とある昼休み、多忙な生徒会役員は生徒会室で食事を摂りつつ仕事をしている事がある。今日は生徒会長と会計の2人が生徒会室に控えていた。
「石上、そういえばなんだが……先日のダブルデートの件で、柏木とは結局どうなったんだ?」ゴクッ
「どうなったか……そうですね、まぁ何かあれば僕が責任を取る事で落ち着きましたよ。」
「ごふぅっ!? げほげほっ!!?」
(せ、責任っ!? どう言う意味だ!?)
「会長、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ気にするな……少し咽せただけだ。」
(まさか、柏木を苦手にしていたのは責任の有無の話があったから? えっ? じゃあ石上と柏木は過去にそういう関係が? イヤイヤ、流石に考え過ぎだろう……)
考え過ぎである。
「まぁ、元を辿れば僕が蒔いた種が原因なんで仕方ないんですけどね……」
「……そうなのか。」
(石上が蒔いた種だったーっ!! 大丈夫かっ!? 蒔いた種ってメチャクチャ意味深に聞こえるぞ!? もしかしてそういう意味かっ!?)
そういう意味ではない。
「だけど……いざとなった時の覚悟は疾うに出来ていますから。」
「うむ。」
(石上覚悟決めてたあああ!! マジで大丈夫かっ!? 高1で子持ちとか中々ハードな人生になるぞ!? 仮に4月頃にそういう関係があったとしたら……)
白銀は無意味な計算をし始めた。
「失礼します。」コンコン、ガチャッ
「あれ?翼先輩……どうしたんですか?」
「田沼か、珍しいな。」
「実は、2人に相談がありまして……」
「「相談?」」
「実は、恋愛百戦錬磨と呼び声名高い会長と友達の石上君に相談があって……」
「い、いいだろう……生徒の悩みを解決するのも生徒会の務めだからな。」
(恋愛百戦錬磨って何だよ……それ俺じゃないからっ! 石上の方だから!)
「僕で良かったら……」
(会長、いつの間にそんな呼び名で呼ばれる様になったんだろ……)
「それで、相談内容とは?」
「はい、実は先週からその……こ、恋人が出来たんです。マキちゃんって言うんですけど……」
「ほう四条か、それはめでたいな。」
「僕からも改めて言わせて下さい、おめでとうございます。」
「2人共、ありがとう。それでお互い恋人同士になったので、距離も以前よりは近くはなったと思ったんですけど……最近、本当に好かれているか自信が持てなくなってきて……」
「えぇ……」
「何かあったのか?」
「はい、ついこの前の事なんですけど……」
………
数日前……
その日の僕はある覚悟をしていました。それは、帰り道で手を繋いで帰るという覚悟です。水族館で手を繋いで以来、中々そういう機会に恵まれなかったので、今日こそは手を繋いで帰ろうと臨みました。
「……っ!」ギュッ
「つ、翼君!?」ビクッ
勇気を出して良かった、そう思いました。でも……
「ごめんっ、翼君……」スッ
………
「手を離されたんです!!」
「なるほど。」
「……」
「しかも、それから手を握ろうとしても避けられるし……実は好かれていないんじゃないかと、不安に思えてきて……」
「握る力が強くて痛かったとかは?」
「そこまで強く握ってませんでしたよ。」
「……それ、握ってからどれくらいの時間が経ちました?」
「えーと、5分くらいかな?」
「なるほど……多分ですけど、マキ先輩は手汗を気にしたんじゃないですか?」
「手汗?」
「ぼ、僕の手汗が原因って事っ!?」
「いいえ、逆です……マキ先輩が気にしたのは、自分の手汗なんです。」
「自分の……」
「手汗……?」
「先程翼先輩も気にしてましたけど、女子は男子以上にそういった事に敏感なんです。汚いとか気持ち悪いって思われたらどうしようと不安になったり、単純に恥ずかしかったり……それが最近出来たばかりの恋人なら尚更です。」
「……なるほどな。」
「じ、じゃあ僕はどうすれば……マキちゃんに気にしないから大丈夫とか言えばいいの?」
「直接言うのはダメです、マキ先輩に余計なダメージが行きます。」
「そんな……」
「ならばどうする?」
「そんなの、向こうが手を離そうとしても離さなきゃ良いじゃないですか! そういう時は行動で示すんですよ。」
「「な、なるほど!」」
「じ、じゃあコレも何か理由がっ!?」
………
昨日、マキちゃんに昼御飯を一緒に食べようと誘ったんです。でも……
「マキちゃん、一緒にご飯食べない?」
「き、今日はちょっと……ごめん!」ダッ
………
「逃げられたんです! なんでっ!?」
「友人と食べる約束があったとかじゃないのか?」
「確かにマキちゃんは週一で友達とお昼食べてますけど、昨日はその日じゃなかったんです。」
「む、違うか……」
「翼先輩、昼食に誘った時……その場にはマキ先輩だけでしたか?」
「ん……いや、授業終わってすぐだったからクラスの子も大勢居たよ。」
「だったら簡単ですね。そんな大勢の前で誘わないでよ、恥ずかしいでしょって事です。」
「「そうなのっ!?」」
「この場合は予め了承を得ておき、人目を避け、人の居ない場所で落ち合うのがセオリーです。」
「そんな裏取引みたいな待ち合わせすんの!?」
「じ、じゃあコレはっ!?」
………
その日の放課後……
そういう事があって、不安になった僕はマキちゃんに聞いたんです……
「マキちゃん……僕の事好き?」
「ふ、ふんっ……」プイッ
………
「顔背けて答えてくれなかったんです! これはどういうっ……」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ! マキ先輩はねぇ! ツンデレなんですよ! 言いたい事と逆の事言っちゃう病気なんです! それ絶対帰った後、泣きながら後悔してる奴ですよ!」
「そ、そんな、じゃあ僕はこれからマキちゃんにどう接すれば……」
「……今まで通りで良いと思いますよ。多分昔からでしょ、マキ先輩のそういう所は。それでも変わらず側に居た優しい翼先輩だから……マキ先輩も好きになったんだと思いますよ? 只……言葉の裏を読む努力はした方が良いですね。」
「そっか……うん、僕……自信が持てたよ。男らしく行動で示せる様に、マキちゃんの言葉の裏を読めるように頑張ってみるよ!」
「その意気です。」
「石上君、会長、ありがとうございました!」バタンッ
「……昼休みも終わるな、俺達も戻るか。」
「そうですね。では……」
「あぁ、また放課後に。」ガチャッ、パタン
(俺……1つもアドバイス出来なかったな。)