石上優はやり直す   作:石神

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生徒会は勉強したい

 

〈生徒会室〉

 

「……今日から暫く、生徒会も試験休みを取ろうと思う。」

 

11月もあと数日で終わろうとしていたある日の生徒会、白銀御行の発言に室内の視線が集まった。

 

「あら? 今までは試験前でも、通常営業でしたのに……」

 

「まぁ生徒会も人数が増えたからな……多少の休みを取っても後で挽回出来るくらいの余裕はある。各自、試験勉強に集中してくれ。」

 

「会長……ちゃんと皆の事考えてくれてるんですねー!」

 

「ハハハ、当然だろう。」

 

嘘である。この男、他人に対する配慮のつもりは一切ない! 何を隠そうこの男、四宮かぐやが近くに居るとチラチラと見てしまい勉強に集中出来ない。二学期に入り、生徒会長選挙や体育倉庫イベントに始まり、最近ではスマホを入手したかぐやとメッセージのやり取りをする様になり、心は乱される一方。一位維持の為にも、テスト期間中は想い人と距離を置くという苦肉の策を弄する白銀であった。

 

「確かにそうですね、私達2年は進路にも影響する大事な試験ですし……家で静かに勉強した方が集中出来ますしね。」

 

嘘である。この女、家では全く勉強に集中出来ていない。つい先日、スマホを入手し手軽にメッセージのやり取りが可能になったかぐやである。勉強していてもスマホが気になり、チラチラと見てしまいメッセージが来たら来たでテンション爆上げ状態となり、勉強そっちのけで返信内容を考える為、家では一切集中出来ていなかった。

 

「……こういう時期だからこそ、追い詰められて悩みを抱える人も多いと思いますけど、皆さんが言うなら私は従います。」

 

嘘である。この女、心の底からやったぁ! と思っている。伊井野もまた、白銀と同様学年一位の重圧に耐える人間である。最近では、小等部からの付き合いである大仏こばちだけでなく、中等部からの友人である小野寺麗や大友京子とテスト期間中に集まって勉強する機会も出来ていた。友人と集まって和気藹々と楽しく勉強する時間は勿論大切だが、1人でする勉強時間の確保は伊井野にとっても有難い話であった。

 

「……」

(悩みっていうか、闇を抱えてる伊井野が言うと凄い重みがあるな……)

 

「私も今回の試験はちゃんとしないと、お小遣い減らされちゃうんですよねー。」

 

嘘である。この女、お爺ちゃんからもこっそりお小遣いを貰っている。孫を甘やかしたい祖父とお小遣いが欲しい孫……完全な利害の一致である。

 

「……」

 

「大仏、どうしたんだ?」

 

「うん……私も生徒会メンバーとして、もっと勉強頑張った方が良いのかなって……」

 

「そんな気にする必要は無いんじゃない?」

 

「そうだな……大仏庶務、別にそこまで気にする必要はないぞ?」

 

「そうですよ! 私なんてテストの点が下降の一途を辿っても、全然気にしてませんよ?」

 

藤原は友人にギガ子という留年経験者が居るにも関わらず、一切の危機感を感じていなかった。

 

「えぇ……」

 

「そこは気にしろよ。」

 

「藤原さんは、もう少し頑張った方がいいわよ。」

 

「藤原先輩と同じクラスになるのは勘弁して欲しいので、頑張って下さいね。」

 

「石上くんは私の事バカにし過ぎですから!」

 

「そうよ、石上! それに藤原先輩は、只の勉強に縛られる様な存在じゃないのよ!」

 

「ミコちゃーん!」ダキッ

 

「……でも、私は藤原先輩と同じクラスになれたら嬉しいですよ?」

 

「」

 

「……もしそうなったら、タメ口でいいですか?」

 

「いい訳ないでしょ!……っていうか、なりませんから!!」

 

「あ、会長……生徒会室で勉強するのはアリですか?」

 

「ん? あぁ、別に構わんぞ。戸締りだけ気をつけてくれればな。」

 

「あざっす。」

 

「石上くん、家で勉強しないんですか?」

 

「まぁ、色々誘惑も多いですからね……」

 

「あー、普段見ないテレビとかつい見ちゃいますよね……あと、片付けが異様に捗ったり……」

 

「あら? でも石上君は、1学期から50位以内に入り続けていますよね? 今更誘惑に惑わされたりするのかしら?」

 

「まぁ、学校なら気が引き締まるので。」チラッ

 

「なるほど……そうですね、学校なら気が引き締まりますからね。」

 

「そうですよ……」

(なんか……見透かされてる気がする。)

 

「じゃ、私は帰りますね! それじゃ、また明日!」

 

「……俺も帰るか。」

 

「私もそろそろ……」

 

「じゃあ石上、戸締りは頼んだぞ。」

 

「はい、お疲れ様でした。」

 

「石上君、頑張ってね。」

 

「はい……で、大仏はどうする? 僕で良かったら、勉強教えるけど……」

 

「え、良いの?」

 

「成績の事、気にしてたみたいだし……」

 

「ありがとう……じゃあ、私も残ろうかな? ミコちゃんはどうする?」

 

「……ゴメン、人が居る所で勉強しないって決めてるから……」

 

「そ、そうなんだ……」

(滅茶苦茶この前の事が尾を引いてる……)

 

「まぁ、あんま気にすんなよ……」

 

「えっ、何が? 石上、何かあった?」

 

「いや……そうだな、何もなかったな……」

 

石上は目頭を押さえた。

 

「ミコちゃん……」

(無かった事にしようとしてる……)

 

「じゃあ、私も帰るから……」

 

「お、おぅ……お疲れ。」

 

「ミコちゃん、また明日ね。」

 

「うん、また……」ガチャ、パタン

 

生徒会室を出て行く伊井野を見送る。

 

「ミコちゃん、滅茶苦茶気にしてたね……」

 

「そうだな、会長と四宮先輩に知られなかっただけマシと思うしかないけど……」

 

………

 

「麗〜、帰りどっか寄って帰ろー?」

 

「そだね、ファミレスで勉強でもする?」

 

「うーん……じゃあ、勉強教えてね。」

 

同じ部活の友人と喋りながら歩いていると、生徒会室に明りが点いているのが見えた。

 

「テスト期間なのに生徒会は仕事かぁ……」

 

「……あれ? さっき白銀会長と四宮副会長が帰るトコ見たよ?」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、誰か残って仕事してるんじゃない?」

 

友人のその言葉に疑問が浮かぶ。白銀会長や四宮副会長は、仕事を他の役員に任せて帰る様な人間だろうか……仕事で残っているというよりは、誰かが他の理由……例えば、勉強で残っていると考えるのがしっくりくる。

 

「……」ピッ

 

すぐにスマホを取り出して〈伊井野〉と表示された欄からメッセージを送る。

 

〈今何処?〉

 

1分もしない内に既読が付き、返信が来た。

 

〈家だけど、麗ちゃんどうしたの?〉

 

確定だ。多分……生徒会室には、あの2人が居るのだろう。伊井野の返信になんでもないと返し、友人と帰路に着く。

 

「……」

(頑張りなよ。)

 

最後に振り返って見た生徒会室は、薄暗くなった周囲を照らす様に煌々とした光が灯っていた。

 


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