9月某日……2学期になり数日が経ったある日、生徒会室には2人の少女が居据わっていた。1人は生徒会副会長四宮かぐや、そしてあとの1人は……
「それでね……夏祭りの時、翼君はずっと手を繋いでくれてね? その、所謂恋人繋ぎって奴を……」
「……」
「履き慣れてない下駄だったから、転びそうになったんだけどね?」
「…」
「咄嗟に翼君が繋いでた手を引き寄せてくれて、そのまま……抱きしめてくれたの!」
「」
「とにかく、最高の夏休みだったの!……おば様は、夏休みどうだった?」
「そ、そうですね……」
(眞妃さん……貴女、夏休み前はそんな感じじゃなかったでしょう!? なにやら纏う空気がとても柔らかくなっていますし、それどころか目も凄いキラキラしていますし!)
四条眞妃! この夏休み期間、四条眞妃は恋人である田沼翼と良好なお付き合いを続けていた。会う頻度自体は、他の友人達と大差ないがその時間を大切に過ごして来た事により、最大の欠点であるツンの要素が薄まっていた。コレもひとえに、田沼翼が石上優からのアドバイスを真摯に受け止め、変わらない優しさで接し続け、言葉の裏を読む努力をした結果である。
(もうーっ! 私でも会長と恋人繋ぎしたり、抱きしめられた事なんてないのにっ!!)
惚気られる立場からすると、たまったものではないが……
「そうですね、私も……生徒会の皆と、花火を見る事が出来ました。」
「……そ、なら良かったわ。」
「眞妃さんは、その……彼氏さんとは何処まで?」
「……き、キスまでっ!」
「そ、それはっ……些か早すぎるんじゃ!?」
※個人の意見です。
「えぅっ……わ、私もちょっと早いかなと思ったんだけど、でも急だったし……」
※個人の意見です。
「そうです、早いです! もっと自分を大事にするべきです!……ち、因みにどうでした?」
「……え? 何が?」
「だ、だからっ……き、キスがですっ!」
「とりあえず、すごかった……!」
「……ぐ、具体的にはっ!?」
「頭がボーッとして、今までにないくらい顔が熱くなっちゃって……一瞬しか触れてなかったのに、唇の感触は凄い残ってるの……」
「はわっ……」ドキドキッ
「も、もう! おば様ったら、あんまり恥ずかしい事言わせないでよ!」
「す、すいませんっ……」
(もし、会長にキスされたら……)
「ま、まぁ別にいいけどっ……」
(思い出したら、また恥ずかしく……)
「「……ッ!」」ドキドキッ
※余談だが……高校生の付き合ってからキスまでの平均期間は、凡そ1ヶ月である。
〈中庭〉
「僕に相談事……もしかして、マキ先輩と上手くいってないんですか?」
「ううん、そんな事ないよ……寧ろ上手く行き過ぎ? みたいな感じかな。」
「じゃあ、なんで相談を?」
(……相談風自慢かな?)
「その、実はさ……初体験ってさ、キスからどれくらいの間を置いてするものなのかなって。」
「」
「ご、ごめんね。こんな事年下に相談する事じゃないんだろうけど……」
「あぁいや、気にしないで下さい。ちょっと面食らっただけなんで……」
(うわぁ、なんか……うわぁ……)
石上は、親しい人間の性事情は聞きたくないという、あの感情に苛まれた。
「そうですね……やはり、時間どうこうよりも相手がどう思っているかが大事だと思います。」
「相手がどう思っているか……」
「はい。男と比べて女性の負担が桁違いに大きい行為ですし、何よりマキ先輩はその……凄い奥手なタイプですし。」
「あんまりガッツかない方が……いいよね?」
「そうですね、下手したら婚前交渉は良しとしない可能性もあります。」
「えぇっ!? そこまでっ!?」
「まぁ、男の方も辛いとは思いますけど、頑張って耐えて下さい。」
「う、うんっ! マキちゃんに無理はさせたくないし、耐えて見せるよ!」
「……お願いします。」
(コレで、暫くは悩まされないで済むかな。)
………
「……」トボトボ
(友達の性事情の相談とか、地獄かと思った。)
「……」トコトコ
「……」トボトボ
(別にマキ先輩に恋愛感情がある訳じゃないけど、コレが脳が破壊されるって奴か……)
「……」トコトコ
「……」トボトボ
(それに、マキ先輩と翼先輩が神ったりしたら、柏木先輩が柏鬼先輩にならないか心配になるわ。まぁマキ先輩なら神ったとしても、友達を蔑ろにはしないと思うけど……)
「……石上君。」ポンッ
「えっ? か、柏鬼……柏木先輩!? 一体どうしたんですか!?」
「今なんで言い直したの?……まぁいいや、責任取ってもらいに来たよ。」ニコッ
「」
「石上君、言ったよね? もし眞妃が私から離れたりしたら、責任取ってくれるって。」ユラリ
「ちちちちちょっと待って下さい! マキ先輩がそんな簡単に友達と距離を置くなんてっ……」
「私も本当は嫌なの……ごめんね?」
「滅茶苦茶不穏な謝り方しないで下さい! じ、事情っ! 事情を話して下さい!」
「いいよ……去年までの夏休みは、週に3〜4回は会う機会があったの。でも、眞妃に彼氏が出来た今回の夏休みは、会う機会が2〜3回に減ったの……ここまで言えば、もうわかるよね?」
「……当たり判定厳し過ぎません?」
本日の勝敗、石上の敗北
なんとか説得する事に成功したが、余計な気苦労を負った為。