石上優はやり直す   作:石神

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感想ありがとうございます(゚∀゚)


石上優は回りたい

〈校庭〉

 

「1年生は先に休憩入ってー!」

 

「「「はーい。」」」

 

つばめ先輩の一声で、僕達1年は休憩を取る事となった。とりあえずは、文実の仕事も一区切りしたけど……だからと言って、自由に動ける訳では無い。本音を言えば、早坂先輩を誘って一緒に文化祭を回りたいけど……外部の人間が大勢入って来ているこの状況、万が一でも早坂先輩と一緒に居る所を見られたらマズい。早坂先輩も言っていた様に、四宮家の密偵には細心の注意をする必要がある。

 

「あ、団長? つばめだけど……」

 

スマホ片手に仕事をするつばめ先輩に視線を送る。皮肉なモノだな……前回は自由に動ける立場に居たのに、つばめ先輩(好きな人)を誘う勇気が出なかった。今回は誘う勇気はあるのに、早坂先輩(好きな人)と一緒に行動する事が出来ない……本当、(まま)ならないもんだな。

 

………

 

早坂先輩の様子を見に行こうと、2年A組の教室へと向かう。遠くから眺めるくらいなら大丈夫だろうと思っていたら……コスプレ喫茶は大盛況の様で、廊下には順番待ちの長い列が出来ていた。待っている客の殆どが男性で、コスプレをした女子高生に接客をされたいという軽薄な欲求が透けて見える。

 

「はぁ……」

 

……早坂先輩に告白するにしても、この文化祭中に全く接触が無いままでは効果が薄い。明日は当然として、今日もなんとか一緒に居る事が出来れば良いんだけど……いつもの場所で待ち合わせしても日常感が拭えない。なんとか一緒に文化祭を回る方法は無いものかと、頭を悩ませながら歩いていると……前方から見知った2人が歩いて来るのが見えた。

 

「ううぅっ……!」ギュッ

 

「よしよし、怖くないからねー?」ナデナデ

 

「2人共どうしたんですか?」

 

「あ、石上君。マキちゃんとお化け屋敷に行って来たんだけど、よっぽど怖かったみたいで……」

 

「あー、それは多分うちのホラーハウスですね。結構良い出来だったでしょう?」

 

「うん、迫力があって面白かったよ! まぁ、マキちゃんには刺激が強過ぎたみたいだけど……」ナデナデ

 

「ううぅっ…グスッ……」ギュッ

 

「……マキ先輩、大丈夫ですか?」

(ヒロインムーブしてるなぁ……)

 

「べ、別にっ……怖くて泣いてる訳じゃないからっ…グシュッ……」ギュッ

 

「あ、はい。」

(虚勢を張る余裕はあるのか……)

 

「あはは……そういう事だから、ちょっとマキちゃんを落ち着かせて来るね?」

 

「そうっすね、それが良いと思います。」

 


 

〈1年A.B組ホラーハウス〉

 

マキ先輩達と別れると、そのまま自分のクラスの様子を見に行く。それなりに好評の様で、出口から退場する人達は満足気に感想を言い合っている。

 

「はーい、終わりでーす。おつでしたー。」ガチャ

 

「こ、こわっ…こわかた……」ガタガタ

 

「すごく、良く出来てましたわね……」ガタガタ

 

「……お前の所為で新しい扉開いたわ。」

 

「ようこそ、此方側へ。」

 

出て来たのはナマ先輩とガチ勢先輩……と、北校の文化祭で早坂先輩から催眠スプレーを吹っ掛けられていた2人だった。どうやら4人で文化祭を回っているらしく、ホラーハウスの感想を言い合っている。

 

「お2人は如何でした? ぜひ記事用にご感想を……」

 

「まぁ、アレだ……ちょっとドキドキしたわ。」

 

「男子でも十分怖いって事ね! 豊崎君は?」

 

「何と言うか……耳が幸福だったかな……」

 

「まぁ、なんて趣味の悪い……」

 

段々と遠ざかって行く4人の会話を聞いていると、ある考えが浮かんだ。この方法なら上手く行けば早坂先輩と一緒にホラーハウスを体験する事が出来るけど、早坂先輩が怖いのが平気って前提じゃないとダメだ。

 

「とりあえず、聞いてみるか……」

 

………

 

「ホラーハウス……優君のクラスの?」

 

早坂先輩に連絡すると、今日のシフトは終わったのでブラついていたらしかった。人気の無い所で落ち合うと、早坂先輩をホラーハウスに誘った。

 

「はい、早坂先輩と一緒に体験出来る方法があるんですよ。先輩がホラーが大丈夫ならですけど。」

 

「うん、割と平気。」

 

「あ、それなら良かったです。」

(女子は怖いの好きな人が多いらしいけど……早坂先輩もそうなのかな?)

 

「1番怖いのは、生きてる人間だしね……」フッ

 

「思ってた理由と違うなぁ……」

 

「それで、どうやったら一緒に体験出来るの? ホラーハウスのシステム的に難しそうなんだけど……」

 

「あぁ、それはですね……」

 

………

 

〈ロッカー内〉

 

「い、意外と狭いね……?」

 

「そ、そうっすね……」

 

30分後……僕は早坂先輩と2人で、ホラーハウスのロッカーの中に入っていた。この考えが閃いた瞬間は良い妙案が浮かんだと思ったんだけど、予想以上に密着してしまっている……もしかしたら、僕はやらかしてしまったのではないだろうか?

 

「あ……ご、ごめんね?」ギュムッ

 

「いえ、気にしないで下さいっ……!」

 

バランスを崩した早坂先輩に凭れ掛かられる……僕は別に、疚しい考えがあってホラーハウスに誘った訳では無い。前回はつばめ先輩と入る事は無かったので、2人で入った時の具体的な密着度なんて知らないままだったし……

 

「でも……優君、よくこんな事考えついたね?」

 

「偶々ですけどね……」

 

僕達1年A.B組の共同制作、立体音響ホラーハウス〈チョキ子の教室〉……配置されたロッカー内に、ヘッドホンとアイマスクを身に付けて体験するタイプのお化け屋敷だ。ロッカーの数は2クラス分を使用する為6個と多く、最大で12人の人間が同時に体験出来る仕様となっている……とは言え、全くの知らない他人と狭いロッカーに閉じ込められる訳では無く、受付の人間が待機客の様子を観察して適宜締め切るという方法が取られている。ロッカーの数は6個、他人同士では1つのロッカーに入れられる事は無い。そして、前回と違い男女で別けられてもいない……この事実が、僕にある妙案を浮かばせる事となった。

 


 

〈ホラーハウス内〉

 

「……」コソコソ

 

僕はホラーハウス内に入ると、隠れて様子を伺う。ロッカーからは、男女の叫び声が聞こえている。

 

「はーい、終わりでーす。」ガチャッ

 

小野寺がロッカーの扉を開けて、終了を宣言する。僕はロッカーから全員が出るのを黙って待つ……全員がロッカーから出たのを確認すると、小野寺が出口へと誘導する。

 

「……っ!」ササッ

 

僕はすかさず……ロッカーの1つに使用禁止の張り紙を貼り、念の為開けられ無い様に細工をして抜け出した。先程まで使えていたロッカーが使用禁止になっていれば、小野寺が不審に思うだろうが……小野寺はシフト交代の時間になっており、交代する人間も既にスタンバっているので、小野寺が戻って来る事は無い。

 

「ふぅ……」

 

僕は小さく息を吐くと、次の段階へと進む。これでホラー体験が出来るのは、実質5組となった。しかし受付の人間はロッカーが1つだけ使用禁止になっている事を知らないので、当然6組の客を招き入れる……つまり、客側の数が多くなってしまう訳だ。此処まで連れて来てしまった手前、待ってもらう訳にもいかず……案内人は頭を悩ませている。

 

「うーん、どうしよう……」

 

「じゃ、ウチは他の人と一緒でも良いよ〜!」

 

その6組の中に入っていた早坂先輩が声を上げる。当然、僕もその6組の中に入っているが……早坂先輩とは他人の振りをして別個の客として振る舞っているので、無関心を装っている。

 

「え、良いんですか? でも……」

 

「良いって、良いって! んー……じゃあ、其処の君で良いや! 早く入ろ〜!」グイッ

 

「え、ちょっ……!?」

 

立候補した女子生徒(早坂先輩)に無理矢理引っ張られる……という(てい)で、2人でロッカーへ入る。案内人はA組の生徒で、殆ど面識が無いのも幸いした。これなら、不審に思われる事も無いだろう……斯くして、様々な工作や策略を駆使して、僕と早坂先輩は一緒にホラーハウスを体験するに至ったのだった。

 

………

 

〈ロッカー内〉

 

「でも……すいませんでした。まさか、2人で入ったらこんなに狭くなるとは思ってなくて……」

 

「う、うぅん、気にしなくて良いよ?」

(優君の心臓、凄くドキドキしてる……わ、私の音は聞こえてないよね?)

 

「そうですか……あの、体勢キツかったら、そのまま凭れてても大丈夫ですのでっ……!」

 

「……もしかして、やらしい事考えてる?」

 

「考えてません!」

 

「……ふふ♪冗談だから、そんなに慌てなくても良いのに……私は別に、ちょっとくらいなら考えてても怒らないよ?」

 

「勘弁して下さい……」

(誘った当初は考えてなかったのは事実だけど、ここまで密着する事になると流石に……)

 

「……いいよ。私と一緒に行動する為に、色々考えてくれたんだし……今日は勘弁してあげる。」

 

「……あざっす。」

 

僕も、早坂先輩も……どちらもヘッドホンとアイマスクを身に付ける事無く、会話を続けていた。それは多分、勿体無いと思ったからだ。折角こんなに近くに居るのに、ホラー体験(他の事)に気を取られる事が……

 

「終わりました、出口は此方です。」

 

「もー、ちょー怖かったし!」

 

「……」

 

扉が開けられ、案内人に出口へと促される。早坂先輩は、扉が開けられた瞬間にギャルモードへと戻った。名残惜しいな……此処を出れば、早坂先輩と一緒に行動する事は出来なくなる……本当に、名残惜しいと思う。早坂先輩ともっと一緒に居たい、もっと話したい、もっと……触れ合いたい。湧き上がる想いは、徐々に僕の心を埋め尽くしていった……

 


 

〈中庭〉

 

17時になり、文化祭1日目が終了した。前回は1日目が終わると直ぐに生徒会室に向かっていたが、今回は中庭で早坂先輩が来るのを待っている。結局、あれから早坂先輩と一緒に居られる事はなかったので、残念と言う他ない。それでも、僅かな時間を一緒に過ごせた事は嬉しかったし、まだ明日がある。やっぱり、告白するなら明日だな。それなりに考えてる事もあるし……

 

「あ、もう来てたんだ。」ガサッ

 

「あ、お疲れっす。」

 

早坂先輩と合流し、お互いに今日の出来事などを話題に話す。僕は文実の仕事中に起きたハプニングやアクシデントを……早坂先輩は、コスプレ喫茶に来た変わった客の話や自由時間に出会したナマ先輩達の話を聞かせてくれた。

 

「ははは、そんな事があったんですか? まぁ、楽しめたみたいで何よりです。」

 

「うん……」

 

「……先輩? どうかしましたか?」

 

「……確かに楽しかったよ。コスプレ喫茶の接客も楽しかったし、紀ちんが見せてくれたバルーンアートも凄かったし……優君が私と一緒に遊べる様に、色々考えてくれたのも嬉しかった。」

 

「……」

 

「でもね……やっぱり少しは考えちゃうんだ。四宮家の密偵の事も、周りの人達の事も、何も気にする事なく……最初から優君と一緒に文化祭を回る事が出来たら、どれだけ楽しかったのかなって……あはは、無理だってわかってるんだけどね……」

 

「……ッ」ギュッ

 

そう寂しそうに語る早坂先輩を見て……ギリギリまで抑え込めていた感情が噴き出した気がした。気付くと僕は、無意識に早坂先輩の手を握っていた。

 

「ゆ、優君? どうしたの?」

 

「……」

 

少し動揺した様な声色で、早坂先輩はそう聞いて来た……けど、この時の僕にはその言葉は届いていなかったし、冷静ですら無かったんだと思う。もし、この時の僕が冷静だったなら……

 

「早坂先輩……好きです。」

 

うっかり本音を口に出す事もなかったのだから。

 

 


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