〈風紀委員室〉
「ミコちゃん、此処って……」
「えーと、其処は確か……」
今日は他の風紀委員も石上も居ない為、私とミコちゃんだけで風紀委員室に陣取っていた。文化祭も期末テストも終わり、残る行事は来週に控えた終業式のみ。ミコちゃんと冬休み前の軽い事務処理に取り掛かっていると、コンコンッとドアをノックする音が教室に響いた。
「はい、どうぞ。」
ミコちゃんが来訪者に入室を促すと、ゆっくりとドアが開く。
「失礼します。」ガチャッ
「えーと……貴女は?」
「小野寺麗、伊井野……さんと大仏さんだよね? ちょっと聞きたい事があって来たんだ。」
「私達に?」
「聞きたい事?」
小野寺麗……確かいつもテスト結果で、50位以内に入ってる人だ。今風の女子って感じに見えるけど、風紀委員の見回りでも注意される事は殆どない為記憶に残っていた。ルールの中でオシャレや学生生活を楽しんでいる女子……それが私から見た小野寺麗という女子の印象だ。
「うん、石上は居ないんだね。」
「今日は来る予定はありませんけど……」
「いや、寧ろ好都合。」
ミコちゃんにそう答えると、小野寺さんは私達の向かいの席に腰掛けた。
「石上が居ないのが好都合とは……どういう意味ですか?」
私は少し警戒度を上げて小野寺さんに問い掛けた。
「あ、警戒しないでくれる? 別に変な事しようとかじゃないから。ただ、ちょっと石上の前じゃ聞き辛い事があってさ……」
石上の前じゃ聞き辛い事? なんだろう……私とミコちゃんは、小野寺さんの続く言葉を待つ。
「石上って好きな人いると思う?」
小野寺さんのその言葉に……ドクンっと心臓が飛び跳ねた気がした。
「い、いぃぃし上の好きな人っ!?」
……どうやら、ミコちゃんも似た感じらしい。
「どうして……そんな事を私達に?」
「うーん、まぁ普段から一緒にいる2人なら知ってるかもって思って……あとはほら、精神的負担が軽減されればいいなって感じ?」
「……精神的負担?」
「あはは……気にしないで。」
(もし石上が大友さんの事を好きじゃないなら……気が楽になるというか……悲恋を見なくて済むし、とは言えない。)
「……そういう話を石上とした事はありません。そもそも学生の本分は勉学に励む事です。中学生で恋愛事に現を抜かすなんてそんな……」
「私も聞いた事はないですね。」
「ふーん、そっかぁ……じゃあ2人は石上の事どう思ってんの?」
「「んんっ!?」」
「い、石上の事って……一体どういうっ……」
「ンンッ、コホンッ……」
「だーかーら、好きかどうか聞いてるの。」
「すっ……ど、どうしてそんな事を貴女に言わないといけないんですか!?」
「……私もミコちゃんと同意見です。」
「そっか……じゃあさ、最後に1つだけ聞いていい?」
「まぁ、最後なら……」
「……一体何ですか?」
「……あの放送聞いてどう思った?」
「「っ!?」」
あの放送……そのキーワードを聞いて、2人の脳内には同じセリフが飛び交っていた。
羞恥心!! あの恥ずかしい体験から既に3ヶ月は経過しているが、伊井野ミコ、大仏こばちはあの時の事を不意に思い出してしまいベッドの上で悶えるという事を未だに繰り返していた!
「べ、別に石上が言った事なんて私はっ……」
「っ!? ミコちゃん!」
「……あれ? 別に私は、石上が言った事について聞いたつもりはなかったんだけど……」
謀られた……
「あ、ち、違っ…今のはっ…あぅっ……」ガクッ
伊井野ミコ撃沈。
「アチャー……やり過ぎちゃったか。」
「……小野寺さん、どういうつもりですか?」
「ん? どういうつもりって?」
「だから……態々、私達だけの時を狙ってあんな事を聞く理由です。」
「んー……私は2人よりも石上と付き合いは短いけどさ、石上が良い奴って事は、ここ2、3ヶ月でわかってきたつもりなんだ。だからかなぁ、石上と普段から一緒にいる2人が……石上の事どう思ってるか聞いてみたくなったの。」
「そう……だったんですか。」
「うん、まぁ……聞くまでもなかったみたいだけど。」
「それはっ……」
「ふふっ……ごめんごめん、大仏さんって凄い美人で近付きづらい感じがしてたんだけど、実際話してみるとそうでもないんだね。」
「……」
「折角だからさ、連絡先交換しようよ。石上を落とすのに知恵が必要ならチカラになるからさ。」
「お、落とすって……」
「……うかうかしてると、誰かに取られちゃうよ? とりあえず、来週高等部である奉心祭にでも誘ってみれば?」
「奉心祭に……」
「じゃあ、私はそろそろ行くね、伊井野にもよろしく言っといて。」
それだけ言うと小野寺さんは、振り返らずに風紀委員室を出て行った。
「石上を奉心祭に……」
私は気絶したミコちゃんを起こすと、風紀委員の仕事を続ける。仕事中、頭の中はさっきの小野寺さんとの会話がグルグルと繰り返されるだけだった。