石上優はやり直す   作:石神

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早坂愛は受け入れたい

 

「早坂先輩……好きです。」

 

……そう口に出してから、しまったと思った。直ぐに口を手で塞ぐも、既にやらかした後では意味が無い。本来の予定では、明日もなんとか一緒に過ごした後、キャンプファイヤーを人の居なくなった校舎内から眺めつつ早坂先輩に告白するつもりだった。だけど……

 

「でもね……やっぱり少しは考えちゃうんだ。四宮家の密偵の事も、周りの人達の事も、何も気にする事なく……最初から優君と一緒に文化祭を回る事が出来たら、どれだけ楽しかったのかなって……あはは、無理だってわかってるんだけどね……」

 

「……ッ」

 

そう言いながら、寂しそうに力無く笑う早坂先輩を見て……予定とか計画とか、そんな些細な事は頭の中から吹き飛んでしまった。そんな寂しそうな顔をされて……何も言わないなんて事は、僕には出来なかった。だけど……こんなロマンチックの欠片も無い、うっかり口に出してしまった告白(言葉)を早坂先輩が喜ぶとは思えない。そう思いつつも、握った手の先を目で辿ると……

 

「ア…ア……」プルプル

 

真っ赤な顔をして、プルプルと身体を震わせながら此方を見る早坂先輩が視界に映っ……ん!? も、もしかして、そこまで悪くない感じだったりする!? やってしまったという後悔が、早坂先輩の反応を見た瞬間に消え去り……代わりに手応えという名の高揚感が湧き上がる。第一ここまで口にしてしまったのだから、今更誤魔化すつもりも無い。僕は高揚感に身を任せ、そのまま言葉を吐き続ける。

 

「早坂先輩、好きです! 大好きです! 必ず先輩を幸せにしてみせます! 四宮家にだって負けません! 絶対に先輩を1人にしないって約束します!」

 

「え、あ…その……」

 

「……もし早坂先輩がこの告白を断っても、僕が先輩を助けたいという気持ちに変わりはありません。早坂先輩が四宮家から解放されるまで、一緒に戦いますから遠慮はしないで下さい。だけど……先輩が側に居てくれるなら、僕はどんな事にだって立ち向かって見せます。だから……」

 

一呼吸間を空けて、心を落ち着かせると……万感の想いを込めて、最後の言葉を紡いだ。

 

「早坂先輩……僕の恋人になって下さい。」

 


 

最初は聞き間違いだと思った。だって、あまりにも自然に言われたから……

 

「早坂先輩……好きです。」

 

そう言った直後……目の前の男の子は、しまったという顔をして口を手で塞いだ。その反応を見て、私が先程耳にした言葉は……聞き間違いなんかじゃ無くて、正真正銘の告白だったんだと気付いた。そして、言葉の意味を理解した瞬間全身がカッと熱くなった。次いで、動揺する私に向けて放たれる言葉の数々……嬉しい、恥ずかしい、良かった、私も優君の事……様々な言葉が浮かんで来ては、心臓の鼓動を速めて行く。胸の辺りがムズムズして、恥ずかしくて、叫び出したくなって、でも嬉しくて……

 

「え、あ…その……」

 

優君の告白に答えたいのに、上手く言葉が出て来ない……そんな不甲斐ない私に、優君は逃げ道さえ作ってくれた。私が優君の告白を断ってしまっても、私が四宮家から解放されるまで……一緒に戦ってくれると。私の側に……居てくれると。

 

「早坂先輩……僕の恋人になって下さい。」

 

真剣な瞳で、真っ直ぐな想いを言葉に乗せてそう言ってくれた優君を見て……初めて、優君と出会った日の事を思い出した。かぐや様との言い合いが発展した所為で、優君にちょっかいを掛ける事になったあの日……私と優君の関係が始まった。

 

「……ッ」

 

優君と出会う前の私に言っても、絶対に信じないだろうな……好きな人が出来たよって……

 

「わ、私……」

 

その人の事を考えるだけで……胸がドキドキして、顔が熱くなって、好きって気持ちが溢れて止まらなくなっちゃう人が出来たんだよって……

 

「私も……」

 

……優君の為を思うなら、この告白は断らないといけない。私と近しい存在になれば、今以上に危険な立場に身を置く事になってしまうから……だけど、優君はきっと私を諦めない。この先どんな事があったとしても……優君は変わらずに私の側に居てくれて、一緒に頑張ってくれるという確信めいた予感がある。だから……

 

「……ッ」

 

真っ直ぐに私を見つめたまま……返事を待つ優君の手を握り返して答える。

 

「私も……優君が大好きだよ。だからお願い、私を優君の恋人にして下さい。」

 

………

 

「……」

 

「……」

 

お互いに告白し合った僕と早坂先輩は、手を握ったままの状態から動けないで居た。まるで、伝え切れない想いを……その掌から伝え様としているみたいで、離す事が出来ない。

 

「そ、その……」

 

「は、はい……」

 

「こ、恋人って事で……良いんだよね?」

 

「は、はい! 僕と早坂先輩は恋人です!」

 

「うん、そっか……」ギュッ

 

「……」ギュッ

 

握り返して来る掌の暖かさを感じながら、僕の心の中は歓喜に満ちていた。そして……滅茶苦茶嬉しいと思うと同時に、深く安堵もしている。早坂先輩は優しいから……僕の身を案じて断って来る可能性も考えてはいたけど、受け入れてもらえて良かった。先程まで感じていた緊張が和らいだ影響か、何気ない話題が口から出る。

 

「早坂先輩は……彼氏が出来たらしたい事とかって、あったりしないんですか?」

 

「したい事?」

 

「はい。もしあるんだったら、僕に出来る事ならなんでも言って下さい。」

 

「……」

 

「直ぐに浮かばないなら、別に大丈夫ですよ。考えが浮かんだ時に言ってもらえれば良いですし……」

 

僕達は大手を振って遊んだり、逢ったり出来ない立場だ。だから少しでも、早坂先輩に喜んでもらえたらと提案した事だったけど……そんな直ぐには浮かばない様だった。まぁ、僕もいきなりそんな事を言われたら悩むだろうし……

 

「……ん!」

 

早坂先輩は握っていた手を離すと、両手を広げて何やらアピールをし始める。

 

「……先輩?」

 

「ん!」

 

「えぇと、その体勢は……」

 

早坂先輩は僕の問いには答えずに、両手を広げたまま此方を凝視している……もの凄く真っ赤な顔で。

 

「い、良いんですか?」

 

「んー!」

 

その瞳からは……恥ずかしいんだから早くして! という言葉が読み取れた。僕は意を決して、早坂先輩に近付くと……

 

「じ、じゃあ、失礼します……」

 

広げられた両手の間に身体を入れ、そのまま背中へと手を伸ばして抱き寄せた。

 

「……」

 

「……」

 

なんだろう、この何とも言えない感覚。上手く言語化出来ないけど、早坂先輩を守りたいとか、幸せにしたいって部分に特大の火がついた様な気がする。

 

「……」

 

「……」

 

暫く抱き合っていると、背中に回されていた手の感覚が無くなった。早坂先輩に追従する形で、僕も背中から手を離す。

 

「つ、次は優君の番だよ! 優君は私にしたい事とか、して欲しい事は無いの?」

 

「……」

 

「……優君?」

 

「まぁ、あるんですけど……引きません? 本当にしてくれます?」

 

「痛くない事なら……」

 

「そんなんじゃありませんから! その……早坂先輩が髪を解いた所が見たい……です。」

 

「……髪を? そんなので良いの?」

 

「はい、お願いします。」

 

「……こう?」パサッ

 

「……ッ」

 

早坂先輩がシュシュに手を伸ばして髪を解くと、サイドテールにしていた髪が重力に従い落ちた。

 

「ど、どう?」

 

「……」

 

初めて見る、髪を下ろした早坂先輩は……返事を忘れる程、見惚れる存在だった。……おかしいな? 僕は別に髪フェチって訳でも無いんだけど……これがギャップ萌えってやつか?

 

「ち、ちょっとは何か言ってよ! 黙ってられると、恥ずかしくなっちゃうでしょ!」バシッ

 

「すいません!」

 

怒られた。

 


 

〈四宮邸〉

 

「〜〜〜♪」

 

奉心祭初日、私と優君は晴れて恋人同士となった。その事実は、際限無く私の心を満たして行く。普段は事務的に済ましている使用人の仕事にも、不思議と張りが出ている気がする……今だって鼻歌を口ずさみながら、かぐや様の制服にアイロンがけをしているくらいだ。

 

「早坂、貴女……随分と機嫌が良さそうだけど、何か良い事でもあったの?」

 

かぐや様は眉間に皺を寄せて、訝しげな視線を私に向けながらそう言った。

 

「良い事ですか、そうですね……男の子から告白されて、私に恋人が出来た事でしょうか。」

 

「はぁ、そんな事で喜んでたの? 恋人が出来たくらいでそんなに喜ぶなんて、早坂も案外子供……って恋人? 早坂に恋人!!? 大事じゃない!!?」

 

「心の底から信じられる人と恋人になるって、こんなにも心満たされる事だったんですね……」

 

「なんか悟った事言ってる!? は、早坂、相手は誰!? 何処の馬の骨と……!」

 

「……優君です。」

 

「優君って……石上君の事!? ちょ、えぇっ!?それって、私の知ってる石上君よね!?」

 

「それはそうですよ。」

 

「え、えぇぇぇ、早坂ったらいつの間に……」

 

「まぁまぁ、私の事は良いじゃないですか。かぐや様は、会長さんと何か進展はあったんですか?」

 

「……」

 

「無かったんですね。」

 

「だって……しょうがないじゃない! クラスの出し物は忙しくなるし、変な中年には絡まれるし、会長は私に告白して来ない所かコスプレ喫茶のシフトが終わっても私を文化祭デートに誘いに来ないし!」

 

「後半はかぐや様次第な気がしますけどね……それより、大丈夫なんですか? 文化祭も明日で終わりです。文化祭という非日常イベントだからこそ、告白もしやすい部分があると思うのですが……」

 

「わ、わかってるわ……それはわかってるの! だけどやっぱり恥ずかしいし、何より……怖いわ。」

 

「……かぐや様が勇気を出せば、その先には会長さんとの幸せな学園生活が待っているんですよ?」

 

「それはそうだけど……ねぇ早坂、早坂はどんな感じで、石上君から告白されたの?」

 

「気持ちが抑えられなかったって言ってましたね。ついポロッと思ってた事が出ちゃったって……」

 

「そう、そういうモノなのね……」

 

「……大丈夫ですよ。文化祭は明日もありますから、明日頑張れば良いんです。」

 

「えぇ、わかってるわ。明日こそは、会長と……」

 

「……かぐや様、明日も早いですからそろそろお休みになって下さい。」

 

「……えぇ、そうね。」

 


 

〈自室〉

 

かぐや様の部屋を出ると、直ぐ様自室へと引き上げる。自室に入ると、直ぐにパソコンを起動させる。

 

「……優君、私も頑張るからね。」

 

優君と恋人になったとはいえ、浮かれている暇は無い。寧ろ優君という大切な存在を守る為に、四宮家の弱みを握らなくては……今の私が四宮家に対して持っている交渉材料は1つだけ。かぐや様、優君、私の3人分が必要なので、あと2つ四宮家の弱みを見つけなければ……そして、現在の私に対する調査状況がどうなっているのか……それを知る為には、四宮本家のサーバーに侵入しなければならない。

 

「すぅ…はぁ……」

 

私は呼吸を整えると……手慣れた手付きで、四宮本家のサーバーへと潜り込んだ……

 


 

ー報告書ー

 

四宮家使用人、早坂愛の素行調査について……

 

1ヶ月の調査の結果……早坂愛は黄光様からの連絡後、件の男子生徒と一切の接触を絶った事を確認。

学内の素行調査については、Adolphe Pescarolo氏に学園の敷地内に設置されている監視カメラの映像提出を要請すると同時に、聞き取り調査を経て学園内でも接触が無い事を確認。

 

引き続き調査を行うか否か、判断求む。

 


 

「……」

 

調査員から四宮家への報告書をじっくりと読む。一見何の変哲も無い、早坂愛()に関する一ヶ月の調査報告書だ。だけど……

 

「まさか……改竄されてる?」

 

言葉にすると、より確信に近付いている気がした。余りにもわかりづらく、巧妙に偽造されてはいるけれど……確かに改竄されている。一体どうして……

 

「いや……それよりも、この改竄式って……」

 

それは……身に覚えのある改竄式だった。私はこの改竄方法を知っている。でも、まさか……

 

〈ヴゥゥゥ!〉〈ヴゥゥゥ!〉

 

「……ッ」ビクッ

 

スマホが机の上で振動し、思わず身体が反応する。私はスマホを手に取ると、メッセージが来た事を表すメールアイコンをタップした。

 

「こ、これって……!」

 

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