石上優はやり直す   作:石神

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それぞれの夏休み②

〈早坂愛は落としたい〉

 

「……」ポチポチ

 

〈会長、おはようございます。もし、お暇なのでしたら……石上君から貰った無料券で、珈琲でも飲みに行きませんか?〉

 

「……ッ」ポチポチ

 

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「……あーん! もうっ!! どうして会長は、折角の夏休みに私を誘いに来ないのっ!?」

 

「……自分から誘えばよろしいのでは?」

 

「ふざけた事を言わないで! それじゃまるで、私が会長と一緒に出掛けたいみたいじゃない!」

 

「先程から10回は、メールを送ろうとしては消しを繰り返している人の言葉とは思えませんね。」

 

夏休み! 凡そ40日間の休暇をどの様に過ごすかは人それぞれ。ある者はバイトに精を出し、またある者は友人と親交を深める……そして、選ばれた一部の人間だけが異性と遊びに行くというビッグイベントを体験する事が出来るのである。

 

「だ、だって……こういう時に誘うのは、男子の務めでしょう!?」

 

「はぁ、かぐや様ともあろうものが情けない事を。折角会計君が気を利かせて無料券までくれたっていうのに、当の本人がこの体たらくでは……」

 

「体たらくっ!? 石上君の素行調査も満足に遂行出来なかった癖に言ってくれるじゃない!!」

 

「あ、あれはっ……」

 

「普段は偉そうな事言ってる癖に、いざその時になったら年下の男の子1人満足に調査出来ないんでしょう!? 大体、早坂も恋愛事でアドバイス出来る程の経験があるの!?」

 

「かぐや様も言ってくれますね……」イラッ

 

「ふん! 口ではどうとでも言えますからね! 悔しかったら、石上君を落とすくらいして証明してみなさいよ!!」

 

「……ッ!」カチン

 

「……」

 

「……かぐや様がそこまで言うなら、やってやりますよっ。」ゴゴゴッ

 

「相手はあの石上君よ? 精々、藤原さんみたいに泣かされないよう気をつける事ね?」ゴゴゴッ

 

夏休みに入り暦は既に8月。その間、白銀から誘いのメールが来ない四宮かぐやの苛立ちと、普段から主人の我儘に振り回されている早坂愛のストレスがここに来て同時に爆発……何の関係も無い石上が巻き込まれる事態へと発展していた。

 

………

 

「こんな所ですね……」

 

対石上ファッションVer.1

 

伊達眼鏡➕ショートパンツ

 

「……普段の変装とは違うのね。」

 

「会計君とは学校で接点もありませんからVer.2(フィリス女学院ハーサカVer)でも問題ないとは思いますが、あぁいったタイプの男子は清楚な眼鏡っ娘を好む傾向にありますので。」

 

「なるほどね……それで、どうやって接点を持つ気? 今は夏休みよ?」

 

「会計君の行動パターン(休日)も既に解析済みです。今日は新作ゲームの発売日、馴染みのゲームショップに来店する可能性87%です。まぁ、見てて下さい。」

 


 

〈ゲームショップ〉

 

「んー? お、あったあった。」

 

石上は棚に陳列された物の中から、目当てである新作ゲームに手を伸ばした。

 

「あっ……ご、ごめんなさい!」ピタッ

 

その伸ばした手に重なる様に華奢な手が触れる。

 

「いえ、こちらこそすいませ……ん?」

(あれ? この人……)

 

「君もこのゲーム好きなの?」

 

「え? はぁ、まぁそうですね。」

 

「実は私もなんだー。私、同じ趣味の人って周りに居なくて……良かったら少し話さない? 丁度このお店ゲームブースもあるし、そこでどう?」

 

「……えぇ、構いませんよ。」

 

「……」コソコソ

(早坂、中々やるわね……)

 

男女間に於いて、共通の趣味とは一種のブースト装置である。共通の趣味を持っているということは自分と少なからず似た考えを持っており、同じ趣味を楽しんでいるという事実が親しみやすさを感じさせるモノである。それが余り女子受けしない、ゲームという趣味ならば尚更……普通の男子ならば、この時点で落ちていただろう。しかし、早坂愛は知らない。石上優が持つ特異性を……

 

〈ゲームブース〉

 

「……」

(むぅ、仕切りがある所為で2人の声が聞こえないわね……)

 

「実は私、前作からこのシリーズやっててね……」

 

「……あの、間違ってたらすいません。早坂……先輩ですよね?」

 

「っ!!?」

(そんなっ……見破られたっ!?)

 

石上優の特異性、それは高校1年3月までの記憶を持つという点にある。当然その記憶の中には、白銀御行、四条眞妃、早坂愛と共にバッティングセンターで遊んだ記憶も刻まれている。他人を見る目に秀でた観察眼を持ち、友人の少ない石上が共に遊び、並んで牛丼を食した事のある人間を見間違える事など有り得ないのである。

 

「な、何の話?」

(そんな……有り得ないっ! 今まで誰にもバレた事の無い私の変装が見破られた!?)

 

何も知らない早坂の立場からすれば、その衝撃は如何程であろうか……

 

「まぁ、そうなりますよね……」

(マキ先輩は早坂先輩の事を四宮先輩のお付きと呼んでいた。つまり、四宮先輩の周囲を警戒する仕事もしてる可能性がある。多分、僕が信用出来る人間か見極める為に近付いたってトコかな。)

 

単にストレスの爆発した少女2人の争いに、巻き込まれただけである。

 

「そ、そうだっ……カラオケでも行かない?」

(このまま此処に居るのはマズイっ!暗闇で女子と2人になれば冷静さも失うはず……)

 

「……あれ?カラオケ嫌いなんじゃ?」

 

「うん? 私、そんな事言った?」

 

「んん?」

 

カラオケは死んでもいやです、行き先は私に決めさせて下さい。

 

ええっ、主張つよ……

 

早坂がカラオケで白銀のラップ(なまこの内臓)を聴き、トラウマを植え付けられるのは……3ヶ月後の話である。

 

「えーと……じゃあ、バッティングセンターはどうですか?」

 

「うん、いいよ。」

 

(早坂、何処に行くのかしら?)ピコン

「ん?……っ!?」

 


 

〈バッティングセンター〉

 

「あぁ、全然当たらないよぉ……」スカッ

 

「……」

(うわぁ、メッチャ猫被ってる……僕達と遊んだ時は、バカスカ飛ばしてたのに。)

 

記憶のある石上からすれば、そこそこ滑稽な光景だった。

 

「早坂先輩、僕には猫被んなくて良いっすよ。」

 

(……誤魔化すのは無理そうですね。)

「……はぁっ、どうしてわかったの?」

 

「……なんとなくです。」

 

「……そもそも私、会計君と学校で話した事無かったよね? なんで私の事知ってるの?」

 

「あー、何回か友達と話してる所を見た事があって……」

 

「ふぅん? その程度でよく私だってわかったね……なんで変装してるとかは?」

 

「さぁ、そこまでは……でも、何か事情があるって事くらいはわかりますよ。」

 

「そう……」

 

「まぁ、ストレスが溜まってるならバッティングセンターくらいは付き合いますよ。」

 

「そんな、別にストレスなんて……ん?」ピコン

 

〈早坂! 会長に喫茶店に誘われちゃったから行って来るわね!帰りは遅くなるかもしれないから、早坂もくだらない事してないでさっさと帰っていいわよ。〉

 

「……くだらない?一体誰の所為で、こんな事をしてるとっ……!」ワナワナ

 

「……早坂先輩?」

 

「もうーーーっ!!」チャリン、カキーン、カキーン

 

「……」

(うわぁ、絶対ストレス溜まってる……)

 

「ほらっ、会計君も!」

 

「あっ、はい……」ブンッ、スカッ

 

「コラー! 全然腰が入ってないよ!!」

 

「スパルタッ!?」

 

本日の勝敗、早坂&石上の敗北

結果的にかぐやに振り回されストレスが溜まり、そのストレス発散に巻き込まれた為。

 


 

〈喫茶店〉

 

「……美味しいですね、此処の珈琲。」

 

「あぁ、週一で通いたくなる味だな……混んでいない今くらいの時間に。」

(四宮、わかるな?)

 

「そうですね、私も暇な時は来ても良いかもしれません。」

(なるほど、そういう事ですね。)

 

「ハハハ……」

 

「フフフ……」

 

本日の勝敗、白銀&かぐやの勝利

週一で喫茶店で会う事が可能になった為。

 


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