事について訊ねられていた。買収されていた事はアレだけど……この2人が居なければ、優君と本音で話し合う事も出来なかったので感謝している。

 

「あはは、まぁね〜。元々喧嘩してた訳でもないんだけど……その事で2人には、ちょっとしたお願いがあるんだけど……」

 

「お願い?」

 

「早坂さん、お願いって?」

 

「その……会計君との事、他の人には内緒にして欲しいんだよね。」

 

「なるほど……そういう事ですのね。」ムフフ

(早坂さんも女の子ですものね。)

 

「……任せて早坂さん! 会計君との事は、かぐや様に誓って内緒にするから!」

 

「紀ちん、何か変な事考えてない? でも……2人共良いの? 理由も聞かないでそんな……」

 

「実は、同じ事を石上会計からもお願いされてますの。彼方は少しお願いの仕方と言いますか、内容がアレでしたけども……」

 

「あー、うん。そういえばそうだったね……」

 

「……?」

 

………

 

数日前……

 

「ナマ先輩、ガチ勢先輩、先日はご協力ありがとうございました。」

 

「いえいえ、此方も会長さんとかぐや様のエモいお話を知る事が出来たので、お互い様ですわ。」

 

「私もかぐや様の生徒会室のご様子や、好きな紅茶の銘柄を知れて凄く助かったわ!」

 

(助かった……?)

「なら良かったです。それで……追加でお願いしたい事がありまして……」

 

「お願いしたい事?」

 

「って何?」

 

「僕と早坂先輩は確かに和解しました。だけど、暫くの間(表向き)は2人で会わない様にするつもりなので……2人には、その事に関してノータッチでお願いしたいんです。勿論……先輩方が一緒にいる場合は、普通にしてもらって構いません。」

 

「なるほど……つまり、石上会計と早坂さんが2人で会う事は無いけれど、その事に関して興味を持つ事も調べる事もして欲しくないし、お2人の事を言い触らす事もしないで欲しいと……そういう事ですわね?」

 

「はい、お願いします。」

 

「……石上会計がそこまで言うのです、何か理由があるのでしょう?」

 

「……はい。」

 

「わかりましたわ……石上会計の言う通りに致しましょう。」

 

「私もいいよ!」

 

「2人共、ありがとうございます。」

(良かった……これならエグい手を使わずに済みそうだ……」

 

「」

 

「」

 

「あ、すいません、口が滑りました。」

 

「ち、ちなみに……もしお二人の事について言い触らしてしまった場合、どうするつもりでして?」

 

「……僕も命懸けですからね。もしナマ先輩が口を滑らせた事が原因で僕に何かあった場合、ナマ先輩の秘密を秀知院のネット掲示板で拡散する手配くらいはするかもしれません。」

 

「」

 

「……いや、冗談ですよ? 先輩達の事は信用していますから、そんな心配は無用でしょうし。」

 

「そ、そうですわよねー! 石上会計ったら、本当に冗談がお上手でっ……」ダラダラッ

 

「……っていうか、かれんは会計君に何の秘密がバレてるの?」

 

「ひ、秘密は秘密ですわ……」

 

「えー、気になる……まぁ、かれんはそそっかしいからね! 私は会計君に秘密や弱味がバレる程ドジじゃ無いし。」

 

「ガチ勢先輩の場合は……僕に何かがあってその原因が、ガチ先輩が口を滑らせた事だった場合、四宮先輩に諸々の事を記した手紙が送られる様に手配する……とかですかね。四宮先輩は口の軽い人が大嫌いらしいですから、もしガチ勢先輩がそんな人だってわかったら……」

 

「」

 

………

 

「……っ!」ガクブル

(ぜ、絶対に石上編集と早坂さんの事を言い触らしたりなんてしませんわ! も、もし、会長とかぐや様のカプシチュ漫画を描いてるなんて事が周囲にバレたら……死!?)

 

「……っ!」ガクブル

(ぜ、絶対に口を滑らさない様に気を付けないと! も、もし、会計君に何かあったら、かぐや様に嫌われてっ……死!)

 

「えー……2人共どうしたし?」

 

「な、なんでもありませんわ!……ただ、石上会計が言っていた事が少々気になってまして……」

 

「ゆっ…会計君は……なんて言ってたの?」

 

「……命懸けなんだと、言っていましたわ。」

 

「あー、そういえば言ってたね?」

 

「……ッ!」

 

命懸け……優君が言ったというその言葉に、息が詰まった。優君は本気で私なんかの為に、それこそ命を懸けるつもりで……

 

「……ッ」

 

突然……ギュッと心臓を締め付けられる様な痛みに襲われた。その痛みに合わせる様に、心臓の鼓動も徐々に速くなって行く……

 

「優君……」ギュッ

 

痛い、苦しい、切ない……様々な感情が浮かび上がっては消えて行く……この痛みは何? この苦しみは何? この気持ちは……何? わからない、怖い、苦しい……

 

「ウッ…痛っ……」ガクッ

 

「は、早坂さん!?」

 

「大丈夫!?」

 

「ハ、ハァ…ハァ……」

 

ガクンと膝から力が抜けてそのまま座り込んでしまった……わからない、私の身体は一体どうしちゃったの? その疑問に対する答えを得られ無いまま、私は痛みが治まるのを只々待っていた……

 


 

〈四宮邸自室〉

 

「結局……アレはなんだったの?」

 

アレから座り込んでしまった私の身体は、5分程すると落ち着きを取り戻した。あの2人には、余計な心配を掛けてしまったけれど……立ちくらみという事にして誤魔化した。私自身……どうしてあぁなったのか、わからないから仕方ないし……

 

……命懸けなんだと、言っていましたわ

 

「……ッ」

 

あの時の事を思い出し、また心臓が小さく跳ねた。

 

「……」ポチポチ

 

私は気を紛らわそうと、スマホを操って優君と撮った写真を表示する……今までだったら写真を撮った時の優君の反応を思い出して、ホッとしたり口元が緩んだりするのに……

 

「……ッ」ドキッ

 

この時は何故か……ホッとする事が出来なかった。だけど……その理由を知る事になるのは、それから直ぐの事だった。

 


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