石上優はやり直す   作:石神

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石上優は確かめたい

 

〈生徒会室〉

 

「何これ、少女漫画?」

 

机の上には数冊の本が並べられていた。僕はパラパラとページを捲る眼鏡の少女に訊ねる。

 

「此処に来る途中に没収したの。ミコちゃんも一緒だったんだけど、没収品リストの書類を風紀委員室まで取りに行ってる。」

 

「へー……それ、面白い?」

 

「読む?」スッ

 

つい先日、〈今日はあまくちで〉という少女漫画で盛り上がった生徒会である。未だ少女漫画に対する興味は継続中……石上は二つ返事で差し出された漫画を受け取る。

 

「まぁでも〈今日あま〉レベルの漫画はそうは無いだろうけど……」

 

ネタバレこそしないで済んだ、先日の生徒会〈今日あま〉旋風だが……

 

まぁ、僕コレ読むの2回目なので、どうなるかわかってるんですよね……

 

ほらほら、前はこのシーンでうるっと来たんですよ。今思えばお約束過ぎるっていうか……

 

に……2回目なのにっ、悔しいぃっ……

 

結局ダメだった。

 

「……」パラパラ

 

「お疲れー。」

 

「あ、白銀会長、お疲れ様です。」

 

「おう……石上は漫画読んでるのか?」

 

「はい、ミコちゃんが没収した少女漫画を。」

 

「ほう、少女漫画か……また随分と集中して読んでるみたいだな。」

 

「……」パラパラ

 

いいですか、主人公ちゃん! 気になる人が他の子とイチャイチャしてる所を想像して見て下さい!

 

「……」パラ

 

こばち……

 

風野先輩……

 

「……ッ」イラッ、モヤッ

 

もしそれでイライラしたり、嫌な気持ちになったらその子の事が好きって事なんですよ!!

 

「はぁっ!?」

 

「え、何?」

 

「んんっ!?」

 

「いや、なんだよ。」

 

「あ、すいません会長。来てたんですね……」

 

「あぁ、随分集中していたみたいだな……そんなに面白いのか?」

 

「えっ、えぇ、そうですね……」チラ

 

「石上、どうしたの?」

 

「……なんでもないよ。」

 


 

〈中庭〉

 

「石上君から話があるなんて珍しいね。」

 

「すいません、ちょっと翼先輩に聞きたい事がありまして……」

 

「全然いいよ、いつもは僕が相談に乗ってもらってるんだからさ……それで、聞きたい事って?」

 

「えーと、翼先輩はマキ先輩と付き合い出してそろそろ半年くらいですよね?」

 

「うん、来週で半年だね。」

 

「マキ先輩を女性として意識したり、好きだと自覚するのってどういう時ですか?」

 

「えぇっ!? うーん、そうだなぁ……マキちゃんは女友達と一緒に居る時は結構ズバズバ言ったりしてるのに、僕と一緒に居る時は借りてきた猫みたいに大人しくなったり、何気無い仕草が可愛いかったり、一緒に居て笑った顔を見た時に……ずっと傍で笑ってて欲しいなって思った時かな?」

 

「ずっと傍で……」

 

「石上君はそういう子、いないの? ずっと一緒に居たいとか、自分に笑い掛けて欲しいとか、この人だけは守りたいっていう子がさ。」

 

「……そう、ですね……」

 

ふふ、ありがと石上。

 

「僕は……」

 

守ってくれて、ありがとね。

 

「……どう、なんですかね……」

 

「わからない時は難しく考えずに、自分の気持ちを吐き出してみたら? 僕で良かったら聞くよ?」

 

「自分の気持ちを……僕、大分前に振られた事があるんですよ。その人を振り向かせる為に勉強やスポーツを頑張って、でも結局ダメで……」

 

「そうなんだ……」

 

「はい……で、その人は泣きながら謝るんですよ。ごめんなさい、優君は悪くない、私が臆病だからって……何度も何度も。」

 

「……」

 

「僕が好きになった所為で……結果的にその人を泣かせる事になってしまった訳じゃないですか。だから……」

 

「違う。」

 

「えっ?」

 

「僕はその時の詳しい状況はわからないけどさ、石上君が精一杯頑張って……少しでも好きになって貰いたくて色々やってたんでしょ? マキちゃんと付き合う様になったからわかる事だけど……人を好きになって、その人に自分を好きになって貰う為の努力をし続けるって……とても大変な事だと思うんだ。だって頑張っても相手が自分を好きになってくれる保証がない、不安で怖くて本当にこのままでいいのかもわからない状況で頑張り続ける……きっと凄く大変な筈だよ。その子も石上君の頑張りをちゃんとわかってて……でも気持ちに応える事が出来ない事を凄く……それこそ、泣く程悔やんでいたって事だと思うんだ。」

 

「翼先輩……」

 

「だから……石上君、好きになった所為で泣かせたとか思わなくていいんだよ。いや、絶対に思っちゃダメだ!」

 

「……ッ」

 

「それにね、今石上君が気にしている子は……このまま君が何もしなければ、違う男の所に行ってしまうかもしれないんだよ?」

 

「ッ!」

 

「石上君、君はそれで良いの? 本当に大事な人なら……絶対に自分から離れちゃダメだ、気持ちを誤魔化して好きになる事を怖がっちゃダメだ。」

 

「好きになる事を……」

(そうか……僕は怖かったのか……あの日、つばめ先輩にフられて……泣かせてしまって……人を好きになる事を、心の何処かで……)

 

「……」

 

「翼先輩……色々話聞いてくれて、ありがとうございました。」

 

「うぅん、気にしないで。その代わり今度話す時は、マキちゃんとの惚気話を大量に用意しておくからね。」

 

「ははは、それは勘弁っす。」

 

場を和ませる為に冗談を言ってくれた翼先輩を残し、僕はその場を去った。

 


 

〈校庭〉

 

〈フレーフレー赤組!〉

 

〈フレッフレッ赤組、フレッフレッ赤組!〉

 

「あ、石上……」

 

グラウンドの一角に陣取った応援団の中に、汗を流しながら練習に励む石上を見つけた。

 

「……」

(頑張ってるなぁ、でも石上は応援団とかするタイプには見えないのに……)

 

〈心を燃やす、情熱の赤!〉

 

「……よーし! 一旦休憩するぞー! 各自水分補給キッチリな!」

 

「「うーす。」」

 

「……」

(何かあるのかな……?)

 

「やっほ! 大仏ちゃん。」

 

「つばめ先輩……」

 

「中等部以来だね? アレからどう? 私も色々話は聞いてるけど……」

 

「そう、ですね。最近は学校も楽しいです。」

 

「そかそか、卒業した後も心配だったから安心したよー。」

 

辛い時は頼ってよ、とりあえず味方してあげるからさ。

 

そう言ってくれたつばめ先輩が卒業してしまって……コレでまた、味方はミコちゃん1人しか居ないんだなと思ってた。でも……

 

うるせぇ、ばーか。

 

私を……助けてくれる人が現れた。

 

「……助けてくれた人がいるんです。何の得にもならないのに、守ってくれた人が……」

 

「……それって石上君?」

 

「えっ!? なんで知って……」

 

「いやー、結構話を聞くんだよね……去年中等部で起きた事件の事とか、それに付随した噂話の事とか……ね、団長?」

 

「ん? あぁ、事件の話は俺も知ってるぞ。」

 

「そうですか……あの、石上は生徒会に入ってるのに……風紀委員の仕事も手伝ってくれてて、結構無理して頑張り過ぎちゃう所があると思うので、その……」

 

「うん、大丈夫。ちゃんと見とくから。」

 

「団員が無理しない様に気をつけるのは団長の仕事だ、安心してくれ。」ポンッ

 

「はい……お願いします。」

 

………

 

「……」ジーッ

(団長、ちょっと大仏と距離近過ぎません? 何肩ポンとかしてるんですか? この頃から既に狙ってたんですか? 言っておきますけど、僕はもう遠慮も誤魔化しも怖がりもしませんからね。)

 


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