石上優はやり直す   作:石神

66 / 210
大仏こばちは近付きたい

 

〈選挙戦当日〉

 

「石上くん、どうしたんですか? 選挙前に皆に頼みたい事があるなんて。」

 

「……今日の選挙、皆さんには本気で臨んで欲しいんです。」

 

「もちろん手は抜きませんけど……事前調査では私達、8割近くの票を獲得していますよ?」

 

「何かあるんですか?」

 

「いえ、今日の選挙は僕達が確実に勝ちます。只、勝ち方に拘るだけです。会長には既にお願いしてありますけど……」

 

「あぁ、俺もその件は了承している。伊井野ミコに全力を出させて勝つ、だろ?」

 

「はい、お願いします。」

 

「ねぇ石上君……貴方はどうして、そこまでするのかしら?」

 

「……全力を発揮した上で負ける、その経験が伊井野には必要だと思ったからです。そして会長なら、伊井野に全力を出させた上で勝てると……信じているからです。」

 

「そう……石上君がそこまで考えての行動なら、私も乗ってあげます。」

 

「私もーっ!」

 

「……ありがとうございます。」

 

………

 

「……ミコちゃん大丈夫?」

 

「うん……大丈夫。」

 

〈立候補者と応援演説者の人は、準備をお願いします。〉

 

「すぅ……はぁ……」

 

「こ、こばちゃん、頑張って!」ギュッ

 

「……うん、頑張る。」

 

アナウンスで呼ばれた大仏が舞台へと上がった。

 

「……始まるな。」

 

「えぇ……」

 

「スゥ……伊井野ミコは、とても真っ直ぐな女の子です……」

 

「……淀みもなく、よく出来た演説だな。」

 

「でも一般生徒からすれば、選挙演説なんて退屈なだけ……真面目に聞いてる奴なんて半分程度でしょう。」

 

「……ご静聴ありがとうございました。」トボトボ

 

「……お疲れさん。」

 

「石上……」

 

「良い演説だったよ。」

 

「うん、ありがとう……でも、殆どの人は聞いてなかったかもね。」

 

「ま、仕方無いよ。普通は選挙演説なんて真剣に聞かない。四宮先輩でもなければ……な。」

 

「え? それってどういう……」

 

〈キィーーーン〉

 

「え? 今のって、ハウリング?……まさか、わざと?」

 

「あぁ……皆には手を抜かない様に頼んだ。」

 

「え、石上……?」

 

「きっと……此処で会長に負ける事が、伊井野には必要だと思うから。」

 

「そっか……石上ってさ、偶に全部わかってて行動してる感じするよね。」

 

「……ハハ、そんな訳無いだろ。」

 

「……続きまして、伊井野ミコさんの立候補演説です。」

 

「ミコちゃん……」

 

俯いて舞台の上へと上がる伊井野を……大仏は心配そうに見つめている。

 

「大丈夫だよ。」

 

「石上……」

 

「私の、名前は……」ボソッ

 

「え? なんて?」

 

「マイクトラブル?」

 

「ミコちゃん……」

 

舞台に上がり演台の前に陣取っても、俯いたままの伊井野に……徐々に会場はざわつき始める。

 

「……もういいだろ、時間の無駄だ。」

 

「ま、まだ……」

 

「今の時代に強制坊主……くだらないな。どうした? 反論があるなら俺の目を見て言ってみろ。」

 

「わ、私はっ……」

 

「石上っ……」ギュッ

 

「ちゃんと、見ててやれよ。」ポンッ

 

「……っ! この公約は、全然くだらなくありません!!いいですか、こちら各名門校のブランドイメージのアンケートです!」

 

「……ッ!」

(嘘、ミコちゃんが……)

 

「我々秀知院の生徒は、世間から偏差値だけのボンボン共! そんな目で見られているのです!!」

 

(言いたい事が言えてる!?……そうか、今は白銀さんしか見てないから……)

 

「な、大丈夫だったろ?」

 

「……石上は、こうなるってわかってたんだね。」

 

「あぁ、まぁな。」

 

「カッコいいでしょ、坊主頭はーーーっ!!」

 

「あはは……ミコちゃん、全校生徒の前で坊主フェチって宣言しちゃったよ。」

 

「はは、まぁいいんじゃないか? 言いたい事言えてるなら。」

 

「うん……そうだね。」

 

伊井野と会長の討論は時間内に終わる事は無く、30分延長し終了した。

 


 

〈生徒会長選挙結果〉

 

白銀御行 328

 

伊井野ミコ 282

 

「負けた……」ショボン

 

「ミコちゃん……」

 

「2人共、お疲れ。」

 

「石上……」

 

「惜しかったな、演説……良かったぞ。」

 

「うん……ありがと。」

 

「石上は、そのまま会計続けるの?」

 

「あぁ、そのつもりだよ……それと、会長から2人に話があるってさ。」

 

「選挙も終わって早々に悪いな……2人共、生徒会に入るつもりはないか? まだ生徒会長を目指すなら、実地で学んでおいた方が良いだろう。」

 

「……」

(……ミコちゃんと違って、私は生徒会には興味が無い。単にミコちゃんの応援がしたいから、応援演説を引き受けただけ。でも……)

 

「ん? 大仏どうかしたか?」

 

「その……」

(石上と一緒の生徒会……生徒会役員は生徒会長の指名制。ここで断ったら、もうこんな機会は無いかもしれない……私は、もっと石上に近付きたい!)

 

「返事は今直ぐじゃなくても良いが……」

 

「は、入ります!」

 

「え……」

(あれ? 前は興味無いって言ってたのに……何か心変わりでもあったのか?)

 

「こばちゃんっ!?」

 

「わかった、伊井野はどうする?」

 

「わ、私、生徒会誘われたの初めてで……でも、その……」

 

「私も書記続投するんですよー!」

 

「入ります!」

 

「そ、そうか……伊井野は会計監査、大仏は庶務として……これからよろしく頼む。」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「……これからよろしくな、2人共。」

 

「うん……よろしくね、石上。」

 

「……よろしく。」

 

「では、生徒会最初の仕事だ……体育館の椅子を片しに行くぞ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

………

 

〈保健室〉

 

「まさか、あんな遣り方で演説を続けるなんて思わないじゃない!」

 

「まぁ、優しい会長さんなら見て見ぬ振りはしないでしょうし……かぐや様は何が不満なんですか?」

 

「そ、それはっ……」

 

「イヤーン、会長! 私以外に優しくしないでー(かぐや声真似)って事ですか?」

 

「そ、そんな訳ないでしょう!? 大体なんで会長はお見舞いに来ないの!? 私が倒れたと聞いたら何をおいても駆けつけるべきなんじゃっ……」

 

「あー、ハイハイ。」

 

白銀御行が保健室を訪れるまで、後10分。

 


 

〈翌日〉

 

「さぁ、長かった選挙戦も無事終了した。二学期は体育祭に文化祭! 年明けには修学旅行と色々忙しい……気張って行くぞ新生徒会!」

 

「「はい!」」

 

「新メンバーも2名加入しての新体制だ、よろしく頼むぞ!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

生徒会、新メンバー2名獲得。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。