初体験! 言わずと知れた恋のABCにおいて、Cに該当する行為を表す言葉である。高校生にとって経験済みというのは一種のステータスであり、同性に対しては格上として接する事が出来、異性に対しては経験済みという事実から余裕を見せ、大人の振る舞いをする事が可能になる魅惑の肩書きである。その事実を除いても、高校生と性の話題は切っても切れない関係。それは秀知院学園が誇る生徒会役員も例外ではないようで……
「すいません、遅れました。」ガチャッ
「おう、別にそこまで仕事は溜まってないが……何かあったのか?」
「いえ、ちょっと風紀委員の友人に頼まれてデータ処理の手伝いを……」
「あぁ、そういえば中等部の頃から手伝っていたらしいな……殊勝な事だ。」
「毎年風紀委員は特に人手不足らしいですからね。石上君、そういう理由なら問題無いわよ。」
「ありがとうございます……アレ? どうしたんですかこの本?」
「あぁ、校長が生徒から没収したらしいが……」
「こんにちはー!」ガチャッ
「遅いわよ藤原さん。」
「ごめんなさーい……ん? なんですかこの本?」
「校長からだ……教育上良くない本だから、生徒会で処分しとけだとさ。」
「教育上良くない本?…………ひゃあああっ!? み、乱れ……いや、淫れてます! この国は淫れてますぅっ!」アワアワ
「……」
しゃおらーー! ち●こぉぉ!
「……」
(人ってここまで変わるもんなのか……)
石上は時間の残酷さを再確認した。
「えーと、初体験はいつだったアンケート。高校生までに34%……ですか。」
「嘘です! そんな高い筈ありません!だ、だって、それならこの中に最低1人はいる計算に!?」
「少なくとも私は経験済みですから、アンケート結果は正しいんじゃないですか?」
「ええええええええっ!!?」
「」
「会長!? 大丈夫ですか!?」
「……高校生にもなれば普通経験済みなのでは? 皆さん随分愛のない環境で育ったんですね?」
四宮も昔は初体験をキスの事だと思ってて……
「……」
(会長が昔言ってたのは、多分この事だな。)
石上は察した。
「……や、やっぱり、私も彼氏とか作ったほうがいいのかな……でも、そんなのお父様は絶対許してくれないし……」
「……そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。」
「え、石上くん?」
「別に高校の内に彼氏を作らなきゃいけない訳じゃないんです……時間が掛かってもいいから、ちゃんと好きな人と結ばれるべきですよ。」
「石上……」
「石上くん……でも本には、高校生にもなって未経験なんて恥ずかしいとか書いてますし……」
「……体だけ繋がっても虚しいだけですよ。」
過去に誰かと体だけの関係があった……みたいな言い方だが、石上は前回のクリスマスパーティー後に体験した、かつての想い人との苦い記憶を思い出しながら答えただけである。
「「っ!!?」」
しかし、結果的に2名の未経験者を勘違いさせてしまう。
(え、石上お前そっち側なのっ!? マジで!? 後輩に先を越されていたなんて……)
あらあら、石上君は経験済みなのに会長は未経験なんですか……
お可愛いこと……
「……ッ」
(コレはキツイっ……)
「い、石上くんは……その、経験が?」
「はは……さっきのは、なんでもないんです……忘れて下さい。」フッ
本当になんでもない。
「ひゃぁぁ……!」
未経験者(童貞)が未経験者(処女)を意図せず騙した瞬間である。
「い、石上、その……な、やはり学生という立場上、ある程度節度を持った付き合い方をするべきだと……思うぞ?」
白銀、なけなしの知識と常識で当たり障りのない発言をする。
「はい、心得てます。それに昔の事ですから。」
嘘ではない。
「グハッ……」ガクッ
(む、昔っ……石上は既に、俺よりも上のステージにいたなんて!)
未経験者(童貞)が未経験者(モンスター童貞)を意図せず騙した瞬間である。
「は、はわぁっ……」
(す、凄い1年生が入って来ちゃいました! このままじゃ、ラブ探偵としてのプライドが……)
「くぅっ……!」
(石上……俺なんかじゃ想像も出来ない様な経験を既にしてるなんて……!)
そう……石上優、この男こそ童貞でありながら自身の紛らわしい発言と周囲の勘違いにより経験済みと誤解された存在、エンペラー童貞なのである。
「……?」
(どうして会長と藤原さんは項垂れているのかしら?)
「それと四宮先輩、言っておきますけど初体験はキスの事じゃないですからね?」
「……え?」
16分後……
「だ、だって! そういう事は結婚してからって法律で!」
「か、かぐやさん、落ち着いて……」
「しかし石上、よく四宮が初体験の事をキスと勘違いしてるとわかったな?」
「……マキ先輩も同じ勘違いをしてたんです。」
「なるほど……」
「それより……何言ってたかは聞こえませんでしたけど、16分も性知識話せる藤原先輩って凄くないですか?」
「ぶはっ! た、確かにな。」プルプル
「〜〜〜っ!!? い、石上くんっ!!」