私には最近……気になる男子がいる。気になると言っても、それは恋愛的な意味じゃない。強いて言えば……好奇心? だと思う。キッカケは、先月に起きたある事件……
昼休み……いつもの様に友達と机を並べてお弁当を食べていると、男子2人の話し声が校内放送で聞こえて来た。どうやら、話している2人は荻野と石上というらしい。荻野は確か演劇部の人間だ……話の内容は荻野の最低な行為(自分と関係を持った女子生徒を脅し、他校の生徒に貸し出していたと後で知った)を糾弾するモノだった。いつの間にか昼休みの喧騒は鳴りを潜め、皆が放送に耳を傾けていた。
荻野は最初見逃してもらうように交渉してたけど、通用しないと気付くと今度は、石上と仲の良い風紀委員2人に危害を加えない事を交渉材料に脅しをかけ始めた。風紀委員の2人と仲の良い男子生徒……という情報でやっと石上という男子生徒が誰かわかった。いつも2人で行動してる風紀委員の伊井野ミコと大仏こばち……周りからは、あまり良い評判を聞いた事がないけど……最近男子と一緒に居る所を何度か目撃した事があった。風紀委員、しかも堅物な伊井野ミコと多数の女子に嫌われている大仏こばちと一緒に居るなんて物好きだな……と思った。
どうやらこの校内放送は石上の策略で、荻野の行いを全校生徒に周知する事が目的だったらしい。荻野の叫び声が校内に響き渡った所で、先生達が廊下を走って行くのが見えた。多分、放送室に向かっているんだろうな……今更止めたところで意味なんてなさそうだけど。
教室は先程から流れて来る放送の内容に騒然としていた。そろそろ先生達が放送室に着いたかなと思った頃……
〈僕が守るよ。〉
〈2人に危険が及ばなくなるまで、僕が……2人を守る。〉
という核爆弾級の言葉が聞こえて来た。近くにいた一部の女子達は、キャーキャーとほんのりと紅潮した顔を手で覆っている……多分、私も少し顔が赤くなっていたと思う。その直後、先生達の声が聞こえて放送は止められた……石上優という男子が気になりだしたのはその時からだと思う。
石上優という男子は……良くも悪くも、それなりに有名らしかった。
2年までは影が薄く友達もいない、成績も下から数えた方が早い程、所属していた陸上部は2年の春に退部……あまり人と関わるタイプではないらしい。それが3年に進級すると、陸上部に再入部して都大会入賞、学期末テストでは不動の一位だった伊井野ミコと同率一位。クラスの雑用や委員会の手伝いも積極的に取り組む変わり様。とても同一人物とは思えない変化だ。
……変化といえば風紀委員の2人にも起きた。堅物な伊井野と女子達の嫉妬で疎まれていた大仏さんに対する認識が変わったのだ。原因は荻野の発言、いくら疎ましく思っていても自分と同じ年の子が酷い目に遭いそうになったと知って、今まで通り嫌がらせやイジメを続ける人間は激減した。人は良くも悪くも他人に影響を受ける生き物だ。周りが嫌がらせを辞めたのに、自分だけ辞めないなんて出来る筈が無い。石上の行いは過激ではあったけど、全てが良い方へ働いたみたい……
「おのちゃん、お待たせ!」
私を呼ぶ声に、思考から意識を外し顔を上げる。小野寺だからおのちゃん……普通に麗じゃダメなのかと思ったけど、そこまで呼び名に拘っている訳でもないので好きに呼ばせている。
「あんま待ってないから大丈夫。それじゃ、行こうか大友さん。」
今日は石上と同じクラスの大友さんから話を聞く為に待ち合わせをしていた。適当な喫茶店に入って注文をすると、早速本題に入る。
「大友さん、石上と同じクラスだよね? ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「石上君? 私にわかる事ならいいよ。」
「……石上ってどんな奴?」
「どんな? うーん、一言で言うなら頑張り屋さんかなぁ。」
「頑張り屋ね……」
「うん、部活とか勉強とか凄い頑張ってるよね! あと、委員会とかも!」
「大友さんとは仲良いの?」
「良いと思うよ? 休みの日に遊んだりはしないけど、学校じゃ色々助けてもらってるよ。挨拶する時もなんか……ニコッて感じで優しい顔でしてくれるし。」
「ふーん、なんかイメージと違うね。」
「私も最初はちょっと暗い感じの男子なのかなって思ったけど、全然そんな事なかったよ。」
「なるほどね……」
「ねぇおのちゃん、私も1つ聞いて良い?」
「別にいいよ、何?」
「おのちゃんてさ、石上君の事好きなの?」
「はあっ!? なんでそうな……」
そこで私は、現在の自分の行動を思い返した……ある男子について調べ回り、同じクラスの女子に詳細を聞く女子……
(もしかして、今の私って……気になる男子について聞いてるみたいになってる!?)
「ち、違うから! あの放送聞いてどんな奴か知りたくなっただけだから!」
「……ふーん?」ニマニマ
「信じてないでしょ!? ホントだから! 大体それを言うなら大友さんはどうなの!?」
「私?」
「そうだよ、仲良いんでしょ? 知らない内に好きになったりするんじゃないの?」
「うーん……真面目だし、優しいし、凄くいい人だと思うよ?」
「何? それだけ?」
「うん、単純にタイプじゃないんだー。」
大友さんは一切悪びれる事も無く、石上との可能性をバッサリと否定した。
(うわっ、キッツ……)
「そ、そうなんだ……」
「うん。あっ、すいませーん! ショートケーキお願いしまーす。」
「……」
(なんか……石上がかわいそうに思えてきた……もしこれで、石上が大友さんの事が好きだったら目も当てらんない……)
………
「あ……」
(石上……)
数日後……廊下を歩いていると、偶々石上の後ろ姿を目撃する。私は特に意識する事無く近付くと……
「石上、強く生きなよ……」ポンッ
「え、小野寺いきなり何?」
「……ん? なんで私の名前知ってんの?」
「あ……そ、その、誰かにそう呼ばれてる所を見た事があってさっ……」
(危なっ……そういえば、まだ知り合ってなかったわ……)
「ふーん……ね、連絡先教えてよ。なんかの時、必要になるかもだし。」
「あぁ、いいよ。」
「……」
(とりあえず……噂はアテにしないで、私の目で見て判断しよう。)
小野寺麗、色々と成長出来るお年頃。