石上優はやり直す   作:石神

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奉心祭は終わらない後、中等部3学期の話です(゚ω゚)


石上優は受からせたい(番外編)

3学期! およそ2週間の冬休み期間を経て、中等部生活も残り3ヶ月を切った。3月の春休み期間を除けば、残りの中等部在籍期間は約2ヶ月。1月末に控えた内部進学試験を除けば大したイベントもない為、3年生は特に気負う事もなく秀知院高等部へと進む事になる。それはこの男、石上優とて例外ではなかった。去年の4月に舞い戻ってからおよそ10ヶ月……様々なイベントや問題を時に突破し、時に解決して来た男、石上優。その男が、今まさに……

 

「まさか……ここまでだったなんて。」

 

絶望に打ちひしがれていた!

 

……時は3日前まで遡る。

 


 

〈風紀委員室〉

 

冬休みも終わり1週間が経った頃、僕はいつものように風紀委員室で事務処理に精を出していた。教室には伊井野、大仏、僕の3人しか居らず、他のメンバーは風邪や家の用事などで欠席していた。本日分の事務処理が終わろうとした時、突如扉が開かれた。

 

「石上君! 助けて!!」バターンッ

 

「お、大友!?」

 

勢い良く教室に飛び込んで来たのは、同じクラスの大友京子だった。ハァハァと息を荒くする大友を、伊井野や大仏も神妙な顔で見つめている。

 

「どうしたんだよ、そんなに慌てて……」

 

とりあえず、ここまで慌てる理由を聞き出すと……

 

「勉強教えて!!」

 

「「「は?」」」

 

大友を除く3人の声が重なった。

 

………

 

大友から詳しい話を聞くと……どうやら今月末にある内部進学試験で落ちる可能性が高いと教師に言われ、慌ててここまで来たらしい。

 

「勉強を教えるのはいいけど、僕で良いのか?」

 

「石上君が友達の中で一番頭良いからお願い!」

 

「大友がそれで良いなら構わないけど……」

 

チラリと伊井野に視線を向ける。

 

「別に……勉強なら此処でして構わないわよ。」

 

「良いのか?」

 

「遊ぶ訳じゃないし、内部進学試験に向けてなら真面目に取り組むでしょ。」

 

「私もミコちゃんが許可するなら良いと思う。」

 

「ありがとう伊井野ちゃん!」

 

「い、伊井野ちゃん!?」

 

「あ、ゴメン、嫌だった?」

 

「べ、別に構いませんが……」

 

「おさちゃんもありがとね!」

 

「お、おさちゃん……」

 

……伊井野と大仏ってこういうグイグイ来る系女子苦手そうだからなぁ……

 

「先ずは、どれくらいの学力か見せてくれるか? 2学期の期末テストとかあれば分かり易いけど。」

 

「うん、先生に持って来るように言われたから持ってるよ!……ハイ。」

 

大友は鞄から5枚の紙を取り出し机に広げた。

 

「こ、これは……」

 

「赤点ギリギリの奴ばっかり……」

 

「辛うじて社会だけはそこそこ取れてるな……」

 

内部進学試験! 国語、社会、数学、理科、英語の5教科に加え、特別措置科目として保健体育、技術、家庭科の3科目から1つを選び、その科目で獲得した点数の半分を5教科の合計得点に加える事が出来る。秀知院高等部への進学率を上げる為の特別措置である。

 

「とりあえず、社会以外を重点的にやろう。大友は特別科目は何を選択してるんだ?」

 

「保健体育だよ。」

 

「じゃあ、とりあえずそれは後回しにしよう。」

 

「うん、後でちゃんと教えてね。」

 

「いや、保健体育に関しては僕よりも適任者がいる……伊井野、頼んだ。」

 

「は、はあっ!? なんで私が適任なのよ!?」

 

「いや、お前並大抵のムッツリじゃないだろ……どうせ保健体育も満点取ってるだろ?」

 

「言い方っ!! 女の子に言うセリフじゃないでしょ!! アンタが教えなさいよ!」

 

「女子に保健体育教えるってどんな状況だよ。」

 

「ま、まさか実技で教えるつもり……」

 

「僕は教えないって言ってるだろ!」

 

「大友さん、とりあえず数学から始めようか?」

 

「はーい。」

 

そして、3日が経過した……

 

「……採点終わったわよ。」

 

「石上ー、こっちも採点終わったよ。」

 

「あぁ、僕ももう終わる。」

 

大友が風紀委員の教室を訪ねた日から、放課後は大友の勉強を見るようになった。伊井野と大仏も乗りかかった船と言って協力してくれている。

 

「……採点終わったぞ。」

 

机の上に擬似テストとして作った問題集を並べる。

 

「コレは……」

 

「ちょっと……」

 

「まさか……ここまで(馬鹿)だったなんて。」

 

「ど、どうしよう……私、進学出来ないの?」

 

「いや、まだ出来ないと決まった訳じゃない。試験まで残り10日はあるし……」

 

「ねぇ石上、アンタ3年になって急に成績上がったわよね?何か特別な勉強でもしたんじゃないの?」

 

「あ、そっか。石上の勉強法を大友さんに教えてあげれば……」

 

「石上君、お願い教えて!」

 

「……別に特別な事はしてないよ。やってる事自体は伊井野と変わらないかもしれない。」

 

「それでもいいからっ!」

 

お願いと懇願する大友に根負けして話す。

 

「……何も無い部屋に勉強道具だけ持って入った後、鍵を掛けて5時間勉強してただけだよ。」

 

「……中々やるわね。」

 

「石上……それは特別じゃないかもしれないけど、特異ではあると思うよ? ほら……大友さんも衝撃受けてるし。」

 

「5時間……5時……間……」

 

まぁ気持ちはわかる。僕も四宮先輩に言われた時は、かなり面食らった訳だし……

 

「だけど、時間がないからしょうがない。そのレベルで大友には頑張ってもらうしか……」

 

「う、うん! 私頑張るよ!」

 

「私達も協力します。」

 

「どうせなら、最後まで面倒見ないとね。」

 

「わぁーん、皆ありがとうー!」

 

そして……

 

「伊井野ちゃんココ教えて!」

 

「……」

(此処、中学2年の問題だ……)

 

10日間の……

 

「大友さん、言語を英語で?」

 

「ラングアゲー!」

 

「……それはlanguage(ランゲージ)と読むんです。」

 

地獄の様な……

 

「大友、この時の作者の気持ちは?」

 

「うーん、売れたらいいなぁとか?」

 

「いや、そういう事じゃなくて……」

 

月日が流れた……

 


 

そして、内部進学試験結果発表日。結果が貼り出される掲示板の前には、秀知院学園高等部への進学を希望する生徒で溢れていた。それもその筈……秀知院はエスカレーター式の為、現中等部3年生の殆どがそのまま高等部への進学を希望していた。更に! 9月に起こった荻野事件の際に石上が放ったあの恥ずかしいセリフと風紀委員2人との関係が此処に来て影響を与えていた。秀知院という閉鎖空間に突如降って湧いた恋愛的イベント! 他人の恋愛イベントは直接関わるより外から眺めているのが一番である。男女問わずあの恥ずかしいセリフを平気で言える石上優という男子と、そのセリフを向けられた風紀委員の女子2人の行く末が気になって仕方なかった。噂では、この3人の結末を見る為に外部進学を希望していた生徒も内部進学に進路を変更した……なんて話もある程である。

 

内部進学への合格が決まった事を確認した生徒達は、掲示板の前から次々と去って行く……その中で友人と抱き合い、喜びを分かち合う大友の姿を石上は確認した。

 

「やった、受かったよ! コレでみんなとまだ一緒にいられるよ!!」

 

「もー京子のバカ、心配したんだからね!」

 

「ホントだよねー。」

 

「うあぁん、ごめんねー!」

 

「……良かったな大友。」

 

「うん! 石上君も伊井野ちゃんもおさちゃんもありがとう! みんなのおかげだよ!」

 

「よかったです。私も安心しました。」

 

「大友さん、受かって良かったね。」

 

「あぁ……ホッとしたよ。」

 

友人達と和気藹々とはしゃぎながら去って行く大友を眺める3人は……

 

(はぁ、良かった……でも……)

 

(もう大友さんに勉強教えるのは……)

 

(勘弁してほしいな……)

 

ゴリゴリに精神を削られていたのであった。

 

 

 

 


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