石上優はやり直す   作:石神

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石上優は眠りたい

〈2学期期末テスト発表掲示板前〉

 

文化祭も滞りなく終わり、冬休みまで残り1週間を切ったある日……掲示板の前は、いつも以上に生徒でごった返していた。

 

一位 伊井野ミコ(500)

 

(相変わらず、ミコちゃんは凄いなぁ……今回は満点だし。石上の方は、ちょっと落ちちゃったみたいだけど……)

 

九位 石上優(462)

 

(それでもトップ10入りしてるのは凄いけど。)

 

「うぅ……」

 

「石上……大丈夫? 体調でも悪いの?」

 

大仏は項垂れる石上に近付き話し掛ける。

 

「いや、なんでもない……」

 

嘘である。この男、先月の文化祭で柏木渚と出会ってから謎の悪夢に悩まされている。ある時は暗闇の中ずっと追い掛けられる悪夢、またある時は椅子に縛り付けられ拷問器具を順に見せつけられる悪夢、悪夢! 悪夢!! その度に恐怖で飛び起きる事になっていた石上は、テスト期間中はほぼ寝不足で過ごす様になっていた。

 

「はぁ……」

(あーしんどい……昔、四宮先輩にビビってた時の事を思い出すな……)

 

「石上……本当に大丈夫なの?」

 

「あぁ、大丈夫……伊井野は満点か、凄いな。」

 

「うん。凄いよね、ミコちゃん。」

 

「なんか秘訣でも見つけたのか?」

 

「別に、いつも通り勉強しただけよ。」

 

嘘である。この女、1学期末頃から勉強時間を2時間程多めに取る事に成功している。人数不足により多忙を極めていた風紀委員に石上優という情報処理のエキスパートが助っ人として加わった事で一日の仕事量は激減。更に9月の荻野事件を経て周囲からの嫌がらせも激減。以前とは比べ物にならない程ストレスも軽減されており、2学期は心身共に好調をキープ出来ていたのである。

 

「ふぅ……」

 

「石上、保健室で休んで来たら?」

 

「保健室……」

 

大仏の言葉に、大友京子の前で泣いてしまった恥辱体験が石上の脳内でフラッシュバックする! あの時の恥ずかしい感情は、石上の脳裏に焼き付いており、保健室というキーワードはその記憶を呼び覚ますトリガーへと進化していた!

 

「ごめん、保健室はちょっとダメなんだ……ちょっとしたトラウマみたいなモノがあってさ。」

 

「……保健室で何か怖い目に遭ったの?」

 

「怖い目……」

(そういえば……七不思議の〈見舞う骸骨〉に遭遇したのも保健室だったっけ……2つの意味で、もう保健室には行けないな。)

 

石上はトラウマが増えた。

 

「……なんでもないよ。とにかく保健室はちょっとね……」

 

「だったら、風紀委員の教室で休んだら?」

 

「……いいのか?」

 

伊井野の言葉に思わず聞き返す。

 

「もう学期末だから仕事も殆どないし、その状態のまま帰らして事故に遭ったら困るもの。」

 

「そっか……じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうよ。」

 

「じゃあ石上、これスペアキー……明日会った時にでも返して。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

僕は伊井野から鍵を受け取ると、風紀委員室へと歩き出した。

 


 

〈風紀委員室〉

 

教室に入ると直ぐに椅子を一列に並べ横になる。枕が無い為、多少寝づらいが仕方ないと諦め目を閉じると……疲れが溜まっていたのか、直ぐに眠気に襲われた。

 

「スゥ…スゥ……」

 

石上の寝息だけが教室に漂い始めた頃……

 

「……」カチャッ、パタン

 

1人の少女は音を立てない様に気をつけながら、横になって眠る石上の頭の横に腰を下ろす。起こさない様に細心の注意を払い、少女は自身の太腿に石上の頭を乗せ膝枕の状態を作った。

 

「……」

 

石上が目を開ければ見つめ合う形になってしまうが、少女は只々眠る石上を見下ろし続けている。

 

「…ンゥ……」

 

「ッ!」ビクッ

 

1時間程そうしていると……石上の零した声に少女は膝枕を止め、足早なに教室を出て行った。

 

「ん、はぁ……少しはマシになったかな……誰か居た様な気がしたけど、気の所為か?」

 

石上はさっさと椅子を片付けると、風紀委員室を後にした。

 

 


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