石上優はやり直す   作:石神

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秀知院VIPの1人、警視庁警視総監の息子で剣道部部長の小島の名前がわからないので今作では小島剣(コジマケン)という設定にします。
小島好きな人はすいません。(-_-)


龍珠桃は告げられない

目の前の男子生徒の話がしたいという言葉を了承すると、彼は腕を組み話し始めた。

 

「剣道部所属、小島剣だ。」

 

小島剣……その名前と剣道部所属と聞き、最近噂として流れて来た話を思い出した。入学したばかりの1年生が剣道部の部長から一本取り、そのまま部長の地位に就いたらしい。その生徒は警視総監の息子で、秀知院で敵対してはいけない人物として他の生徒から恐れられているという……そんな人が僕になんの用があるって言うんだ?

 


 

石上にメッセージを送り教室を出る。春が過ぎ夏を迎えると、あの後輩と出会ってから1年の時間が経った事になる。出会ってからちょくちょく喫茶店や高等部に呼び出してゲームの相手をさせているが、後輩の態度が変わった事は唯の一度も無い。広域暴力団龍珠組組長の愛娘と、周囲から距離を置かれ遠巻きに眺められる事に慣れた私にゲーム友達が出来るなんて思ってもいなかった。石上の普段の態度を見るに、私が龍珠組の娘と言う事に気付いていないみたいだ。秀知院に籍を置く人間なら、普通は龍珠と聞けば気付きそうなモノだけど……私もバレていないなら構わないと、自分から話す事はしなかった。龍珠組組長の娘の龍珠桃としてでは無く、龍珠桃という1人の人間として接してくれる人間は希少だ。だから、あの場面に出会して……もう終わりなんだと思った。

 


 

「龍珠桃と関わるのはやめておけ。」

 

小島剣と名乗ったその男は、いきなりそんな言葉を口走った。

 

「は?なんで……」

 

そんな事を言われなきゃいけないんだと、反論しようとした所を小島の言葉に遮られる。

 

「中等部の頃から龍珠とよく会っていたそうだな? お前は龍珠について何も知らないのか?」

 

「……そんな訳ないだろ。龍珠先輩は僕の一個上の先輩で、天文部所属の……」

 

「俺が言っているのはそんな事じゃない。龍珠はあの広域暴力団龍珠組組長の娘だ。荻野の悪事を暴く正義感のある人間が付き合うべきじゃない。」

 

「龍珠先輩が……暴力団?」

 

「なんだ、本当に知らなかったのか? 龍珠と聞けば真っ先に思い浮かぶと思うが……」

 

………

 

「ッ!」サッ

 

石上と小島が話してる現場を目撃した私は、隠れて2人の会話に耳を傾ける……忘れていた、小島も今年から高等部に上がって来ていたんだった。小島とは中等部の頃から何かと衝突する事が続いていた。警視総監の息子と暴力団組長の娘……どう見ても水と油にしかならないこの関係は、私が高等部に上がり中等部の小島と別れた事で一旦は終わりの形となった。まさか、小島のクソ野郎がこんな回りくどい嫌がらせをしてくるとは思わなかったけど……

 

「……ッ」

 

不意に昔の記憶が蘇った。

 

龍珠ちゃんのお父さんは悪い人だから、もう遊んじゃダメなんだって……

 

……え!? 龍珠さん家ヤクザなの!? ご、ごめんっ! 私もう行くねっ……!

 

昔から親がヤクザだと知られると、誰も彼もが私から離れて行った。それが小等部、中等部と続く内に……もう他人に過度な期待を持たない様になっていた。高等部に入っても、私を生徒会に誘って来る様な奇特な先輩や、同じ生徒会の人間を除き、周囲の人間は変わらず距離を取り続けた。

 

だからゲーム友達である石上には、私からその秘密をバラす気にはなれなかった。中庭で、喫茶店で、木陰で、ベンチで、ゲーム片手に遊んだ記憶が石上に秘密を告げる事を邪魔してきたから……

 

「……ッ」

 

小島の言葉に、石上がどう答えるのか……聞きたく無いとその場を離れたくなったけど、その気持ちに反して体は動いてはくれない……私は只立ち尽くす事しか出来なかった。


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