修正しました。✌︎('ω'✌︎ )
季節は夏から秋へと移り変わり、暦は10月へと進んだ。荻野の事件から1週間は、色々と質問攻めにされたり遠巻きに眺められたりしたけれど、特に問題なく過ごす事が出来た。そして事件の当事者である荻野は、数日で秀知院を去った。退学処分か転校かはわからない。どういう訳か、教師に聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りで詳細不明なのだ。まるで、誰かの圧力で箝口令が敷かれたように……最早習慣となりつつある伊井野と大仏の送迎を済ませると、最近中等部に現れた噂を思い出す。かつて荻野の仲間だった奴等が……次々と警察署に自首をしているという噂を。
10月某日、秀知院学園高等部生徒会室……
「会長、お聞きになりました? 先月、中等部で起きた事件について。」
「あぁ、妹から聞いたよ。なんでも……女子生徒を他校の男子に斡旋していた生徒の悪行を校内放送で暴露したそうじゃないか。」
「えぇ、当時は昼休みで生徒は勿論、教師達も聴いていて中々の騒ぎになったそうですよ。」
「確か名前は、石上……」
「石上優、中等部の3年生ですね。……少々興味深い経歴の持ち主です。」
「珍しいな、四宮が他人に興味を持つなんて。」
「会長もきっと興味を持ちますよ。石上優……彼は2年の終わりまで成績は下の中、良くて下の上程度の人間でした。しかし、3年になると最後の大会が迫った陸上部へ再入部し、都大会入賞を果たします。次いで学期末テストで一位を獲得、それ以降は所属もしていない委員会の手伝いをしたりと人が変わった様だと一部の人間から噂されています。」
「……3年に進学したのを機に、自身の行いを改めたとは考えられないか?」
「人はそこまで急激に変わる事など不可能です。」
「だが……」
「えぇ、事実変わっているので有り得ない事ではないのでしょう。私が興味を持ったのは、実はそこではありません。」
「む? では一体何処に……」
「話は戻りますが、事件の当事者は荻野コウという生徒らしいのですが……消息不明なんです。」
「何……?」
「調べてみましたが、詳しい事情を知っていると思われる教師には箝口令が敷かれていました。そして最近……荻野コウの悪友達が全員警察署へ自首をしたそうです。」
「……何者かが裏で動いていると?」
「ふふ……誰か聞いたら会長、驚きますよ?」
「四宮は知っているのか?」
「少々苦労しましたが、四宮家の情報網に掛からないモノはありません。」
「一体誰が……」
「……龍珠組ですよ。まさか彼女がこの様な動きを見せるとは思いませんでした。」
「龍珠が? 一体何故……」
「さぁそこまでは……必要なら調べてみますが?」
「……いや必要ない。アイツがそういう行動を取るのなら、それなりの理由があるんだろう。あまり深追いするべきじゃない。」
「……そうですね。そういえば、再来月の奉心祭の予算の件ですが……」
〈喫茶店〉
「遅い。」
「えぇー、急な呼び出ししといてそれですか龍珠先輩。」
いつもの様に伊井野と大仏の2人を送り届け帰ろうとした直後、龍珠先輩から……〈いつもの喫茶店〉というシンプル極まりないメッセージで僕は呼び出された。
「いいから座れ、時間は待っちゃくれねぇぞ。」
「まさか先輩……期間限定イベント手伝わせるつもりですね?」
「わかってるんだったら、早くログインしろ。」
「態々喫茶店で待ち合わせなくても……」
「バカ、こういう協力イベントは集まってするもんだろ。」
「まぁ……一理ありますね。」
「ほら、早くしねぇと出遅れるぞ。」
「……目当てのアイテム手に入らなくても、拗ねないで下さいよ。」
「……私がいつ拗ねた?」キッ
「……」
(割と頻繁に……とは言えない。)
龍珠先輩の此方を睨む視線を受け流しながらゲームを開始する。
「っし! やるぞ石上。」
「うっす。」
ゲーム友達との夜は更けていく……
10月某日某所……
「……ッ」
(なんでっ、なんで俺がこんな目にっ……!)
あの日、石上に嵌められた俺は教師に付き添われ警察署に連行された。取調室では黙秘を貫いた。既に親には連絡が入っているだろうから、揉み消してくれるまで耐えればいい……そう思っていた。だが、予想に反してその日のうちに俺は警察署から解放された。親が速攻で揉み消しをしてくれたと、気分良く警察署を出て真っ直ぐ家に帰る。こういう時くらいはすぐに帰らないとな……と何の警戒もせずに家のドアを掴もうとした瞬間、背後から何者かに羽交い締めにされ車に放り込まれた。車の中で目隠しをされ、両手を縛られて、ガムテープで口を塞がれる。何がなんだかわからない、何故俺がこんな目に遭うんだと必死で叫ぶが濁音の付いた音にしかならない。暫くすると、車が止まり担がれて移動させられる。
「オラよっと!」ドサッ
「ぐぅっ!?」
床に落とされると、目隠しとガムテープを剥がされてやっと周囲の状況が把握できた。
「痛っ…な、何がっ……!?」
目の前には、明らかにその筋の人間と確信出来る容姿の大人達が此方を見下ろしていた。
「な、なんなんだよアンタ達は!? ……コレは犯罪だぞ!?」
「ボウズに言われたかねぇな。」
「お嬢からダチが困ってたら助けるように言われてたが……中坊にしちゃ中々の手際だった。流石、お嬢がダチと認めた奴だ。」
「お、お嬢って誰だよ!? 僕にそんな友達は……」
「お前じゃねぇよ。」
ドスの効いた声に息が詰まる。
「まさか、石上……?」
「おう、石上のボウズはお嬢のダチでな……中坊がこんな問題に関わるたぁ思わなかったが……」
「そ、それでアンタ達は一体……」
誰だと聞こうとした時、目の前の男が着ているスーツに小さく刺繍された部分が見えた。
〈龍珠組〉
「り、龍珠組っ!?」
「やっと気付いたか……」
なんで……なんで龍珠組が出てくるんだよ!?石上にこんな後ろ盾があったなんてっ……
「言っておくが、石上のボウズは俺らの事は知らん。お嬢に言われて勝手に動いとるだけや。」
龍珠組、お嬢……まさか……秀知院で絶対に敵対してはいけない要注意人物の1人……龍珠桃?
「ア…アッ……」ガクガクッ
その事実に行き当たると、ガクガクと体が震え出した……
「ご、ごめんなさい……もうこんな事はしません! だからっ!!」
「じゃ、誠意っちゅうもん見せてもらおうか?」
「せ、誠意?」
「お前の胸糞悪い遊びに関わった人間、1人残らず言え……1人残らずだ。」
「は、はい! 言います! 教えます!!」
「もし、後になって言い残した奴が見つかったら……」
「み、見つかったら……?」
「お前……龍珠組から一生逃げ続けるだけの人生を送りたいか?」
その言葉に……選べる選択肢は残っていないのだと理解した。
「ア…アァ……」
もう逃げられないと……恐怖で意識を失う寸前に見えたのは〈龍〉の文字だった。