石上優はやり直す   作:石神

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感想、評価ありがとうございます(゚∀゚)
愛の真影、これにて完結です!


石と愛のエピローグ

 

奉心祭最終日は、早朝から慌ただしい空気が漂っていた。なんでも……怪盗からの犯行声明文が見つかり、学園中に飾られていたハート形の風船が消失したとか。そういえば……前回もそんな事があったなと、記憶を探りながら目的地へと向かう。

 

「まだ来てないか……」

 

いつもの場所に来て周囲を見渡すが、早坂先輩の姿はまだなかった。早朝に態々此処まで来たのは……昨日の深夜、早坂先輩から朝イチで会って話したい事があると連絡があったからだ。

 

「……」

 

会って話したい事か……わ、別れ話じゃないよな? 冷静になって考えたら、やっぱりなんか違うなーってなって、次の日に別れるカップルも居るってネットに書いてあったし……

 

石上はイマイチ自分に自信が持てなかった。

 

「も、もしそうだったら……」

 

私も……優君が大好きだよ。だからお願い、私を優君の恋人にして下さい。

 

「まぁ……流石にそれは無いか。」

 

僕は自信家じゃ無いから、あまり自分に対する自信は持てないけど……昨日早坂先輩が言ってくれた言葉と、早坂先輩に対する気持ちだけは……揺るがない自信がある。

 

「……」

 

昨日の放課後、僕と早坂先輩は恋人同士になった。ロマンの欠片も無い、ポロッと出てしまった僕の告白を……早坂先輩はとても喜んでくれた。だけど、それで満足してはいけない。早坂先輩と一緒に回れそうな出し物は、既にリサーチ済みだけど……数はそれ程多くない。オカ研の占い、天文部のプラネタリウム等……暗幕で室内が暗く、人通りの少ない場所に位置する出し物なら、出入りに気を付けさえすれば一緒に回れる筈だ。

 

「……」ガサッ

 

「あ、早坂先輩っ……!?」

 

「優君っ……!」ギュッ

 

背後からの物音に呼び掛けると……振り向く暇も無く、早坂先輩に背中から抱き締められた。

 

「な、何かあったんですか?……まさか、四宮家の密偵関係で何か問題が起きて……!?」

 

「半分正解……かな。」

 

「……半分?」

 

「うん、実は昨日……」

 

早坂先輩は、抱き着いたまま……ポツポツと昨日の出来事を語り始めた。

 

………

 

〈四宮邸自室〉

 

「こ、これって……!」

 

緊張しながらメールを開くと、差出人はママからだった。そして、其処に書かれていた文章に私は衝撃を受けた。

 


 

このメールは愛がある条件を満たした場合に限り、愛のスマホに自動送信される様設定されています。色々言いたい事もあるけれど……先ずは正人さんの言葉をそのまま記載します。

 

……愛がこのメールを読んでいるという事は、既に四宮本家のサーバーに侵入し、報告書が改竄されている事に気付いただろう。察しの通り、報告書は私が書き換えた。既に愛とその周辺を調査していた調査員は、架空の任務で東京を離れているから心配しなくて良い。

 

「やっぱり、パパが報告書の改竄をしたんだ……だけど、そんな事がもしバレたら……」

 

私は焦る気持ちを抑えながら、慎重にメッセージをスクロールして続きを読み進める……

 

愛が心配しなくても……改竄が露呈し、我々が被害に遭う事は無いから安心しなさい。それに早坂家が忠誠を誓っているのは、黄光様では無く雁庵様だ。主人でも無い人間に、義理を通す道理は無い。

 

「パパ……」

 

何より……愛娘に余計な手出しをされて黙っていられる筈もない。半年間は絶対に露呈しない様に偽装した。それまでに……四宮家に対する交渉材料を手に入れなさい。

 

……という事よ。ちなみに……私もパパと同意見。可愛い愛娘に脅迫なんて舐めた真似されたんだから、これくらいの意趣返しは当然でしょ?

 

「パパ…ママ……!」ウルッ

 

安堵の感情が膨れ上がり、潤み始めた瞳を拭いながらスクロールを続ける。如何やらまだ文章は残っているらしく、下へ下へと画面を動かして行くと……

 

それはそれとして……とても優しくて、正義感があって、思い遣りのある年下の男の子は、一体いつになったらママに紹介してくれるの?

 

「」

 


 

「……ッ!」ギューッ!

(ママってば、勝手に日記読むとか性格悪いし!)

 

「は、早坂先輩…苦しっ……!」

 

「あ! ご、ごめんね?」スッ

 

「い、いえ……話を纏めると、半年間は四宮家の密偵に気を付けなくても大丈夫って事ですか?」

 

「うん、そういう事みたい。」ギュッ

 

「そっか……良かったですね。」

(常に密偵を警戒し続けるのも、相当なストレスになってただろうし……本当に良かった。)

 

「うん……優君のお陰。」

 

「え? 僕は何もしてませんよ?」

 

「うぅん、そんな事無いよ。だって……もし優君が居なかったら、私はこんなに早く四宮家のサーバーに侵入しなかった筈だもん……」

 

「……」

 

「あの時……優君が私を諦めないでくれたから、私は今こうして優君と一緒に居られるし、優君が側に居てくれたから……四宮家に対する交渉材料を手に入れる為に、行動する事が出来たの。」

 

「早坂先輩……」

 

「私1人だけだったら、今も動けないままだった。学園ではギャルの早坂愛、それ以外では四宮家使用人の早坂愛として……優君と出会う前の、自分を偽り続ける日々を過ごしてたと思う。優君と離れる事を選んだ、自分の選択を後悔しながら……」

 

「……」

 

「だからね……優君、私を諦めないでくれてありがとう。私の側に居てくれてありがとう。私を支えてくれてありがとう。私を好きになってくれて……ありがとう。」ギュッ

 

「……ッ」

 

「……大好きだよ。」

 

………

 

せめてコレを渡す時くらいは、ロマンチックな雰囲気でと思っていた。奉心祭最終日、闇夜に灯されるキャンプファイヤーを早坂先輩と眺め、場が温まった所でコレを渡す瞬間を夢想していた。だけど……

 

「……大好きだよ。」

 

早坂先輩の心の籠った言葉を聞いて、雰囲気だとかタイミングだとか……そんなモノは些細な事だと気付いた。伝えたい想いがあるのなら、直ぐに言葉にして伝えるべきなんだ。僕はポケットから2つのキーホルダーを取り出すと、早坂先輩へと向き直る。

 

「早坂先輩、コレ……もらってくれますか?」

 

「え……?」

 

それはハーフハートと呼ばれるデザインで、1つのハートを真ん中から分割したモノだ。それぞれの真ん中部分には磁石が付いていて、近付けると磁石がくっ付いてハートの形になる代物だ。僕はその内の1つを手に取ると、言葉を続ける。

 

「奉心祭では……ハートの贈り物をすると、永遠の愛がもたらされるって話、知ってますよね?」

 

「う、うん……」ドキッ

 

「僕は……絶対に先輩を1人にはしません。先輩が寂しい思いをしなくても良い様に、先輩が辛い思いをしなくても良い様に……ずっと側に居て守り続けます。先輩が笑って過ごせて、心から幸せだと思える様に……僕の生涯を懸けて、早坂先輩を幸せにする事を誓います。これは……その証です。」

 

「あ……」

 

先輩の掌にキーホルダーを乗せると、黙って反応を待つ……

 

「ほ、本当に良いの……?」

 

「……早坂先輩が貰ってくれないと困ります。」

 

「で、でも! これじゃ、まるで……」

(ぷ、プロポーズみたいで……)

 

「僕は生涯、早坂先輩以外の人にコレを渡すつもりはありません……貴女だけです。」

 

「わ、私だけ?」

 

「はい。早坂先輩(ハート)が欠けたままじゃ、永遠の愛にはなりません。貴女が側に居てくれて初めて、このキーホルダーは永遠の愛という意味を持つんです。」

 

「……ッ」

 

「……」

 

「もし……優君が他の人を好きになって、コレを返してって言って来ても絶対に返してあげないよ?」

 

「はい、ずっと持ってて下さい。」

 

「優君の事、自慢だってしちゃうからね?」

 

「はい、遠慮なくして下さい。」

 

「ま、ママにだって紹介しちゃうからね!?」

 

「ガッカリされない様に、頑張ります。」

 

「〜〜〜!!」ギュッ

 

「ッ!」

 

「もう……離してあげないからね。」

 

「はい、僕も離れたくないですから。」

 

「優君……」

 

「先輩……」

 

抱き付いたまま顔を上げた早坂先輩と目が合った。上気した頬、僅かに潤んだ瞳、そして、早坂先輩との距離が徐々に小さくなって行く……

 

「……ッ」

 

「っ!?」

 

残された距離が10センチを切った頃、早坂先輩はそっと目を閉じて動きを止めた……つまりは、そういう事なのだろう。此処でヘタレてはいけない! 僕は一瞬で覚悟を決めると、早坂先輩との距離を詰め……

 

〈さて! とうとうやって来ました、奉心祭最終日! やり残した事がない様、皆さん精一杯楽しんで下さい!!〉

 

「ッ!?」ビクッ

 

「っ!?」ビクッ

 

敷地内に響き渡るつばめ先輩のアナウンスに、先程まで詰めていた早坂先輩との距離が元に戻る。

 

「あ、あはは……そろそろ戻ろっか?」

(わ、私ったら、今何をしようとっ……!?)

 

「そ、そうですね……」

(タイミングー!)

 


 

〈2年A組コスプレ喫茶〉

 

「愛ちゃん上がっていいよー!」

 

「いえーい!」

 

「かぐや様のシフトも、これで終わりでーす! お疲れ様でしたー!」

 

「はぁ、やっと終わりですか……」

 

「かぐやちゃん、どうしたし? ほらほら元気出して! アゲてけ、アゲてけー♪」

 

「私にまで非日常感を演出しないで。」

 

………

 

〈休憩室〉

 

「はぁ、本当に接客業も大変ね……」

(……会長のバルーンアートのシフト時間まで残り30分……丁度良い時間ね。)

 

「……」

 

「早坂? どうしたの?」

 

「……!」ムフーッ

(優君のすっごく優しい所とか、告白してくれた時のカッコイイ所とか誰かに聞いて欲しい……!)

 

早坂は恋人が出来たばかりの人間が陥る、お決まりのテンションになっていた。

 

「……早坂?」

 

早坂正人の機転により四宮家の監視から逃れたとはいえ、早坂愛が四宮家の使用人であり、四宮かぐやの近侍である事実に変わりは無い。テストは意図的に順位を落とし、常に目立たない様にしている早坂愛にとって、石上優と恋人関係という事実はイタズラに吹聴するべきモノでは無い。だが……

 

「……」ソワソワ

(……ってダメダメ! そりゃ出来る事なら自慢したいけど……私が目立っちゃうと、かぐや様のサポートに不都合な事が今後あるかもしれないし。でも優君の彼女って自慢したいし、優君のカッコイイ所とか言いた……い?)

 

私はメイド服を脱ぎながら考える。何かが閃きそうな……そんな予感を感じたからだ。そして、その閃きは直ぐにやって来た。

 

「……ッ!」

(そうだ、かぐや様に聞いてもらおう。恋人同士(私と優君)の遣り取りを教えてあげれば、告白する事に気後れしてるかぐや様の背中を押す事にも繋がるし!)

 

早坂は大義名分を掲げた。

 

「……早坂? さっきからどうしたの?」

 

「……」

 

これはあくまでも、かぐや様の背中を押す事が目的だ。幾らなんでも、独り身のかぐや様に恋人自慢をするなんて……そんなかわいそうな事は流石にしない。私にだって、それくらいの分別はあるのだ。

 

(かぐや)の事を独り身呼ばわりする辺り、早坂に近侍としての分別はついていなかった。

 

「かぐや様、かぐや様。」グイッ

 

「な、何よ早坂?」

 

早坂による惚気話が始まった。

 

………

 

「それで私も感極まっちゃって、つい目を閉じてしまって……って、かぐや様どうかしましたか?」

 

「早坂、貴女……最近ちょっと緩み過ぎてるんじゃない!? 恋愛に(うつつ)を抜かす事が絶対に悪いとは言わないけれど、もう少し自重する事を覚えるべきなんじゃないの!?」

(私が会長に告白されなくて悶々としてるのに、早坂は石上君から告白されて付き合う事になって、そんなにイチャイチャしてるなんて……ズルい!!)

 

かぐやは他人の幸せを妬むタイプだった。

 

「あ、僻みですか?」

 

早坂はナチュラルに煽った。

 

「は…はーっ!? べ、別に羨ましいとか全然思ってないから! そんな事で浮かれるなんて、早坂ったら本当に子供よね! あーあー! はしたない!! もう早坂なんて、私の事は気にせずに好きなだけ石上君とイチャイチャすれば良いんじゃないの!?」

 

「……しますけど?」

 

「え?」

 

「だから、イチャイチャしますけど?」

 

「なっ!?」

 

「一緒に歩く時は、恋人繋ぎしたり……」

 

「っ!?」

 

「2人っきりの時は、ハグしたり……」

 

「っ!!?」

 

「ぷ、プロポーズもされちゃったり……!」

 

「」

 

「……ッ!」フフンッ

(勝った……)

 

早坂からかぐやへの下剋上が達成された。

 

「…るぃ……」

 

「……?」

 

「ずーるーいー! ずーるーいー!! 私だって会長と文化祭デートしたいし、告白だってされたいのに、なんで早坂だけ……っ!」エグエグッ

 

「はいはい、ちょっとやり過ぎましたね。ほらほら、会長さんのシフト時間になりましたよ?」

 

「早坂のイジワルぅ……」

 

「はいはい、イジワルされたくなかったら、さっさと会長さんに告白して来て下さい。そしたら、もうイジワルなんてしませんよ。」

 

「うぅー!」

 


 

「じゃ、頑張って下さい。」

 

「わ、わかってるわよ……!」

 

かぐや様を見送ると、優君との待ち合わせ場所へと向かう……パパのお陰で、私には半年間の自由な時間が与えられた。その時間内に、四宮家に対する交渉材料を手に入れるのが、私の当面の目標だ。

 

「……」

 

でもそれと同時に……この与えられた時間を使って、学園生活を精一杯楽しみたいとも思っている。私がこんなに前向きで、幸せな気持ちを持てる様になるなんて……以前の嘘ばかり吐いていた私なら、絶対に有り得なかった事だ。でも……

 

「……お待たせ。」

 

「あ、早坂先輩、疲れ様です。それじゃ、行きましょうか?」ギュッ

 

「……うん!」ギュッ

 

優君が側に居てくれる限り、この気持ちは決して嘘にはならないと……私は知っているから。

 

ー完ー




ここまで読んで頂きありがとうございました!
afterは思い付いたら投稿したいと思います。
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