高等部入学式
奉心祭から3ヶ月以上が経ち、石上優は秀知院学園高等部の入学式に参加していた。
(やっとここまで来れた……)
石上優はかつて自身が所属していた……生徒会のメンバーや年上の友人達を思い浮かべながら、入学式が終わるのを待つ。
「続きまして……白銀生徒会長による新入生への挨拶です。」
その言葉に、生徒達の響めきが体育館に充満する。生徒会長白銀御行は、舞台へ上がると演台の前に陣取りその鋭い瞳で全体を見渡す。生徒会長の傍らには副会長である四宮かぐや……かつて石上に救いの手を差し伸ばし、時に導いてくれた2人の姿を石上はやっと自身の視界に収める事が出来たのである。
(やっと会えました……会長、四宮先輩。)
凛々しくも厳格に言葉を発する会長を見て、無意識に口元が緩んだ。
(今回は荻野の件で勧誘される事はない。なんとか自分を売り込んで生徒会に入れれば……)
その心配が杞憂となる事を彼はまだ知らない。
入学式も問題なく終わり、各々が掲示板で自身が振り分けられたクラスを確認する。
(僕はB組か、ここら辺も前と同じなんだな。)
石上はそのままB組の欄を眺める。
(伊井野、大仏、小野寺……多分他の生徒も前回と同じクラスになってるんだろうな。)
「石上君、クラスどこだった?」
「B組だったよ、そっちは?」
「私はC組だったよ、別れちゃったね残念。」
そう目の前で洩らす女子……大友京子を見て僕は肩の荷が下りた気がした。
どうやら前回、大友が高等部に進学しなかったのは荻野の件は関係なく、単なる学力不足という事実を僕は大友に勉強を教える過程で知った。前回の大友は、他校へ行っても楽しく生活しているようだと会長から聞いていたが、どうせなら友達と一緒にいられるようにしてあげたいと思い勉強を教える事を快諾した。その時は伊井野と大仏も協力してくれたが、内部進学試験が終わる頃には皆が疲れた顔をしていた。……それだけ大友に勉強を教えるのはキツかった。まぁ、苦労した甲斐もあって、こうして大友が高等部へ進学出来たのは喜ばしい事だと思う。
………
大友と別れ、これから過ごす事になるB組の扉を開け自分の席に着く。今日は授業もない為、担任から高等部の校則と設備についての説明が終わるとあとは帰宅するだけだ。帰り支度を済ませ席を立つと、伊井野と大仏が近づいて来た。
「石上、今回は同じクラスだね。」
「あぁ、これからもよろしくな。」
「うん、よろしく。それで石上……ミコちゃんが話があるんだって。」
「ん、なんだ伊井野?」
「ねぇ石上、私とこばちゃんは風紀委員に入ろうと思うんだけど……一緒に入らない?」
一瞬、それも良いかもな……なんて思ったけど、やっぱり僕の居場所は彼処しかないと思った。
「……ごめん、折角誘ってもらって悪いけど、どうしても入りたいトコがあってさ。」
「……そっか、何処に入るの?陸上部?」
「いや、僕が入りたいのは……」
「失礼する……石上優という男子生徒は残っているか?」
「ッ!」
背後から聞こえて来たその声に、勢い良く振り向いた。マイク越しよりも、何度も直接聞いたその声を聞き間違える事なんて有り得ない。
「僕です、僕が石上優です。」
「そうか君が……俺は生徒会長の白銀御行。先程入学式で挨拶したばかりだから覚えていてくれるとありがたいが……少し話がしたい、そう時間を取らせないからついて来てくれ。」
「……わかりました。」
教室を出て会長の後ろについて行くと、どうやら生徒会室に向かっているようだとわかる。
かつての自分が通い慣れた道を進み、旧校舎の最奥地に構えられた生徒会室へと案内される。
「……」
「緊張しなくていい、好きに掛けてくれ。」
「はい……」
その言葉に従い、会長と机を挟む形でソファーへと腰掛ける。
「……それで話というのは?」
「まぁそう慌てるな、コーヒーでも淹れようか?」
「いえ、お構いなく……」
「そうか。」
石上、意図せずに危機を躱す。
「では、本題に入ろう。」