期末テスト発表から数日後……
夏休みまで2週間を切ったある日の午後、石上優は風紀委員会が使用する空き教室を訪ねていた。
「失礼します、ウチのクラスのアンケート用紙持って来ました。」
「はい、用紙はそこの机に……って石上!? な、なんでアンタが……」
「担当の奴が体調不良で早退したから代わりに持って来たんだよ。」
「ふ、ふーんそうなんだ……」チラチラ
「伊井野1人か?」
「こばちゃんがもうすぐ来るわよ。」
「ごめんミコちゃん、お待たせ。」ガラッ
「よう。」
「あれ? 石上どうしたの?」
「アンケート用紙持って来ただけだよ。」
大仏の問いに、ひらひらと紙を振りながら答える。
「あーなるほど。ごめんね、お茶くらい出してあげたいんだけど……」
「別にいいよ、それより忙しいのか?」
「忙しいなんてもんじゃないわよ。今日は先生も会議だし、他の風紀委員も用事で居ないから私とこばちゃん2人でやらなきゃいけないのよ。」
「ホントにねぇ、今日中にこのアンケート結果をパソコンにまとめなきゃいけないし……」
「僕、手伝おうか?」
「「え?」」
僕の提案に2人は目を見開いた。
「あー……なんか手伝いを催促したみたいになっちゃったかな? その提案は嬉しいけど……流石にそれは石上に悪いよ。」
「そ、そうよ! それに風紀委員でもない石上に余計な負担が……」
「でも期限は今日中なんだろ?僕こういうの少し得意だから役に立つと思うけど?」
「うっ、でもそれは……」
「……ミコちゃん、せっかく石上がここまで言ってくれるんだからお願いしようよ。」
「……こばちゃんが言うなら。」
「じゃあ決まりだな、早速始めよう。」
大仏からアンケート用紙を受け取ると、早速仕事に取り掛かる。
「……」カタカタ
「……」カリカリ
「……」カタカタ
少しの間、キーボードを打つ音とペンを走らせる音が教室に充満する。
「ねぇこばちゃん、此処って……」
「……よし、終わったぞ。」
「え?」
「えぇっ!? う、嘘でしょ!? そんなに早く終わるわけが……」
「……ミコちゃん見て、ちゃんと終わってる。」
「嘘ぉっ!?」
マジである。この男、逆行前は秀知院学園高等部の生徒会を影で支えていた情報処理のエキスパート! 質実剛健、聡明叡智と謳われる生徒会長、白銀御行からも……
石上が居なくなれば生徒会の仕事は破綻する
とまで言わしめ絶大な信頼を得ていた男。中学の委員会程度の書類処理ならば朝飯前なのである。
「……石上凄いね。こういうのが得意って言うだけあるね。」
「役に立てたようで良かったよ。」
「ふふ、本当助かったよ。ね、ミコちゃん?」
「くぅっ、私よりわかりやすい……悔しい!」
「もう、ミコちゃんは……」
「なぁ……この書類この後どうするんだ?」
「コピー取って高等部の生徒会に持って行く事になってるわよ。」
「高等部の生徒会……?」
「何よ? 流石にそこまで石上にやらせたりはしないわよ?」
伊井野の言葉を聞き流す石上の頭の中に、かつての生徒会メンバーの姿が浮かぶ。
「……なぁ伊井野、その出来上がった書類僕が届けちゃダメかな?」
都合良く会えるとは限らない。だけど、もしかしたら会えるかもしれない……その思考が、伊井野への言葉を繋げる。
「え、なんで? 石上にそこまでさせる訳には……」
「いや僕がしたいんだ、頼む。」
「うーん、私達はやってくれると助かるけど……ミコちゃんどうする?」
「まぁ……いいけど。」
「じゃあ早速持って行くよ、2人共お疲れ。」
僕は書類をまとめ終わると、足早に教室を出て行った。
「変なの、関係ないのに態々自分から書類持って行くなんて……それにあんなに急がなくたって……」
「……ミコちゃん寂しいの?」
「はっ、はぁっ!? そ、そんな訳ないでしょ!」
「本当? あわよくば2人っきりの教室で……」
ねぇ石上、この前のお礼……何がいい?
お礼か……お礼ならコレがいいな……
少年は少女の唇を軽くなぞり顔を近付けると……
「そんな事する訳ないでしょおおお!!? なんでお礼でキスする羽目になってるのよ!?」
「私的には結構熱いシチュなんだけど……」ポッ
「あなたの趣味は知らないけれど!」
僕は教室を出ると、無意識のうちに歩く速度は徐々に早くなって行く……
「……」
(確か、会長は1年の時は庶務として生徒会に居たって言ってた……もしかしたら会えるかもしれない!)
少しの不安と大きな期待を胸に、石上は高等部へと走って行った。