〈藤原千花は臭くない〉
「ん?藤原書記、奇遇だな。」
「藤原先輩、どもっす。」
「あーっ! 会長と石上くん、久し振りにですね。2人で遊んでたんですか?」
「あぁ、石上がVR買ったって言うから少し触らせてもらってた。んでメシ食って来た所。」
「この辺美味しい店いっぱいですもんね!」
「……」スンスンッ
「もう遅い時間だ。藤原書記も寄り道しないで帰れよ。」
「はーい、それじゃっ……」
「藤原先輩、これあげます。」スッ
「」
「それじゃ、気を付けて帰って下さいね。」
「」
「……石上、さっき藤原書記に何か渡してたが、何を渡してたんだ?」
「あぁ、ニンニク臭が凄かったので息ケアをあげただけですよ。」
「鬼かお前は。」
………
「……ッ」プルプルッ
本日の勝敗、藤原の敗北
自身のエチケットに対する認識不足の為。
〈生徒会は集まりたい〉
約束の夏祭り当日、前回同様……四宮先輩は待ち合わせ場所に現れず、代わりに夏祭りには来れないという謝罪のメールが届いた。
「かぐやさん……」
「……会長、どうします?」
「とりあえず、石上達は此処で待っててくれ。」
「はい!」
「わかりました。」ドンッ、パーンッ
「チッ、始まったか……」
会長は空を見上げて口元を歪めると、自転車に飛び乗り去って行った。
「花火、始まっちゃいましたね……」
「きっと、大丈夫ですよ。」
(頼みますよ会長。)
石上優とて、全ての出来事に関わるつもりは無い。予めこうなるという記憶が有り、対処する事も決して難しくない夏祭り当日の四宮かぐやの件。しかし、石上優は動かない。何故なら……
「……ッ!」
(この件に関しては、会長……貴方が頑張る必要があるはずです。)
1人の男が1人の女の為に、懸命に頭脳と身体を動かして見せてくれた光景は……何よりも美しかったのだから。
(会長、また皆で花火を見ましょう!)
「うぅっ……かぐやさんの携帯に繋がりません。石上くん、どうすれば……」
「藤原先輩は、そのまま連絡が取れる様にしておいて下さい。僕はタクシーを拾って来ます。」
「わかりました!」
………
〈本日の花火大会は終了いたしました。ゴミや飲食物は……〉
「あぁっ、花火大会終わっちゃいました……」
「大丈夫です、きっと会長なら……」ピコン
〈見つけた〉
「っ! 会長からです! 見つけた……四宮先輩の事ですよっ!」
「良かったぁ! あっ、アレじゃないですか!?」
視線の先には手を繋いで走って来る男女……白銀御行と四宮かぐやである。
「かぐやさーん、こっちですー!」
「タクシー捕まえておきました!」
(……運転手、またあのカッコいい人だ。)
言うまでもなく、高円寺のJ鈴木である。
「全員乗り込め! 運転手さん! アクアラインで海ほたるの方へ!!」
「……」
(ホント、カッコ良いな会長は……四宮先輩の為に一生懸命行動して、頭脳をフル回転させて、この光景を……四宮先輩に見せる事が出来たんだから。)
助手席から見ていた僕だから……後部座席の3人を見渡す事が出来たから気付けた。窓に張り付く様にして、打ち上がった花火を眺める先輩達の中に……花火ではなく、隣の男に釘付けになっていたその少女の姿を。
「……」
(良かったですね、四宮先輩。)
タクシーの中から見た花火は、記憶の中で色褪せずに残り続けていた花火同様、最高の美しさで闇夜に咲き誇っていた。
〈龍珠桃は見せたい〉
生徒会の皆で花火を見た数日後、僕はいつもの喫茶店でゲームをしながら向かいに座る桃先輩と、お互いの夏休みをどう過ごしたかについて話していた。
「へぇ、夏祭りね……そんなにやってたのか。」
「まぁ、都内だけでも10以上の夏祭りがありましたからね。」
僕は会長達と行った花火大会の他にも……伊井野、大仏、小野寺と4人で行った事もあったし、現地でマキ先輩と翼先輩の夏祭りデートを目撃したり、1人で軽く見て回って帰るつもりの夏祭りで大友やナマ先輩達と出会う事もあった。
「意外だな……優は私と同じインドア派だと思ってたよ。」
「基本はインドア派ですよ。でも折角の夏祭りですからね。非日常感を味わいたいですし……それに、友達から誘われたら嬉しいじゃないですか。」
「ふぅん……そういえば、今日近くの神社で規模は小さいけど夏祭りやるらしいぞ。」
「へぇ、そうなんですか。」
「……」
「……?」
「あぁもうっ、わっかんねぇ奴だな! 行くかって聞いてんだよっ!」
「えぇっ、そうだったんですか!?」
「わかれバカッ!」
「いや、だって桃先輩とはいつもゲームでしか遊んでなかったですし……まさか、先輩に夏祭りを楽しむ感性があるとは思いませんでした。先輩なら夏祭りとかはゲーム内のバザーとかVRゲームで行った気になってるものかと……」
「ブッ飛ばすぞ。」
「さーせん。じゃあ行きましょうよ! 桃先輩とゲーム以外で遊ぶなんて初めてじゃないですか?」
「あぁ……そういえばそうか。」
「祭りは何時からですか?」
「夕方の6時〜8時までだな。花火はないけど、出店はそこそこ多いから楽しめると思うぞ。」
「おぉ、楽しみです。それまで此処で時間潰していきますか?」
「……いや、今から一旦帰って現地集合で。」
「わかりました。じゃあ6時に待ち合わせでいいですか?」
「おぅ……じゃ、私は先に帰るわ。」
「うっす、じゃあまた後で。」
〈某神社鳥居前〉
待ち合わせ時間10分前に神社に着いた。桃先輩は規模が小さいと言っていたけれど、まだ祭りが始まる前だというのに段々と人の数も増えて来て、神社周辺は賑やかな雰囲気に包まれていた。
「結構人が増えて来たな……」
(ちゃんと合流出来ると良いけど。)
「……よう。」
「……ん?」キョロキョロ
桃先輩の声に振り向くも、周囲にはそれらしい人物は見当たらない。
「ボケてんじゃねぇよ。」ゲシッ
「……え、えぇっ!?」
足蹴にした声の主に視線を向けると、そこにはいつもとは違う服装……浴衣に身を包んだ桃先輩が立っていた。
「……なんか言いたい事でもあんのか?」
「帽子被ってない!」
「……ッ!ッ!」ゲシッゲシッ
「あっ、すいません、冗談です……浴衣着て来たんですね。」
「……あぁ、母さんが折角だから着て行けって言うから。」ボソッ
「なんか……雰囲気変わって見えますね。」
「ふん、似合ってないって言いたいんだろ? 自分でもわかって……」
「いや、似合ってますよ。浴衣着てると、江戸時代の町娘って感じで可愛いですね。」
「んなっ!? チッ……くだらない事言ってんじゃねぇよ、行くぞ。」プイッ、スタスタ
「待って下さいよ、桃先輩。」
………
「結構色々ありますね。」
左右に並んだ出店を見ながら、感想を洩らす。
「あぁ、規模の小さい神社の祭りなんて、古き良きって言えば響きは良いけど……要は古臭くて雑多な店が多いって事だからな、数だけは多いんだよ。」
「すげぇ身も蓋も無い言い方……」
「お、射的か……折角だ、どっちが先に景品取れるか勝負しようぜ。」
「良いですよ……玩具屋次男坊の実力見せてやりますよ。」
「言ったな? じゃ、何か賭けるか……負けた奴は勝った奴の言う事をなんでも1つ聞くっていうのはどうだ?」
「そんな事言って良いんですか? 負けた後でやっぱり無しって言うのはダメですからね?」
「ふん、上等だ。」
………
「……っし! 景品ゲット!」
「……先輩の記録は5発で景品ゲットですね。じゃあ、僕は4発で落としてやりますよ。」
「ハッ、やれるもんならやってみろ!」
友達と夏祭りで射的勝負をする……充実した夏休みだな。今年はいろんな人と祭りに行ったり、祭りで出会ったり、遊んだり、前回の僕では到底考えられない過ごし方だ。
だから、油断していたのか……忘れていたとでも言えばいいのかはわからないけど、人との出会いはいつだって突然やってくるのだと僕は再認識した。
「……あっ、ごめんなさい。」ドンッ
射的の弾を込めている僕に、バランスを崩した少女が背中に軽く当たった。
「いえ、気にしな……」
「ごめんね、大丈夫?」
申し訳ないと、顔の前で両手を合わせて謝ってくるその人に……僕は返事をする事を忘れてしまった。
「……」
(つばめ先輩……)
かつての想い人がそこにいた。
この話で一時更新ストップします。
暫くお待ちください。m(_ _)m
多分誰かの√に入るみたいな感じになるとは思うけど……(ーー;)
あと、シリアスになりそうな感じですが別にそういう訳ではありません、シリアス嫌いやねん……