去年の奉心祭に決意してから早9ヶ月、高等部は夏休みを終え二学期に入った。その間、石上とは良好な関係を続けて来れたと思う。ただ、最近気付いた事がある。それは……
石上は女子の知り合いが多い。私達みたいに同じクラスの女子や大友さんはまぁわかるけど、何故か年上の知り合いが多い。龍珠先輩は奉心祭の時に会ったし、ダブルデートの件も後で事情を聞いたから別にいいし、生徒会の先輩も一緒に仕事してるから仲が良いのもわかるけど……知らない間にマスメディア部の先輩とか、ギャルっぽい先輩とか増えてるのはどういう事なの?
別に全員が恋愛感情を持ってる訳じゃないんだろうけど……それでも少しは自重して欲しいというか、嫉妬してしまう私はイヤな女だと思う。
「なんで眼鏡外して迫んないの?」
相談というよりは愚痴に近い事を言っていた私に、小野寺さんはそう言った。
「大仏さん、美人だし普通の男ならすぐ靡くと思うけどね。」
「……石上は普通とは違うと思うから。」
「ふーん、まぁ何か理由があるなら無理にとは言わないけどさ。とりあえず石上に恋愛感情持ってる人がどれくらい居るかくらいは把握しておけば?」
「恋愛感情……小野寺さんは誰だと思う?」
「えーと、まずは伊井野でしょ? 本人に自覚があるかは知らないけど……」
「私もミコちゃんに自覚があるかは微妙だと思う、ミコちゃん素直じゃないし……石上から告白されたら普通にOKしそうだけど。」
「あとは……龍珠先輩くらいじゃない? 偶に敷地内で一緒にいるトコ見掛けるし、喫茶店で2人でいるトコ見たって人もいるし。」
「それだけ? 大友さんとか柏木先輩は?」
「大友さんは無いよ、断言してあげる。」
「そうなの……?」
「まぁ、ね……」
うん、単純にタイプじゃないんだー。
「……」
(お願いだから石上も、大友さんだけは好きにならないで欲しいわ。)
「それなら柏木先輩は? ダブルデートの事もあるし、可能性はあると思うけど……」
「個人的にそれは勘弁して欲しい……」ガタガタッ
(水族館の時メッチャ怖かったっ……)
「えぇー、何かあったの……?」
「それは……まぁ置いといて。他にマスメディア部と生徒会の先輩はないね、あくまで先輩後輩としての関係だと思う。偶に泣いてる藤原先輩と石上が一緒にいるのは……まぁいいとして、あとはそのギャルっぽい先輩? 私はまだ見た事ないけど、最近知り合ったんならそこまで親しくもないでしょ。」
「だと、いいけど……」
「……次の奉心祭で告るっていうけどさ、そんなん待たないで告っちゃえば良くない?」
「うん……でも心の準備とか色々あるし。」
「まぁ、無理強いするものでもないけどさ……石上は良い奴だし、知らない内に取られない様に気を付けなよ。」
「……うん、気を付ける。」
小野寺さんと別れた直後、廊下を歩いていると教室の出入り口で石上と出会した。
「大仏、今から委員会か?」
「うん、石上は今から生徒会?」
「おう、今月で生徒会も終わりだし、色々片付けておかなきゃいけない仕事とかあってさ。」
「ふーん……石上はさ、次の生徒会長に立候補したりしないの?」
「僕が? ないない、器じゃないよ。」
「そう? 結構向いてると思うけど……石上はさ、困ってる人が居たら助けてあげられる人でしょ? 普通の生徒からすれば、そういう人に生徒会長になってもらいたいと思うよ?」
「……そんな事言っていいのか? 伊井野は今年も立候補するんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど……」
「僕は味方になれないから、大仏が支えてやってくれよ。」
「え? 味方になれないってどういう事?」
「……その内わかるよ。」
石上はそれだけ言うと、歩いて行ってしまった。
「……?」
(その内? 何かあるのかな……?)
生徒会業務終了後……
スマホが振動するのを感じて画面を開く。
「……」
呼び出しの連絡だ……僕は最近訪れる様になった場所へと、足を踏み入れた。
〈バッティングセンター〉
「うーっ! 超恥ずかしかったし!」カキーン、カキーン
「……」
(うわぁ、もう既に出来上がってる……)
「せめて1ヶ月はあれば絶対イケてたし!」カキーン
「お、お疲れ様でーす。」
「来たんなら早く打つし!」
「あ、はい。」ブンッ、ガスンッ
「全然ダメだし! 男ならもっと豪快に行けし!」
「手厳しい!?」
(秀知院の制服の時はギャルモードなのか。)
「HR打つまで帰るの無し!」
「えええっ!? ハードル高っ!?」
「文句言うなし!」
本日の勝敗、石上の敗北
自身のうっかり発言が原因で、そこそこの頻度でバッティングセンターに呼び出される様になった為。