石上優はやり直す   作:石神

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偶には雨に感謝したい

6月も終わりに近付いて来たが……降り続ける雨は変わる事無く、ジメジメとした鬱陶しい空気を作り続けていた。しかし、学生という立場においてはその鬱陶しさが消え去るイベントが存在する……それが、相合傘イベントである。

 

〈昇降口〉

 

私はザーザーと音を立てて地面に降り注ぐ雨を……只々眺めていた。失敗した……今日は天気予報を見忘れて家を出てしまった。同じ風紀委員である友人の傘に入れてもらいたいけれど、今日に限って用事があるそうで、授業が終わると直ぐに帰ってしまった……職員室に置いてある貸し出し用の傘は、風紀委員の仕事が終わった頃には既に無くなっていた。最悪、タクシーを呼ぶしかないのかなと思い始めた頃……

 

「ん? 大仏、今帰りか?」

 

「あ、石上。うん、そうなの。でも傘ないからどうしようか考えてた所。」

 

「傘ないのか……じゃあ入ってくか?」

 

「……いいの?」

 

「あぁ、濡れないように気をつけろよ。」

 

「……うん、ありがとう。」

(もう、そうするのが当たり前みたいな顔して……今が薄暗くて良かった。)

 

私は石上から顔を隠す様に俯いて隣を歩く。

 

「……っ!」グイッ

 

「ん、どうした大仏?」

 

「ぬ、濡れたら困るからっ……」

 

「あぁ、そういう事。」

 

「い、石上は最近どう? 生徒会とか……」

 

「そーだなぁ……大変だけど、楽しいよ。」

 

「そっか、それなら良かったかな……あっ、マスメディア部の記事読んだよ。秀知院が誇る生徒会の新メンバーに迫るって奴。」

 

「あぁ、アレか……」

(ナマモノ先輩達の取材受けたのに、後でまた別の人から取材受けたんだよな……なんかダメだったのかな?)

 

ダメだったのはかれん達の取材内容である。

 

「あーいうの初めてで……変に緊張したよ。」

 

緊張したのは言うまでもなく、かれん達の取材ではなく別働隊の取材の事である。

 

「ふふ、でも書いてる事は立派だったよ。」

 

「えっ、何て書いてあったんだ?」

 

「取材受けたの自分でしょ? 何で聞くのよ。」

 

「いや、あんまり何言ったか覚えてなくて……」

 

「ふーん……別に変な事は書いてなかったよ? 白銀会長や四宮副会長の負担を少しでも減らしてフォローしたい……みたいな。」

 

「それなら安心したよ。」

 

「ふふ、何それ。」

(今日くらいは雨に感謝しなきゃね。)

 

1つの傘を分け合う男女を祝福する様に、降り注ぐ雨音は静寂を奏でていた。

 

………

 

一方その頃、例の2人は……

 

「見たんじゃないですか? 天気予報……」

 

「……っ!」ダラダラッ

 

なんとも対称的な絵面だった。

 


 

〈四宮かぐやを見舞いたい〉

 

7月某日……

 

「……四宮先輩が風邪?」

 

「あぁ、昨日の大雨で体調を崩した様だ。四宮の家にプリントを届けなければいけないんだが……」

 

「私! 私が行きます!!」

 

「……藤原書記が?」

 

「風邪引いた時のかぐやさんて……すっごく! 甘えん坊でメチャクチャ可愛いんですよ! だから私が行きたいです!」

 

「……ッ!?」

(甘えん坊!? メチャクチャ可愛い!?)

 

「それだけはやめてあげて下さい、藤原先輩が見舞うとか絶対悪化するじゃないですか。」

 

「しませんよっ!? 石上くんは私をなんだと思ってるんですかっ!?」

 

「確かにそうだな、四宮の家には俺が行こう。」

 

「会長までっ!?……だったら、公平にゲームで決めましょう!」ガサゴソ

 

「……ゲームだと?」

 

「はい、神経衰弱で決めましょう。異論はありませんね?」

 

「……僕はいいですよ。」

 

「ジョーカーはなし、イカサマは露見した時点でー5ポイントですからね!」

 

「うむ……」

 

「……」

 

「順番はじゃんけんで決めます。」ポン

 

「うむ……」

 

「……」

 

「では会長からスタートで……」

 

「……始める前に、僕から1ついいですか?」

 

「なんですか、石上くん?」

 

「イカサマしたら罰ゲーム有りにしませんか?」

 

「……いいでしょう! 但し、常識外れなのはダメですからねっ!」

 

「あぁ、わかった。」

 

「それでいいですよ。」

 

「じゃあ……スタートです!」

 

「ドーンだ藤原書記ィ!!」

 

「な、な、な、なんの話ですか会長っ!?」

 

「いや、しらばっくれるなよ。これイカサマトランプだろうがっ!!石上も気づいてたんだろ?」

 

「えぇ、だからこその罰ゲーム有りルールにしましたし……」

 

「ふ、2人共! 私を嵌めましたね!? ずっこい! ずっこいです!!」バンバンッ

 

「いや、先にズルしようとしたの藤原だろ……」

 

「人としての品性を疑います。もう少し秀知院の生徒という自覚を持った方が良いんじゃないですか? そんなんだから、藤原先輩はいつまで経っても藤原先輩なんですよ。」

 

「こんなんじゃなくても、ウチは先祖代々藤原ですよっ!?」

 

「まぁ何はともあれ、罰ゲームです。このプラカードを首から提げて校内一周して下さい。」

 

〈私は由緒ある生徒会メンバーでありながら、イカサマに手を染めた卑しい人間です〉

 

「」

 

「おぉぅ……」

(石上、容赦ないな……)

 

「僕はこれから藤原先輩が罰ゲームを完遂するか見届けるので、プリントは会長が持って行ってあげて下さい。」

 

「お、おぅ……」

 

「……四宮先輩、大雨の中誰かを待ってたみたいですよ? 傘を差して立ち尽くしてる所を偶々見ましたけど……」

 

「っ! そうか、石上……あとは任せた。」

 

「はい、四宮先輩にお大事にと伝えて下さい。」

 

「あぁ、必ず伝えよう。」ダッ

 

「……じゃあ行きましょうか、藤原先輩。」

 

「ハイ……」

 

………

 

〈校舎内〉

 

「うえぇぇっ……どぼぢでえぇぇ……!」

 

「走っちゃダメですからね。残ってる生徒にその卑しい姿を見てもらわないと。」

 

この事が原因で、藤原は校舎内に残っていた一部の生徒の間でイカサマをする卑しい人間という噂が広まったとか広まらなかったとか……

 


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