(本当にすいません、別に忘れてた訳じゃないんです……只ちょっと忙しくてウッカリしてただけなんです……)
四条眞妃!! 前回の人生に於いては、お互いの恋愛について相談したり、ちょくちょく遊びに出掛けたりした仲である。文化祭では……四条眞妃に背中を押してもらった事で、一歩踏み出した行動を取る事が出来た。親友と想い人が目の前でイチャつく様を何度も見せられ、その度に死んだ目で自分を見てくる彼女を見て……
なんでこんな良い人が辛い目に遭ってるんだろう
神はこの世に居ないのか
いつになったら幸せになれるんだろう
と石上は常々思っていた。
(と、とりあえず落ち着かせないと……)
僕は自販機でココアミルクを購入すると、直ぐにマキ先輩へと手渡した。
「先輩、どうぞ。」
「グスッ……フン、なかなか気が効くじゃない。」
マキ先輩は勢い良く缶を傾けると、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。
「はぁー……少しだけ落ち着いたわ。」
「良かった……カカオポリフェノールにはストレス解消に効果が。牛乳に含まれるトリプトファンという物質は、幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質のセロトニンを作る材料になるんです。コレ飲んで、激減した幸せホルモンが元に戻るといいですね。」
「ぶんなぐんぞ。」
「とりあえず、名前聞いていいですか?」
「あら、私の事知らないの? ……ってその制服あんた中等部ね。仕方ないから教えてあげるわ! 私の名前は四条眞妃! 学年三位の天才にして、正統な四宮の血筋を引く者よ!」
「わー、あの四宮家の……」
「そうよ! 現生徒会副会長の四宮かぐやは、私の
「だから遠いんですって。」
「……だから?」
「あぁいえ、こっちの話です。それで、四条先輩はどうして泣いてたんですか?」
「……」
「まぁ、言いたくない事なら無理にとは言いませんけど……悩みがあるなら、誰かに話す事で解決する事もありますよ?」
「……ココアのお礼って事で、特別に話してあげるわ。」
10分後……
「つまり……来月に高等部で奉心祭が開催されるから……」
「うん、ぐすっ……」
「好きな人を誘おうとしたら、恥ずかしくなってつい罵倒してしまい……」
「うん…えぐっ……」
「結局誘えずに自己嫌悪していたと。」
「うぅぅぅ……えぐぅ……」
「……」
(不憫な人だ。素直に誘えば、柏木神と神ってない翼先輩とならすぐに恋仲になれそうなのに。柏木神と……神ってない……あああぁっ!? そうだよ! まだ付き合ってないじゃん!!)
石上気付く。
(前のマキ先輩は、神殺しに1人で挑む装備無し勇者みたいな状況だったけど、神ってない今なら普通にチャンスなんじゃ……)
しかし! 此処で石上優の脳内を過去の記憶が走馬灯の様に駆け巡る!
渚……好きだよ……
翼……私も……
(でも僕がアドバイスしてツンデレ先輩が翼先輩と付き合う事になったら、あの幸せに満ちたカップルの存在がなくなるって事になるんじゃ……)
罪悪感!! なまじ幸せそうな柏木×翼のカップルの様子を見て来た経験があるだけに、石上はとてつもない罪悪感を感じていた!!
(ヤバイ、罪悪感で死にそう……かと言ってこのまま何もしないのは、ツンデレ先輩がかわいそうだし……泣きたくなってきた……)
「ぐすっ……はぁ、こんな事年下に言ったところで意味ないわよね。有益な事が言える訳じゃないだろうし……」
「グスッ……」
「あ、ご、ごめんね!?態々話を聞いてくれたのに、私ったら……」
(……いい人なんだよなぁ……よし。)
「あの……文化祭デートに誘うのが恥ずかしいなら、言い方を変えてみませんか?」
「……言い方?」
「はい、今月末に中等部で文化祭があるんですけど、それに誘うんです。誘い方は……後輩が中等部で店を出すらしいから様子見に行くんだけど、ついでだから一緒に行かない?って感じで、目的はあくまで後輩の様子見って事にして……」
「そ、それくらいなら……で、でも、もし断られたら……」
「大丈夫です、女子の誘いを断る男なんていませんよ。丁度僕のクラスがたこ焼き屋をやる事になってるので、様子見の理由には十分でしょう。」
「そ、そうよねっ……態々私が誘うんだもん……断る訳ないわよね!」
「そうですよ、頑張って誘って下さい。」
「……ねぇ、なんであんたは先輩とはいえ、初対面の人間にそこまでするの?」
「……好きな人がいる人の想いは、報われてほしいじゃないですか。話掛けるのにも凄いドキドキして、一緒にいると嬉しくて、でも自分は好かれてるのか不安になって、いろんな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになってるのに、好きって気持ちはキラキラと輝いてる。……それに、先輩を見てると応援したくなっちゃうんです。」
「ふ、ふんっ! とんだ変わり者ね!」
「……そうかもしれませんね。」
「貴方、名前は?」
「石上優です。」
「そ、石上優……ね。覚えてあげるわ。誇りなさい! 私に名前を覚えてもらえる事を!」
「ハハハ。ありがとうございます、四条先輩。」
「私はもう行くわ、じゃあね。」
「はい、頑張って下さい。」
去って行くツンデレ先輩の背中を目で追いながら、ふぅっと息を吐く……
(まぁ結局、誰と付き合うか決めるのは翼先輩だからな……僕はあくまで、ちょっとアドバイスしただけだし……決して責任から逃れたいとかそういう事じゃないから。)
石上は田沼翼に全責任を転嫁した。