石上優はやり直す   作:石神

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伊井野ミコは突き止めたい

「嘘……」

(そ、そんな……石上が一位!?)

 

徐々に掲示板の前から人が消えて行く中、微動だにせず立ち竦む女子生徒がいた。

 

「な、なんで……」

(私と同じ490点!? あ、有り得ない!)

 

伊井野ミコ!テストの成績は常に一位! 中学1年の頃から……いや、それ以前からテストで一位を取り続けていた絶対王者は動揺していた!

 

(もし一問でも間違えてたら、私が二位で石上が一位!? ど、どうして急に石上がそんなっ……もし負けてたらっ!?)

「……ッ」

 

動揺どころの話ではなかった。この女、過呼吸起こす寸前レベルに精神的ダメージを受けている。何故なら、自分が風紀委員として違反者に強く出る事が出来るのは、ひとえに成績一位という武器が有ってのこと。もし一位から転落すれば、誰も自分の話に耳を傾けてくれないのではないか? 伊井野ミコは常にその不安を抱えていた。そして、自分の地位を脅かす存在が現れた……その男は数ヶ月前までは、貼り出される掲示板に名前が載る事など唯の一度もなかった存在。

 

「……!」ギュッ

 

伊井野ミコとて、別に石上を見下していた訳ではない。他人を気にしても結局は自分との闘いだと理解しているからだ。だが! 突如現れたダークホース的存在にすっかり冷静さを失っていた。

 

「私、あんまり勉強得意じゃないからさ、石上……今度勉強教えてよ。」

 

「あぁ、僕で良かったら教えるよ。」

 

「じゃあ今度連絡するね。」

 

「っ!?」

 

しかも! なんか自分が知らない間に親友が石上と親交を深めている事実に、失神寸前であった!

 

「うぅー……」ギュッ

(石上、私がアンタの本性暴いてやる!)

 

本性も何も……テスト結果は完全な実力制であり(石上には逆行というアドバンテージこそ有るが)秀知院でのカンニング行為は、即退学の為その可能性は皆無。伊井野ミコの思考の暴走は、テスト結果による動揺と親友が石上に取られるかもしれないという子供の様な危機感が綯い交ぜになった結果である。つまり、伊井野ミコの気持ちを無駄を省いて書き出すと……

 

一番は私のなの!

 

こばちゃん取らないで!

 

である。

 


 

「……ちゃん、ミコちゃん!」

 

「ハッ……え、こばちゃん!?」

 

「どうしたの? ボーっとして。」

 

「な、なんでもない……」

 

「伊井野、気分でも悪いのか?」

 

「……」

 

「……伊井野?」

 

「見てなさいよ石上! アンタの化けの皮剥いでやるんだから!!」

 

伊井野は言うだけ言うと踵を返し去っていった。

 

「どういう事だよ……」

 

「ミコちゃん、思い込み激しいトコあるから……」

 

………

 

「……!」ジーッ

(絶対おかしい! あれだけ頑張って勉強した私と同じなんて! 絶対何か秘密があるはず……)

 

「……」

(伊井野が滅茶苦茶見て来る……まいったなぁ、大仏は大仏で……)

 

まぁ、ミコちゃんも面食らって奇行に走ってるだけだから……その内やめると思うよ?

 

「はぁ……」

(とか言うし……ってあれ?)

 

周りを見渡すと先程まで隠れて(バレバレ)此方を伺っていた伊井野の姿がない。

 

「……諦めて帰ったか。」

 

帰り支度を済ませ、妙に凝った肩を回しながら廊下を歩く。

 

「あっ、石上。ミコちゃん見なかった?」

 

「さっきまで隠れてこっちを監視してたよ……」

 

「あれ? 今日は風紀委員の見回りがあるのに……何処行ったんだろ?」

 

「先に始めてるとかじゃないのか?」

 

「ううん、風紀委員の見回りは、原則2人一組って決まってるの。1人だと言い逃れられたり逆ギレして暴力振るって来たりするから……」

 

「それは……思いの外危ないな。」

 

「まぁそんな相手は滅多にいないけど……」

 

「……!」

 

「……!」

 

この瞬間、2人の思考が重なった。伊井野ミコは、確かにルールを守る……だが目の前に違反者がいれば、2人一組というルールよりも其方を優先するのではないか? という思考が。

 

「……石上。」

 

「あぁ、伊井野を探すぞ。」

 

僕は大仏を連れ伊井野を探し始めた。

 


 

(石上、さっさと尻尾を出っ……アレはっ!)

 

石上の監視中、私は男子生徒3人が談笑しながら中庭へ入って行く所を目撃した。

 

「んでそん時によぉ……」ポイッ

 

「っ!」

(ポイ捨て!)

 

それを見た瞬間、私の頭から石上の事は消え去り、直ぐに男子達を追い掛ける。

 

「その後アイツが……」

 

「ちょっと貴方! 今ポイ捨てしたでしょ! クラスと名前を言いなさい!!」

 

「あ? なんだお前?」

 

「げっ……コイツ風紀委員の伊井野だ!」

 

「伊井野? あぁ、学年一位の奴か……メンドクセェ奴に見つかったな。」

 

「早くクラスと名前を言いなさい!」

 

「……あれ? そういえばコイツって、今回のテストで……一位……石……」ボソボソ

 

ポイ捨て男は友人に何やら耳打ちされると、意地の悪い笑みを浮かべて私を見た。

 

「……へぇ、なるほどな。あーあ、石上の言う事なら聞いてやっても良かったのになぁ!」

 

「え……?」

 

「そーそ! やっぱ同じ学年一位なら、男の方が発言に重みがあるよなぁ?」

 

その言葉に……ギュッと心臓を鷲掴みにされるような感覚が、私の体に襲い掛かった。

 

「か、関係ありません! 私は風紀委員です! 違反者を注意する権利がっ……」

 

私は風紀委員と刺繍された腕章を取り出し、腕に当てっ……

 

「はい、ゲット〜!」

 

「な!? か、返しなさい!」

 

「へいパース!」

 

「ナイスパース!」

 

「このっ! か、返しなさい!」

 

懸命にジャンプをして手を伸ばしても、私の小さい体では掠りもしない。

 

「ほらほらぁ、取り返してみろよ。」

 

「か、返し……」

 

「よっと、パース。」

 

「……っ!」

(なんで、皆わかってくれないの? 私はただ……)

 

「ほらほら、そんなんじゃ取り返せねぇぜ?」

 

「返し……て……」

 

「だーかーらー! 石上の言う事なら聞いてやるって言ってんだろぉ?」ニヤニヤ

 

ニヤニヤと笑いながら、私を見下ろす3人に恐怖で体が震え始める……

 

「ぅ……」

(皆に……ちゃんとして欲しいだけなのに……)

 

「おい、伊井野の腕章を返せ。」

 

「……は? 何お前?」

 

「……石上?」

(……なんで?)

 

「僕の言う事なら聞いてくれるんだろ?」

 

「お前が石上か……」

 

「さっさと腕章を返せ。」

 

「チッ、カッコつけやがって……お前はウザくねぇのかよ? 小せぇ事で揚げ足取ってグチグチ言って来る風紀委員がよぉ!?」

 

「まぁ……僕も隠れてゲームしてる所見つかって、注意されたりゲーム機を没収されたのは一度や二度じゃないけどさ……」

 

「だったらっ!」

 

「……でも、ムカつくんだよ。」

 

「あ?」

 

「頑張ってる奴が笑われるのは。」

 

「ッ!」

(い、石上……)

 

「いい度胸してんじゃねぇか、こっちは3人……」

 

「コラァア! 何をやっとるかあああ!!!」

 

全員が声のした方に視線を向けると、三階の窓から身を乗り出し雄叫びを上げる教師が目に入った。

 

「ヤッベ!? 生徒指導の先公だ!」

 

「チッ……こっち来る前に逃げるぞ!」

 

「お、おぅ!」

 

3人は持っていた腕章を放り投げると、走って逃げて行った。

 

「……投げるなよ。全く……ほら伊井野。」

 

石上は腕章を軽く手で払って埃を落とすと、私へと差し出した。

 

「あ……そ、その……えと……」

 

「はぁはぁ……石上ありがとう! ミコちゃん大丈夫!?」ガバッ

 

息を切らせて走って来たこばちゃんは、特に問題が無いとわかると安堵の息を洩らした。

 

「はぁー……ミコちゃん、顔赤いけど大丈夫?」

 

「へっ!?」

 

こばちゃんに指摘され、反射的に頬を触り確かめる……熱い。先程の3人に見下ろされていた時は、不安で、怖くて、身体が凍えそうな寒気を感じていたのに……

 

「伊井野、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫。うん、大丈夫……」

 

石上が来て、助けてくれた瞬間から……さっきまで感じていた寒気は消え去り、私の身体はポカポカとした暖かさに包まれていた。

 

「伊井野……保健室行くか?」

 

「ほっ……保健室!?」

(わ、私とっ!?)

 

「気分が悪いならベッドで横にでも……」

 

「ベッド!?」

(そ、そんなっ、いきなり!?)

 

「不安なら大仏も一緒に……」

 

「さ、3ぴっ…ムグッ!?」

 

「ストップミコちゃん、それ以上は本気で後悔するから言わない方がいいよ。」

 

「……ホントに大丈夫か?」

 

「そ、その……」モジモジ

 

「あー、ミコちゃんは私が連れて行くから。石上、今日はありがとね……ほらミコちゃんも。」

 

「あ、うん。その……石上、ありがとう。」

 

「気にするな、じゃあ僕は帰るよ。」

 

「うん、また明日ね。」

 

「ま、また明日……」

 

「またな。」

 

帰っていく石上の背中が小さくなった頃……

 

「じゃあミコちゃん、何があったか洗いざらい喋ってね? 主に……石上が来てからの事を。」

 

「え、えぇぇぇ……」

 

伊井野ミコの災難は終わらない。

 




長くなってしまった。・゜・(ノД`)・゜・。

大仏に続き伊井野でも石上が主人公ムーヴを……

まぁ精神年齢17歳の石上からしたら、イキッた中3とか怖くないんでしょうけどね…

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