石上優はやり直す   作:石神

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石上優は攻めたい

最近……気が付けば目で追っている女子がいる。それは……

 

「ミコちゃん、そろそろ風紀委員の見回り時間だから行こ?」

 

大仏こばち……中学3年の4月に逆行して少し経った頃、女子に言い掛かりをつけられている所に遭遇してからよく話す様になった。前回は偶に話すクラスメイト程度の関係だったのが、今回は勉強を教えたり、委員会の仕事を手伝ったり、夏休み等の長期の休みでは図書館で一緒に課題に取り組んだり、夏祭りに一緒に行ったりする仲になった。自惚れでもなく、前回より明らかに仲が良くなったと言い切る事が出来る少女……今回は何か心変わりがあったのか、伊井野と一緒に生徒会へと入って来た。

 

新生徒会が発足し、既に1ヶ月以上が経過した……その間、少女漫画旋風があったり、会長と四宮先輩の一目情事な場面に遭遇したり、体育祭の準備に取り組んだり、借り物競争で一緒に走ったり、伊井野の闇を垣間見たり、合コンゲームで追い詰められたり……ってコレはまぁいいとして! 同級生の中では、間違いなく1番一緒の時間を過ごしたと言えるだろう。そして、翼先輩に相談して気付いた。どうやら僕は……

 

「なるほど、優はその子の事が好きって事ね。」

 

「ん……まぁ、そうですね……」

 

中庭の木陰で寝転びながら洩らした僕の独白に、同じく隣で寝転ぶマキ先輩が答える。

 

「なんでそんなに歯切れが悪いのよ。」

 

「いや……その、友達に恋愛感情を持ったの初めてなので……」

 

「なるほどね……わかる、わかるわー。それで、優はどうしたいのよ?」

 

「一応仲は良い方だと思うので、少しずつでも距離を縮めていけたらと……」

 

「ふぅん? 仲が良いなら2人っきりで出掛けたり、さり気なく優しくしたりすれば良いんじゃない?」

 

「なるほど……」

 

「まぁ変に気負わずに、優はいつも通りで良いと思うわよ。」

 

「いつも通り……そんなので良いんですか?」

 

「大丈夫よ、マキ先輩を信じなさい。」ニコッ

(優しくてお人好しの優ならきっと大丈夫よ。)

 

「わかりました、いつも通りですね。」

 

「でもそうね……いつも通り接するのは周りに人が居る時だけにして、2人っきりの時はちょっと攻めるのもアリかもね。」

 

「ちょっと攻める……例えば?」

 

「そうね……ここまで優しくするのはお前だけ、とかそういう特別感を出すのが良いわね。」

 

「特別感……やっぱり女子視点だと嬉しいモノですか?」

 

「そりゃそうよ! ポロっと洩らす本音とか、普段優しい人が偶に強引になる所とか……凄くドキドキするわ!」

 

「なるほど……参考にしてみます、ありがとうございました。」

 

「ふふ、別にいいわよ……また何かあったら聞きに来なさい。」

 

「はい、じゃあ僕はコレで。」

 

「えぇ、またね。」

 

………

 

「マキ先輩……普段優しい人が偶に強引になる所にドキドキするらしいですよ?」

 

「そうなの? ありがとう、今度やってみるよ。」

 

ちゃっかり情報はリークしていた。

 


 

〈生徒会室〉

 

「今日は仕事も大して無いし、休みにするか。」

 

白銀のその一言で、突如休みとなった生徒会。

 

「ミコちゃーん! この前言ってたスイパラ行きましょうよ!」

 

「あ、良いですね! こばちゃんも行こ?」

 

「あ、ゴメン、今日は用事が……」

 

「そっかぁ、残念……」

 

「そうですか、用事があるなら仕方ないですね……こばちちゃん、次は一緒に行きましょうね!ミコちゃん、今日は私の奢りですから好きなだけ食べて良いですよ!」

 

「わーい!」

 

藤原、自ら地獄の門を開く愚行。

 

「……」

(ミコちゃん、手加減してあげてね……)

 

「それじゃ、また明日ー!」

 

「お疲れ様でした。」

 

「……じゃあ私も失礼します。」

 

「僕も帰りますね。」

 

「あぁ、お疲れ。」

 

「みんな、お疲れ様。」

 

生徒会室に会長と四宮先輩を残し、大仏の隣を歩く……

 

「……途中まで送って行くよ。」

 

「じゃあ、お願いしちゃおうかな?」

 

校舎を出ると、びゅうっという音が耳を撫でた後、冷気を纏った風に体が襲われる。暦は既に12月へと入り、本格的な寒さを身体で感じる季節だ。隣を歩く大仏も体を縮こませて寒さに耐えている。

 

「うぅ、寒っ……もうすっかり冬だねー。」

 

「冬でもスカートなんて、女子は大変だよな。」

 

「校則でスカートの下に体操服着るの禁止されてるから余計キツイよ。」

 

「……それくらいの許可は出しても、良さそうなもんだけどな。」

 

「まぁ、見栄え悪いからね。スカート丈長ければそれ程気にならないし……首元とか今ヤバイけど。」

 

「……コレ、使うか? 」

 

僕はマフラーを外すと、大仏へと差し出す。

 

「えっ!? 」

 

「あ、悪い……嫌だよな、さっきまで僕がしてたマフラーとか……」

 

「違っ!? ちょっとビックリしただけだから! その……ありがと。」

 

「そっか、なら良かった。」

 

「もう、石上……こういう事、他の女子にもやってるの? 優しいのは石上の良いトコだけど、あんまりやり過ぎると勘違いされちゃうよ?」

 

「……」

(本音をポロッと、多少は強引に……)

 

「……石上?」

 

「やってないよ。」

 

「……え?」

 

「大仏にしか、こういう事やってない。」

 

「な、なんで……?」

(そ、それって……!)

 

「大仏は嫌か? 僕にこういう事されて……」

 

「……いやじゃない。」

 

「……なら良かった。」

 

「……ッ」

 

大仏は口元が隠れるまでグルグルとマフラーを巻き始めた。

 

「大仏、マフラー巻き過ぎじゃないか?……そんなに寒いの?」

 

「そう……じゃないけど、いまはこれでいーの!」

 

「まぁ、大仏が良いならそれでいいけどさ。」

 

「うん、良いの。」

 

「じゃあ、行くか。」

 

「うん……!」

(顔が赤いの見られてないよね……少しは期待してもいいのかな?)

 

「……ッ」ドッドッド

(大丈夫か? キモくなかったかな? 本音出し過ぎじゃなかったか!? やっべ、今考えたらやり過ぎな気がして来た……)

 

 


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