決意してからの石上の行動は早かった。
翌日には陸上部顧問に入部届けを提出した。
顧問は始め、3年で陸上部に入部する事に難色を示す。
既に3年最後の大会まで2ヶ月を切っていたからだ。
しかし、石上の……
「僕が大会に出る実力がないと先生が判断されたら退部します!」
という言葉に溜息を吐きながら……
「そこまで言うならやってみろ」
と許可を出した。
日中は真面目に授業を受け、放課後は陸上部の練習、家に帰ると片付けた部屋で勉学に打ち込んだ。
二学期期末テストの目から血が噴き出る程の悔しい結果により、石上はそれ以降毎日5時間を勉強に注いでいた。
中学時代最後の半年と高等部最初の数ヶ月は真面目に勉学に励んでいなかった石上だが、それ以降は子安つばめに並び立つ男になる為、そして自分を後押しして支えてくれた四宮かぐやに報いる為、懸命な努力を続けていた。
その結果、三学期期末テストでは念願の50位以内に入るという目標を達成。
失敗ばかりで成功例のなかった石上が初めて自信を持つ結果となった。
「……!」
(僕ならやれる! きっと大丈夫だ!)
時間が戻り、その事実が消えても石上が忘れない限りこの自信が消える事はないだろう。
そして突如、部活に入り直し、勉強に励む石上に家族は戸惑った。
今までゲームや漫画を優先し、勉学には力を入れてこなかった息子の変わり様に嬉しいやら驚くやらで動揺する両親。
しかし、石上の発言とそれによる結果により、それどころではなくなった。
「これからのゲームは、携帯ゲームとスマホアプリが主流になると思うよ。例えば……」
そう、この男何を隠そう現在から約2年先のゲーム事情を熟知している!
故にこれからヒットするであろうゲームや玩具の傾向がわかっている!!
まるで見てきたように発言する息子の言葉に父親は生唾を飲み込み聞き入った!!!
父親は息子の話を聞き終わると、一目散に自室へと走り〈新商品計画書〉と表示された紙に一心不乱にペンを走らせる。
書き込まれた計画書を見下ろし確信する……
コレは当たると。
その後、売り出した商品がヒットし、会社が潤いまくるのは数ヶ月後の話である。
軽い気持ちで父親にヒット商品の話をした石上は、もはや逆行前の習慣となった勉強を始める。
それはひとえに周囲からの信用と実績を獲得し、大友京子を荻野の手から守る為……
しかし……石上のこの努力は数ヶ月後、予想外の方向に裏切られる事を彼はまだ知らない……
そして……2ヶ月後。
石上は期末テスト結果の貼り出された掲示板の前にいた。
中等部も高等部同様、上位50名は名前が貼り出される為、結果を見ようとする生徒でごった返している。
「……」
(相変わらず凄いな……)
一位 伊井野ミコ(490)
馴染みのある名前を目にしフッと笑みが零れる。
「……」
(でも、コレは……予想外だったな)
一位 石上優(490)
伊井野ミコと石上優の同率一位である!
「マジかぁ……」
(まさか、僕が一位なんて……)
しかし、この結果は当然である! 高等部の勉強で上位に入る為には、先ず中等部で習った基礎が出来ていなければ到底不可能である! 逆に言えば高等部の三学期期末テストで36位を獲得した石上は、中学で習う基礎はほぼ完璧だという事を意味する! もう一度言おう、この結果は当然である!!!
「ま、とりあえず……」
(コレで少しは僕の評価も上がると良いけど……)
少しどころでは無い。この男……2ヶ月という短い期間だが真面目に部活動に取り組み、なんと都大会入賞を果たした。その2ヶ月間の石上の頑張りは、同じ陸上部の部員や顧問の教師から他の生徒や教師へと拡散……部活以外でも面倒な雑用を率先して熟し、徐々に周囲の人間から認められるようになっていた。石上本人はその性格上気付いていないが、周囲の人間は既に尊敬の念を抱き始めていた。