週が明け……奉心祭の準備に使える時間も、残りはあと僅か。全学年がクラスや部活の出し物の準備に追われているが、それは私も例外では無く……
〈2年A組〉
「案外難しい〜、ふわふわカプチーノの作り方〜! ミルクジャグに牛乳を入れて、スチームで泡を立てます! この時ピッチャーを斜めにして、対流を作り泡を潰すのがコツです。こうすれば、ラテアートも綺麗に出来まーす!……はい、完成!」
私は出来上がったふわふわカプチーノを厨房担当のクラスメイト達に見せる。私達2年A組は奉心祭でコスプレ喫茶を営む為、こうしてカプチーノの作り方を教えているのだ。
「わー! 早坂メッチャ上手じゃん!」
「結構難しそうなのに、愛ちゃんがやると簡単に見えるんだよね……あ、また失敗しちゃった。」
「バイトで慣れてるからね〜。」
「うーん、全体の成功率は半分くらいかぁ……ね、ふわふわカプチーノの値段っていくらだっけ?」
「えーと、一杯700円だね。」
「700円か……じゃ、値段上げよっか!」
「え、なんで上げるし?」
「だってさぁ……これだけ苦労して難しいの作ったのに、700円ってちょっと納得出来無くない? 完璧に作れるのは早坂と四宮さんだけど、ずっと2人を働かせる訳にはいかないし。」
「それは確かにねぇ……じゃあ、作った人の苦労度によって値段変える感じにしちゃう?」
「それ採用!」ビシッ
「えぇ……メニューの値段表記とかどうするし?」
「それは時価って書いとけば良くない? 最終的に寄付とか経費にすれば、どれだけ利益が出ても大丈夫って生徒会の子が言ってたよ?」
「それはそうかもだけど、時価って書いてる商品を頼むお客さんがいるのかなぁ……」
「ま、他にもメニューはあるし、ちょっとしたお遊び感覚で入れとこうよ! 皆聞こえたー? ふわふわカプチーノを注文した人には、レジ係が作った人を確認してレジ精算って事でオケ丸ー?」
「「「オケ丸水産!!!」」」
「……」
(ま、別にいっか……)
そんな訳で……私とかぐや様のクラスも、着実に奉心祭の準備が進んでいるのだった。
〈中庭〉
その日の放課後、私は中庭を1人で歩いていた。私のクラスはある程度余裕を持って奉心祭に臨めるけど、優君はクラスの出し物や生徒会の仕事に加え文実の仕事で多忙な為、授業が終わるとそのまま生徒会室に直行するらしい。私は時間に余裕がある為、猫ちゃんに会いに行こうとしていると……ベンチに座って項垂れる2人の女子生徒を見掛けた。
「か、会長とかぐや様が北校で文化祭デートをしていたなんて……どうしてっ…どうして私はその場に居なかったんですのっ……!」
「かぐや様の私服姿、見たかった……」
「……」
(相変わらず情報が早いし、出来る事なら関わり合いになりたくないけど……)
「……あら、早坂さん?」
「……2人共どうしたし〜?」
(あー、見つかっちゃった……)
………
「実は、会長とかぐや様が北校の文化祭に行かれたという情報を入手しまして……」
「かぐや様の私服姿、見たかった……」
「うん、そんな気はしてたー。」
「あぁっ……一体どんな仲睦まじい遣り取りがあったのでしょう? それを考えるだけで私は……!」
「奉心祭が近いから、普通に視察じゃないの?」
「かぐや様の私服姿、見たかった……」
「そんな事はありませんわ! どうやら文化祭の視察には、本来会長と石上会計が行く手筈になっていたらしいのですが、それが当日になり石上会計は急遽行けなくなってしまったらしいんですの! そして、石上会計の代わりにかぐや様が呼ばれたと!」
「……それがどうしたし?」
「かぐや様の私服姿、見たかった……」
「わかりませんの!? そんな都合良く石上会計に急用が出来るなんて考え難いですわ。きっと会長が何らかの策略を用いて、かぐや様との文化祭デートを実現させたに違いありませんわ!」
「そうかなー……」
(それは会長さんじゃなくて、優君の策略なんだけどなぁ……)
「かぐや様の私服姿、見たかった……」
「……巨瀬ちんは放って置いて大丈夫なの?」
「そのうち復活しますから大丈夫ですわ。それで話を戻しますが……普段からお忙しい方々ですもの。文化祭の視察という仕事を隠れ蓑にして、ほんの少しでも2人っきりで逢う時間を作りたかったに違いありませんわ!」
「……」
「そして、文化祭の終わり際に会長は言いますの! 四宮、お互い忙しいのは重々承知だが……奉心祭、四宮の時間を少しだけ俺にくれないか? 改めて四宮に、言葉にして伝えたい事がある……と。」ポッ
紀さんの発言を聞き、数日前……北校の文化祭で、優君に言われた言葉が脳裏を過った。
「……」
会長と四宮先輩の2人を利用する事で、ほんの少しでも早坂先輩と遊ぶ時間を作りたかった……それが、僕が今回の件に関わった本当の理由なんですよ
「……ッ」ムズ…
早坂先輩、奉心祭で先輩の時間を少しだけ僕にください。先輩に……言葉にして伝えたい事があります
「はぁああぁっ……」ムズムズ
「……あらあら? 早坂さんたら、そんなに照れられて……意外と初々しい所がありますのね? うふふ、お可愛い事ですわね♪」
「そうだけどぉ、そうじゃなくてぇっ……」ドキドキ
「もう、かれんたら……早坂さんを困らせないの。ごめんね、早坂さん。」ペシッ
「あ、あはは……気にしないで〜。」
(あ、復活した。)
「先程まで……かぐや様の私服姿が見られなかったという理由で、放心してた人に言われたくはありませんわね……」
「確かに、かれんの言う通り……かぐや様の私服姿が見られなかった事で、私はショックを受けたわ。だけどね、私気付いたの……」
「……気付いたって何にです?」
「もし私が北校の文化祭に行って、かぐや様の私服姿を拝見していたら……あまりの尊さと気高さに、きっと倒れてた筈よ。だから私が倒れる事で、かぐや様の休日を潰す可能性が少しでもあるのなら……か、かぐや様の…グスッ……私服姿を見る事が出来なくてもっ……ウゥ…し、仕方なっ……!」
「エリカ……成長しましたわね。」ナデナデ
「え? これって成長してるの?」
〈四宮邸〉
その日の夜……仕事を終えた私は、かぐや様の部屋を訪れた。かぐや様は私の入室を確認すると、開口一番何かが描かれたノートを広げて言った。
「ねぇ早坂! こういう柄のハンカチを何処かで探して来て欲しいの! 明日までに!!」
「しれっと要求がエグい。ある筈無いですよ、そんな局所的ニーズに応えたハンカチなんて……発注して作ったらいいんじゃないですか?」
「……それじゃ当日、間に合わないかもしれないでしょ!」
「……これって奉心伝説のやつですよね? ハートを贈ると永遠の愛がどうのっていう……」
「……ッ」
「これを贈るって事は告白同然の行為ですけど……やっと自分の気持ちを伝える覚悟が出来たんですか? まぁ北校の文化祭から帰って来たと思ったら、あれだけ惚気話をして来るんですから、会長さんの事が好きじゃないって言うのは流石に無理が……」
「好きよ……」
「……え?」
「私は白銀御行が好き……教えて早坂、この気持ちをどう処理すればいいの? 私、なんか変なの……」
「そう、ですか……かぐや様が会長さんの事を好きだと自覚されたのなら……答えは簡単です。好きなら素直に告白すれば良いんです。」
「こ、告白……」
「プライドを抱えて苦しみ続けるか、告ってとっとと楽になるか……ついに選ぶ時が来たのです。」
「で、でも! 会長に告白出来たとしても、もし会長が私の事を好きじゃ無かったらっ……」
「……かぐや様は、それで会長さんの事を諦め切れるんですか? 一度振られたくらいで諦められる程度の……ちっぽけな想いなんですか?」
「そ、それはっ……」
「……私は違いますよ。たとえ……言葉にして伝えたいと言っていた事が、私の望む言葉じゃ無かったとしても……それだけで私は諦めたりはしません。向こうが言ってくれないのなら……私から伝えるつもりです。だから、かぐや様も頑張って下さい……私も頑張りますから。」
「……え? ん? 私から伝えるつもり? 私も頑張る? ねぇ早坂……それってどういう事?」
「いえ、その……私も奉心祭で、男の子からお誘いを受けてまして……」モジモジ
「」
〈文化祭前日〉
「ふぅ、なんとか間に合ったな……」
いよいよ日付は、奉心祭前日まで来た……ギリギリだけど、なんとか目当てのモノを手に入れる事が出来た。人によっては、縁起が悪いと思われるかもしれないけれど……既に覚悟は決めている。
………
「いよいよ……か。」
俺にとっては、今年の文化祭が最後……去年は上手く立ち回る事が出来なかったが、今年は違う。全ての準備は抜かり無く整った……四宮から告白して来るのなら、それで良い。
………
「私は……会長の事が好き。」
……言葉にして口に出すと、幾分緊張が和らいだ気がした。会長の事を意識する様になってから、幾重にも策を弄して来たけれど……結局、それが答えに結び付く事はなかった。
………
「……」
北校の文化祭……私と遊ぶ時間を確保する為に行動してくれた。言葉にして伝えたい事があると、真っ直ぐに私の目を見て言ってくれた。本当の私を見つけてくれて、私の為に命を懸けると言ってくれた。いつも優しい顔で笑いかけてくれた。その行動が、その思い遣りが、その表情のひとつひとつが……私にとっては初めての事だらけで、ドキドキしっぱなしだった。でもね、優君……