奉心祭!! 凡そ千年前……病に倒れた姫君を助ける為に、1人の男が心臓を捧げ姫君の命を救ったという逸話から名付けられた由緒正しい祭りである。そして、奉心祭でハートの贈り物をすると永遠の愛がもたらされる……という噂が広まり毎年奉心祭の時期が近付くと、独り身達はそわそわと浮き足立ちする様になった。各々が胸に抱いた想いを吐露する場合もあれば、想いを吐き出せず仕舞い込み続ける場合もある。人は愛される事を求め、時に愛する事に恐怖する。しかし、結局どんなに愛され様と、どんなに愛を注ごうと……想いは口に出さなければ伝わらないのである。
〈生徒会は誘えない〉
「ん? 藤原書記はいないのか?」
「えぇ、藤原さんならテーブルゲーム部の方に顔を出しに行きましたよ。」
「そうか……」
「何か用事でも?」
「あぁいや……さっきA組の前を通りかかったらな、こんなモノを渡されてな。」
「これは……A組で出し物としてやってる喫茶店の無料券ですね。」
「あぁ、2枚渡されたから四宮と藤原で行ってくるといい……と言うつもりだったんだがな。」
「藤原さんは不在ですからね、1人で行くというのも味気ないですし……」
(さぁ会長、さっさと私を文化祭デートに誘いなさい。会長がどうしてもと言うのなら、応えてあげても構いませんよ?)
「確かにそうだな……さて、どうするか……」
(さぁ四宮、さっさと俺を文化祭デートに誘うんだな。四宮がどうしてもと言うのなら、付き合ってやらんでもない。)
((フフフフフッ……))バターンッ
「会長! かぐやさん! 見て下さい、良い物もらっちゃいました〜。」
「ふ、藤原っ!?」
「藤原さんっ!?」
「A組でやってる喫茶店の無料券です! ちゃんと人数分ありますから皆で行きましょう!」グイッ
「あっ……おい、藤原っ!?」
「ふ、藤原さんっ!?」
「はやくはやくぅ!」
「「ああぁぁっ……」」ズルズル
〈四条眞妃は誘いたい〉
「何あんた、折角のお祭りに一緒に回ってくれる女子もいないの?」
「あはは、マキちゃんは痛いトコ突くなぁ。」
「ど、どうしてもって言うなら、わ…わたっ……私がっ……!」
「あー眞妃こんな所にいたー。C組の出し物凄いんだって、見に行こうよ。」グイグイッ
「渚!? あぁあっ……ち、ちょっと今はっ……」
「はやくはやく。」
「あぁぁぁっ……」ズルズル
「2人共楽しんで来てねー。」
〈龍珠桃はサボりたい〉
「あー、ダリぃ……」
龍珠桃は天文部所有の部屋の前で椅子に凭れ掛かっていた。今年の天文部は部室内を一部改造し、簡易的なプラネタリウムを出し物としてやる事になっている。決められた人数を部室に押し込んだ後は、設定時間が経つまで外で待っていればいい……楽な仕事だと高を括っていたが、未だ1人の来客もないのである。理由は明白、部室の前には椅子にだらしなく座り、不機嫌さを隠そうともしない目付きの悪い少女がいるのだから。学内の人間ならば、龍珠組の愛娘……龍珠桃は有名人であり、自ら近付こうとする人間はごく少数である。龍珠桃を知らない学外の人間もその不機嫌オーラを見ると、来た道を戻って行く……詰まる所龍珠桃の存在は、客寄せならぬ客避けにしかなっていなかった。
「客来ねぇならサボろうかな……」
「龍珠先輩、こんちわっす。」
「おう、石上か……よく来たな。」
「……暇なんですか?」
ダラけている龍珠を見て石上は尋ねる。
「お前らが最初の客だよ。」
「そ、そうですか……」
予想外の客入りのなさに石上は戸惑った。
「じゃ、入ろうか石上。」
「あぁそうだな。」
石上は隣の大仏と並んで部室へと入った。部室の中は暗幕により夜と見間違う程の暗闇と化していた。少しすると天井が淡い光を放ち出し、夜空に輝く星々が様々な星座を創り出す。
「凄いなぁ、部活の出し物でこんな本格的なモノが見れるなんて……」
「うん、凄い綺麗……」
大仏は頭上に輝く星々を見ながら、隣に佇む石上へと視線を向ける……
「……」
(まさか、石上と2人っきりで回れるなんて思わなかったな……)
大仏は先程まで一緒にいた2人の少女の事を思い出していた。