「では、本題に入ろう」
そう言って此方を見る会長と目が合った。寝不足の所為で出来た隈と、それによって生まれた副産物の鋭い眼光。人を寄せ付けない……それでも、周囲の人間から畏敬の念を抱かせるその姿を……僕は懐かしい気持ちで眺めていた。
「去年の9月、中等部で起こったある事件……身に覚えがあるな?」
「荻野の件ですか……」
「あぁ、そうだ。荻野コウという生徒は自分と付き合っている女子学生を他校の男子に斡旋していた。それを君が校内放送で暴露した事件……高等部でも少し話題になったよ。」
「……そうでしたか。」
「あぁ、何故あんな大々的な方法を取ったのか君に直接聞きたかったんだ。」
「……僕は何の後ろ盾も無く、碌な信用も無い人間です。1学期から勉強や部活動は頑張っていましたが、それでも信用されているかどうかはわかりませんでした。そんな僕が演劇部の部長で人気者の荻野相手に何の準備もなく挑んでも、どうこう出来る訳がありませんでしたから……」
「ふむ……だが、教師に頼る事くらいは出来たんじゃないのか?」
「それも無理です。もし、事なかれ主義の教師に相談してしまった場合、有耶無耶にされる可能性がありました。事実、放送中に乗り込んで来た教師の中には秀知院の評判を気にして学内で処理するべきだと言った人もいました。」
「なるほど……先程何の後ろ盾もないと言ったな、それは本当か?」
「え? はい、本当です。」
「ふむ……」
(石上は龍珠を後ろ盾と認識していない? あの龍珠が誰かの為に自ら動くなんて事があるとは……)
「因みに……君は龍珠桃という女子生徒を知っているか?」
「あ、はい。龍珠先輩は、よく遊んでもらってるゲーム友達です。」
「ゲーム……友達か。」
(そうか、友達か……あの他人を寄せ付けなかった龍珠にこんな友人が居たとは……)
「龍珠先輩が何か?」
「あぁいや、気にしないでくれ。では最後に1つだけ聞かせてくれ……荻野コウを断罪した理由を。」
「……理由?」
「あぁ……所詮は他人のする事だと、目を背ける事も君には出来た筈だ。なのに君はそれをせず、自身が信用を得る努力をし、証拠を集め、荻野を罰する策を練った……どうしてそこまでしたのかと思ってな。」
「……何も悪くない人が酷い目に遭って、悪い奴がヘラヘラ笑っていられるなんて……そんなのは違うと思ったからです。それに……」
お前はおかしくなんてない
次は負けちゃダメよ
「……それに?」
「……いえ、それだけです。」
(いつか……前みたいに信用される日が来たら、会長と四宮先輩には話してもいいかもしれないな。)
「そうか……話は以上だ、時間を取らせてすまなかったな。」
「いえ、気にしないで下さい。それでは……」
僕は席から立ち上がると生徒会室を後にする……折角の機会だから自分を売り込もうかと思ったけど、僕と会長はコレが初対面……良い返事は期待出来ないだろう。
「……」
生徒会室の扉を閉めて立ち尽くす……前回はほぼ毎日見た生徒会室の風景を……僕はこれからも見る事が出来るのだろうか……
〈生徒会室〉
「……2人共、もういいぞ。」
俺がそう声を掛けると、戸棚の影から2人の少女が出てきた。
「今のが中等部で有名だった石上くんですかぁ。」
「……それで、会長のお眼鏡には叶いましたか?」
「あぁ、理不尽を嫌い正義感もある……中等部の頃に助っ人で風紀委員に参加し、事務処理を任されていた様だから能力もある。それに中等部からの混院らしいしな……俺以外の外部から来た人間も、1人は必要と思っていた所だ。会計としてスカウトしようと思うが構わないか?」
「新メンバーですねぇ! 私達先輩がしっかり仕事を教えてあげましょう!」
「……会長の決めた事なら従いましょう。」
「うむ。また後日、彼を会計として招こう。」
「はい!」
「えぇ、わかりました……では私は用事があるので、今日はコレで。」
「あぁわかった、お疲れ。」
「かぐやさん、また明日ー。」
「はい、また明日。会長もあまり無理はなさらないようにして下さいね?」
「あぁ、善処しよう。」
「……では。」ガチャッ、パタン
………
「……早坂。」
「はい、かぐや様。如何なさいますか?」
「石上優という男子生徒について……可能な限り調べなさい。」
「……かしこまりました。」